オーケストラの人びと | geezenstacの森

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オーケストラの人びと

 

著者:原田三郎

出版:筑摩書房 ちくまプリマ―ブックス34

 

 

 日本にオーケストラが生まれて60年。いまや「世界のN響」として知られるNHK交響楽団も、スタートのレベルは低かった。日本一のオーケストラで演奏できたらと夢見る若ものたちと、今では信じられないようなおかしなエピソードをまじえてつづる、日本のオーケストラ草創期のドラマ。中学生から。---データベース---

 

 あまり聞いたことのない著者だったのですが、タイトルにひかれて手に取りました。ところが読んでいくと、1983年に定年で退職したNHK交響楽団のメンバーを通してのN響の歴史も言及しているなかなか興味深い内容になっていました。

 

 楽員だったメンバーの目を通して語られる新響、日響からNHK交響楽団に連なる等身大の歴史は語られてきた正史ではうかがい知れなかった団員の苦労がしのばれます。ここで登場するN響の歴代常任指揮者の素顔に迫る記述は初めて知ることが多くあります。章立ては次のようになっています。

 

目次

金井さんちの坊や、入団
新響から日響へ
ブラスバンドから交響楽団へ
学校から団員をスカウト
ローゼンストックのカムバック
N響へ、そしてウェス
ウェスの時代
カラヤンの思い出
シュヒター事件
世界の舞台へ
小沢事件をこえて
へんてこな先生の話

 

 これら力時の主人公は定年になった七人です。全員1928年生まれですから1983ねんに退団したことになります。その七人は、ホルンの千葉薫、チェロの藤本英雄、堀内静雄トロンボーンの関根五郎、ヴィオラの島田英康、佐伯俊、そしてコントラバスの窪田基という顔ぶれです。この年、NHK交響楽団の創世記を支えた有力団員は全て姿を消しています。

 

 この本にはその歴史を多とセル懐かしい貴重な写真が数多く掲載されています。N響はその前身が「新響」から「日響」にかわり、1951年に今のNHK交響楽団と名前が変わっています。この本は彼らの目を通してN饗の変遷氏ともいえます。

 

 

 この1951年からはクルト・ヴェスが常任指揮者になりますが、それ以前はローゼンシュトックやケーニヒ、ニコライ・シフェルブラットなどのドイツ・オーストリア系の指揮者が指揮にあたっていました。ローゼンシュトックは戦後も再び来日して指揮にあたり、N響には多大な功績を残しています。

 

 

 小澤征爾のいわゆる「N響事件」について、この本ではN響サイドから見たこの騒動の顛末が語られています。これによると小澤氏は1962年の6月から12月までの半年間の客演を契約しています。この間には東南アジアのツァーも組まれていますが、それを全部指揮する契約と、副指揮者の岩城氏と外山氏は帯同させないとの契約がなされていたようです。遅刻も頻繁にあり、具合が悪いからと練習をすっぽかしたりといろいろな事件が起こっています。この問題は、お互いが大事にしているもののズレ、培われてきた文化の違いが如実に現れていること、さらに双方のプライドが非常に高く、どちらも折れなかったことが問題を大きくしたようです。まあ、詳しくはこの本を読んでいただいた方が客観的な判断ができるでしょう。

 

 ところで、翌年の1963年にはマルティノンが来日しています。下の写真はマルティノンがヴァイオリンを弾いているとキャプションではなっていますが、どうなんでしょうかねぇ?ここでの表記はマルチノンとなっています。
 

 

 アンセルメは1964年にN饗を振っています。興味深いスナップです。

 

 

 下はカラヤンが単身で来日し、N饗を振った時のスナップです。一回の講演のギャラガ当時の金額で100万だったと記載があります。

 

 

 エッシェンバッハは1954年から1956年にかけてN饗を振っています。

 

 

 シンフォニー・オブ・ジ・エアーとN響が合同でコンサートを開いていたとは知りませんでした。ホルンに千葉薫氏の姿が確認できます。

 

 

 エッシェンバッハの後を継いだロイブナート共演する千葉薫氏。

 

 

 NHK交響楽団の前進は日本交響楽団、更にその前進は新交響楽団で、近衛秀麿が1926年に創設しました。日中戦争が1937年に始まりますので、戦前のオーケストラの歩みは戦争と共にあったといって過言ではありません。それでなくてもオーケストラの運営は厳しいのに、戦争の中にあって、人々は貧乏に苦しみました。しかし、先人は大変な苦労をして、オーケストラを守り抜いてきました。戦後最初の日本交響楽団の演奏は1945年10月に行われています。あの混乱の中で奇跡的なことと思います。

 

 そういうノスタルジックな時代を感じることができるこの本は、貴重な写真とともに一度は目を通してもいいのではないでしょうか。