五重塔の骸 口入屋用心棒 51 | geezenstacの森

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五重塔の骸

口入屋用心棒 51

 

著者:鈴木英治

出版:双葉社 双葉文庫

 

 

 

 南町奉行所同心の樺山富士太郎らは、駒込追分町の鹿右衛門の隠居所で、珠吉の命を狙っていた鉄三を見つけ出す。瀕死の鉄三は今わの際に、珠吉殺しを依頼したと告白するが、その殺し屋の正体を明かさぬまま息を引き取ってしまう。富士太郎と珠吉は、若い男妾を殺して姿を消した鹿右衛門の行方を追い始めるが、その翌朝、湯瀬直之進の愛弟子・源六と鹿右衛門の心中事件が判明する。怒りに燃える直之進と富士太郎は、珠吉に突き付けられた殺し屋の刃を振り払うことができるのか? 書き下ろし大人気シリーズ第五十一弾!---データベース---

 

 50巻の続きです。2ヶ月連続で出版されたということで校正がしっかりされていないという弱点が出ています。まず、用語が統一されていません。ストーリーがカットバックされて時系列がぐしゃぐしゃになっているので前巻を読まないと何のこっちゃということになってしまいます。冒頭は前巻と同じく猪四郎の話からスタートしますが、この猪四郎の名前は第1章の途中までしか登場しません。ストーリーの視点が変わると今度は虚無層から死神という名前で語られます。さらに途中では僧侶名としての侯林まで登場します。校正不足はここでも表れていて、候林という表記もみられます。担当の編集者は何をやっているんでしょうかねぇ。

 

 ストーリー的には直之進の有望な弟子・源六が隠居老人の鹿右衛門に懸想されたばっかりに心中と見せかけて殺されてしまいます。湯瀬直之進は秀士館の門弟と共に殺人鬼・死神を奈志田屋の店名の入った小田原提灯と破れ寺の現場に置き忘れた本から辿って人相描きを作成し、猪四郎を追い詰めていきます。一方、南町奉行所同心の樺山富士太郎は珠吉が殺し屋に狙われていることを暗示ながらも対策を取らないままだったので、用心していた割にはあっさりと猪四郎の手に落ちてしまいます。まぁ、猪四郎がタイトルのように浅草寺の五重塔に珠吉の骸を吊るすことにこだわったがために、危うかった珠吉は持ち前の頑丈さで乗り切って救出されます。ただ、登場人物の整理がついていないので、前号で透けて見えたおつなについての記述なしです。今号も佐之助の活躍はなく米田屋もご無沙汰で、今やタイトルからもかけ離れて寂しいです。

 

 いつもそうなのですが、後半のバトルはかなり急ぎ足で、うまく登場人物が整理されていません。まあ、主人公が湯瀬直之進ですから彼が活躍するのはいいのですが、猪四郎の捕縛に際して、もうすこし斬り合いの場面があっても良かったような気がしますし、せっかく樺山富士太郎も現場に到着しているのですから珠吉救出に参戦しても良かったのではと思えてしまいます。結局、殺し屋と直之進のラストバトルは、当初は浅草寺の五重塔を予定していたのかもしれないのですが、そこにはたどり着いていません。

 

 そうそう、作者もこれで65歳に到達していて、珠吉の年齢に近づいているせいかやたら蘊蓄話が多くなっています。地震に対しての戒めも入っているのでしょうかねぇ。また、やたら探索の地名が登場しますが、このストーリーには地図が描かれていたらもう少しストーリーにのめり込むことができたような気がします。地方の読者にはちと舞台が理解しにくいですな。