ヘブラーのモーツァルト27
ローゼシュミットの21
/曲目モーツァルト
1.ピアノ協奏曲第27番 変ロ長調K.595
13:28 8:15 9:05
ピアノ/イングリッド・ヘブラー
指揮/クリストフ・フォン・ドホナーニ
演奏/ウィーン交響楽団
録音/1959/05
2.ピアノ協奏曲第21番 ハ長調K.467
14:13 9:23 7:06
ピアノ/アンネローゼ・シュミット
指揮/オトマール・スゥイトナー
演奏/ドレスデン・シュターツカペレ・カペレ
録音/1963年8月19,20日
Fontana FG-119
フォンタナから1973年に発売されたアルバムです。このイングリット・ヘブラーやアンネローゼ・シュミットの演奏は、このシリーズで何回も登場していますが、この2曲を1枚のLPに収めたのはこの時だけです。どちらも定評のある名盤ですが、その後の全集に収録された録音以前のもので、今ではどちらかと言うとマイナーな録音になっています。しかし内容はピカイチでこのレコードの解説は宇野功芳氏が担当していますが、そこにはこんなことが書かれています。
{{{K.595のレコードには、3枚の銘板がある。バックハウスベームバレンボイムヘブラーどコナーニがそれだ。バックハウスは厳しく、深く構成感も見事で、いかにも大化の演奏だ。しかも彼としては、タッチの透明度も悪くない。バレレンボイは自ら弾き語りだが、申し分なくロマンチックであり、同様な解釈のハドシェックを造形面で大きく引き離している。ヘブラーノア天国的とでも言うのか、非人間的なまでに詰めたく桃鉄している人間的なバックハウスやバレンボイムとは正反対の解釈で、これ以上すっきりと引く事は不可能なほどである。清楚な音楽性洗練された粒の揃ったタッチペダルの抑制弱音効果。もちろん現在のヘブラーも同様な本質を持ち続けているが、僕の考えではやはり人工的に細部を作るようになってしまった。}}}
と言う記述があり、この演奏をベストスリーの1枚に上げています。
ウィーン出身の名ピアニスト、イングリット・ヘブラー(Ingrid Haebler)女史は言わずもがなモーツァルト弾きのスペシャリストです。このレコードは筆者が大学時代に求めた1枚で彼女が後に全集録音を開始する前の1959年録音の旧盤で、初出次は「第27番」「第18番」がカップリングされている形で発売されました。指揮は当時リューベック市立歌劇場音楽監督だった30歳のクリストスフ・フォン・ドホナーニ、ちなみにこのLP解説にはドホナーニの紹介はなく表記も「ドナニー」となっています。多分彼の初録音ではないでしょうか。ドホナーニは、1957年から1963年までリューベック市立歌劇場音楽監督を務めましたがこの録音当時まだ無名の新人指揮者だったはずです。このドホナーニの指揮が、一見一筆書きのような無造作な音作りながら、その作為のなさがヘブラーのピュアなタッチには意外にもよくマッチしています。ヘブラーとドホナーニの思いがけないコンビの妙が聴けるのは、新録にはないこの旧録ならではの特徴です。
彼女の録音歴を調べてみるとこれら二つの協奏曲をこれ以前(1950年代半ばごろ)にも未聴ですが「米VOX」にハインリヒ・ホルライザーと録音しておりさらに1965年には「18番」をサー・コリン・デイヴィス/ロンドン響、1966年に「第27番」をアルチェオ・ガリエラ/ロンドン響と録音しています。
ここでヘブラーにつきあっている
この曲は第一楽章の提示部と再現部の終わりのソロ部分にスケールで置き換えることを前提とした長い全音音符だけで書かれた箇所があります(同じような譜面上でのスケールの省略は24番の協奏曲にも見られます)。59年頃というと、それをまだその全音符のまま弾いているピアニストの録音は結構多いのですが、ヘブラーは当時すでにここをスケールに置き換えて弾いています。これを初めて聴いた時は、その半音階のスケールがヘブラーの蒼白い表情をさらに強調しているかのように聴こえたものです。
1959年5月ウィーンでのモノラル/ステレオ録音, 録音詳細不明, オランダでは1959年Philips Phonografische Industrieによりコピーライト登録・同年FONTANAからモノラル:698 040 CL/1960年ステレオ:875 034 CYにて初リリース, フランスでは1959年仏FONTANAで同一番号によりモノラルが698 040 CL(当装丁)にて初リリース, ステレオは発売された形跡がない,
ヘブラーはVOX時代に出来なかったモーツァルト全曲録音をPHILIPSに移ってから数人の指揮者で果たしています。そしてこの全集録音の前に5曲3枚の旧録音が存在します。2枚はFONTANAでのシモン・.ゴールドベルク指揮の12番とロンドK.386)、他1枚がPHILIPSでコリン・.デイビスと19/26番です。
この録音は、VOX時代の丸みのある穏やかな優しい音色が残っています。何よりドホナーニのオケが見事。オケはVOX時代より良く、これが最高ランクで上記の宇野功芳しの意見もあながち間違いではないでしょう。ヘブラーにおける貴重な録音といえるでしょう。
で、下はへぷらーが来日した折、NHK交響楽団と共演した時の音源です。指揮はクラウス・ペーター・フロールによる演奏です。
アンネローゼ・シュミットは、1955年にショパン国際ピアノコンクールに参加したのち、1956年にはドイツ民主共和国ピアノコンクールと国際ロベルト・シューマンコンクールで優勝している。旧東独を代表するピアニストの1人として知られながら西側でも早くから活躍していたピアニストである。2006年に健康上の理由から引退しましたが、モーツァルトをはじめとしてシューマンやブラームスなど様々な録音を残しています。そんな彼女は、クルト・マズア&ドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団とともに1970〜1976年にかけてモーツァルトピアノ協奏曲全集を残していますが、今回のピアノ協奏曲21番はそれ以前の1963-4年にかけてスウィトナー率いるSKD(シュターツカペレ・ドレスデン)と録音した演奏です。
ピリオド楽器や室内楽編成とはまた違う俊敏さとスッキリした空間と音の流れは非常に聴きやすく、各楽章におけるテンポの緩急も明確でわかりやすいものです。流れも非常にスムーズで、ダイナミック・レンジの幅広さが増していることも合わせて美しい綺麗なピアノ協奏曲を聴くことができる。普段あまり聴かないからこそ楽しめる要素が多かったという印象もあります。
個人的にはこの延長上で全集録音が残されていれば音色とのマッチングと言いもっと名盤としての評価が下されていただろうにという印象を持ってしまいます。このレコードそういう意味で貴重であるとともに、、小生にとっては愛聴盤になっています。