殺し屋の的 口入屋用心棒 50 | geezenstacの森

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殺し屋の的

口入屋用心棒 50

 

著者:鈴木英治

出版:双葉社 双葉文庫

 

 

 心中騒ぎが起きた白山権現へと急ぐ南町同心樺山富士太郎と中間の珠吉と伊助は、その道すがら、かつて無辜の民から金を巻き上げ、世間から蛇蝎の如く嫌われていた元岡っ引の津之助と遭遇する。すると翌朝、妾と暮らしていた駒込の一軒家で津之助が無残な姿で発見された。一方、日暮里の秀士館では、名も知らぬ老人につきまとわれて思い悩む源六のため、師範代の湯瀬直之進が一肌脱ごうとしていた。道場一の有望株に執着する老人とは何者なのか、そして津之助が殺された真の理由とは!? 書き下ろし大人気シリーズ第五十弾!

 

 普通、書き下ろしの時小説というのは解説も後書きもないものですが、この小説は記念すべきシリーズ第50巻目ということで珍しく著者が後書きを書いています。この口入屋用心棒はこのブログでも第1巻からずっと追い続けていますが、シリーズが始まったのは2005年のことでした。鈴木氏の作品は、その他のシリーズものもちょくちょく読んでいたので、このシリーズもその中の一つと手に取ってみたのが始まりでした。最初は仇討ち小説ということで、主人公の妻を追いかけて、江戸で仇討ちを果たすというのがこのシリーズの当初のテーマでした。剣の達人ということで、主人公の油湯瀬直之進は、口入屋に仕事を斡旋してもらうのが、このシリーズのタイトルの由来でした。ところが宿敵を追ううちにこの宿敵と心通じるものがあり、最終的には友達になっていきます。そしてあろうことか、その宿敵、倉田佐之助は、湯瀬直之進の元妻と結ばれてしまうという驚きの展開になっていきました。

 

 当然この50巻まで話が進むと、湯瀬直之進も今や剣術道場の師範代に登り詰め、口屋の世話になることもなくなっています。そのため、現在は「口入屋用心棒」というのは、ただの表題になってしまい、サブタイトルが各巻の大きな見出しになっています。ここまで続いた時代小説もと言うと、最近では執筆年数的には1974年から2005年まで30年間書き継がれた平岩弓枝の「御宿かわせみ」シリーズぐらいしか思い浮かびません。佐伯泰英氏もいろいろなシリーズ物を執筆してていて、このブログでも「鎌倉河岸捕物控」や「古着屋総兵衛影始末」、それに続く「新・古着屋総兵衛」、さらには「吉原裏同心」取り上げていますが、このシリーズ同様に続いているのは「居眠り磐音」ぐらいなものでしょう。

 

 この巻は次の51巻と2冊同時に出版されています。まぁ話の内容が2冊で1つのストーリーになっているわけですが、書き下ろしで2冊同時と言うのもまた珍しい出版ではありました。今回は見せかけ上は心中というのがテーマになってストーリーを形作っていますが、その実は裏で殺し屋が暗躍していたと言う物語になっています。そこに最終的には愛弟子を殺された直之進が奮闘して事件を解決していくわけですが、進行上、常町回り同心の樺山富士太郎が絡んできていつもの展開になります。ただこのシリーズで樺山富士太郎中元の珠吉が殺し屋に狙われると言うのが、いつものストーリー展開とはちょっと違う部分だと言えましょう。

 

 久しぶりに面白かった今号の主役は富士太郎の中間・珠吉です。先代の 一太郎に仕えていた頃に助けた鉄三が岡っ引・津之助に騙されて珠吉を逆恨みし、殺しを依頼したのが船頭だった候林です。仲立ちが直之進の弟子に懸想する隠居老人の鹿右衛門。ようやく行方がわかり誤解も解けた鉄三がこと切れ、殺し屋は不明のまま次巻に持ち越されますが、どうやら虚無僧の男らしいことはわかります。ただ、珠吉の女房・おつなが珠吉が透けたように見えたのが気になります。

 

 途中つまらなくなっても読み続けてきたので感慨深い節目の一冊でした。