ズーカーマン/メータ
ブルッフ、ラロ
曲目/
Bruch: Violin Concerto #1 In G Minor, Op. 26
1. Vorspiel: Allegro Moderato; 2. Adagio 17:28
3. Finale: Allegro Energico 7:08
Lalo: Symphonie Espagnole, Op. 21
4 Allegro Non Troppo 7:49
5. Scherzando 4:19
6. Intermezzo 6:15
7. Andante 6:47
8. Rondo: Allegro 7:02
ヴァイオリン/ピンカス・ズーカーマン
指揮/ズビン・メータ
演奏/ロス・アンジェルス・フィルハーモニー管弦楽団
録音 1977/12/05 ドロシー・チャンドラー・ホール ロスアンジェルス
P:アンドリュー・カズン
E:バド・グラハム、フランク・アベイ、ミルトン・チェリン
米CBS ODYSSEY MBK44717
メータ/ロスフィルはデッカの専属でしたからこういう組み合わせの録音がCBSにあるなんて思っても見ませんでした。メータのCBSへの録音はニューヨークフィルへ移ってからのものしか無いと思っていましたから・・それより、このCDを所有していながら聴いていないことがお恥ずかしいです。どういう経緯でCBSへこの録音がなされたのでしょうか?
メータは1978年までロスフィルの音楽監督を務めていましたから、この組み合わせとしては最晩年に近い録音のはずです。調べてみましたが,メータ・ロスフィルのCBSへの録音はこれしか見つかりませんでした。
ズーカーマンは近年ではヴァイオリニストというより指揮者としての活躍が目立って一時はセントポール室内管弦楽団の音楽監督なども務めていました。現在はカナダに居を構えてオタワ国立芸術センター管弦楽団の音楽監督をしているようです。最近はエッシェンバッハといいズーカーマンといい指揮者に転向してしまっているアーティストが多いですね。アシュケナージみたいに二股掛けて活躍してくれればいいのにとこの演奏を聴いてつくづく思います。イスラエル出身ということでメータにかわいがられてこの録音が実現したのかも知れませんね。
ズーカーマンは1967年、エドガー・レヴェントリット国際コンクールでジュリアードで学んだの同門のチョン・キョンファと同時に第1位を取得しています。デッカがキョンファをとってCBSがズーカーマンを取ったというところでしょうか。個人的には彼の美音は好きでLP時代から小品集も含め少なからずコレクションしました。CD時代には既に指揮に転向していましたから遠のいていたんですが、知らないうちにまた買い込んでいたんです。ライブラリーを調べたら有名なメンチャイも揃っていました。これも開封してなかったですが・・・1969年に急病のスターンの代役で、急遽バーンスタイン指揮/ニューヨーク・フィルと共演し、センセーショナルなデビューを飾っています。
改めて聴いてみましたが,いい演奏です。メータ/ロスフィルのバックもいいサポートしています。デッカの音とはちょっと違い,聴き慣れたロスフィルのパワフルな響きとはひと味違う繊細で豊僥な響きがします。デッカはUCLAのロイスホールを使っていましたが、こちらはドロシー・チャンドラー・ホールを使って録音しています。つまりは、ロス・フィルの当時の本拠地ですな。つまりは、ウィーンフィルのようにデッカのロスフィルの録音は本来のコンサートホールとは違う響きの音を捉えていたことになります。当時のロスフィルのコンサートで聴けた音はこちらの方が近いというわけです。こういう演奏を聴くと,メータはニューヨークへ行って失敗したのかなという気になってきます。だって、ニューヨークフィル時代の代表盤を見つけようとしても候補が挙がらないくらいですから。その点、ロスフィルとはいい仕事をたくさん残しています。
さて、ブルッフですが,このODYSSEY盤は実は第1、第2楽章が続けてワントラックで収録されています。実際,この曲の第1楽章は異例なことに「前奏曲」と題されており、第2楽章と直接アタッカでつながれていて、実際に第2楽章の前触れとしての役割を果たしています。ですから繋がっていて当然なのです。そういう意味では,一般のヴァイオリン協奏曲が第1楽章に魅力的な旋律が溢れているのに、このブルッフの第1番は魅力的なのは第2,3楽章ということになります。巷ではチョン・キョンファの録音が評判ですが,こと音色の美しさにかけてはこのズーカーマンの演奏も引けを取っていません。録音の関係か、ソロを際立たせる音作りになっていないのでちょっと損をしている部分がありますが、聴き込むとホールで聴くバランスの自然さでこういう録音のほうが安心して聴いていられます。ちなみに,比較でちょっとマイナーなジョアン・フィールドの演奏でこの曲を聴いてみましたが、ヴァイオリンが前に出過ぎていてなんかかぶりつきの席で聴いているような気がしてやや違和感を覚えました。でも、下の音源は第1楽章と第2楽章をぶった斬っています。
もう一曲は,ラロの「スペイン交響曲」です。ズーカーマンの肌にはこちらの曲のほうが嵌まっているのか,実にのびのびとした演奏です。それはメータの指揮にも言えることで,この曲を楽しみながら演奏している様が目に浮かびます。オーケストラとのバランスも絶妙で、丁々発止の掛け合いが見事です。曲が曲だけに、スペインのイメージを前面に押し出した原色ギラギラの演奏が多い中で、適度にオーケストラのメンバーとはしゃぎながら、聴かせるところはビシッと聴かせ,楽しむところは自分たちも楽しんでしまうという余裕すら感じさせる演奏です。メータ/ロスフィルコンビ晩年の録音だけにお互いの長所を引き出しながらの乗りのいい演奏で,それに合わせるかのように,ズーカーマンが自在にフレージングを動かし,自慢のテクニックで歌い上げています。柔らかい響きと艶のある音色をもち、自然で落ち着いた雰囲気の演奏が特色のズーカーマンですが,ここでは適度に情熱的でこの曲を楽しむには最適な演奏で、このCDを聴き出してから1週間ずっと聴いていました。
ほとんど忘れ去られていますが、メータ/ロスフィルは1965年にRCAにも一枚録音していました。曲目はレスピーギの「ローマの祭り」と、R.シュトラウスの「ドン・ファン」というカップリングです。このジャケットの後ろに映るのがドロシー・チャンドラー・ホールです。
国内盤の中古はヴュータンの作品もカップリングされています。
下はレコードです。