聖徳太子の密使 | geezenstacの森

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聖徳太子の密使

 

著者:平岩弓枝

出版:新潮社

 

 

 智恵に優れた白猫、優しく機転の利く三毛猫、腕自慢の虎猫。個性あふれる三匹の猫と愛馬をお供に、聖徳太子の命を受けた、その愛娘珠光王女は、異国へと旅立った。一行の行く手に立ちはだかるのは、怪蛇、土蜘蛛、魔神、魔女、謎の仙人といった妖怪変化、魑魅魍魎。数多の危難を乗り越えて、遥か西の国に辿り着いた王女を待っていたのは……。血湧き肉躍る興奮と感動の冒険絵巻。---データベース---

 

 平岩弓枝といったら小説では「御宿かわせみ」、ドラマ脚本家としては「肝っ玉かあさん」のイメージが強いのでその感覚でタイトルに惹かれて手に取りました。ところが読み始めると、全然イメージが違います。飛鳥時代の陰謀蠢くどろどろとした世界の闇の部分を描いているのか?というイメージは見事に裏切られました。

 

 天空に異変が起こるということから調べると607年にハレー彗星が接近していることから多分この年にまつわる物語ということはできるのでしょうが、これはあくまで寓話として描かれている作品としてはそこまで時代考証しているとは思われません。ただ、聖徳太子30代の若々しい設定ではあります。調べると聖徳太子には4人の妻がいたことがわかっていますが、ここで登場する綿津見珠光王女は存在しません。

 

 そんなことで、毎日芸術賞をとった平岩弓枝氏の「西遊記」、あの感動をもう一度と言われれば抵抗するのは難しいですなぁ。あちらは翻訳物ですが、こちらは創作物です。出発地は大和で西方へ向かうのは経典のためではなくしかも舟旅で、西遊記のパロディでありつつも自由奔放に創作されています。聖徳太子と海神の娘との間に生まれた珠光(たまひかる)王女が太子の命を受けて王子に変装し、知恵の宝を探す旅に出るというストーリーで、お供は3匹の猫たちと愛馬の青龍です。猫たちは必要に応じて若者に化けて戦い、青龍も意外な術を駆使します。

 

 その先々には妖怪変化が待ち受け、それを打ち破ることで異国の王子や民が苦難から救われるというお話の連続ですが、戦いのいくつかは少々あっけなく終わってしまいます。最後に辿り着くのはオリエントの最果て、エジプトというのも差もありなんという感じです。西遊記の日本版をイメージしたのかな? 時代は 隋が滅び唐が中国を統一し、西アジアではイスラム教徒の東ローマ帝国への進出が進んだころです。マンガ版高岳親王航海記を連想もしますが、そこまでの深さもありません。すべて主人公達の都合良く話が進む感があります。最近は聖徳太子ではなく厩戸皇子と表記されていますが、これとて怪しい名前です。まあ、猫がお供で登場し、さらに馬までが活躍する物語ですから、寓話以外の何者でもありません。愛嬌たっぷりの猫たちなど随所にユーモアが効いているし、文句なく平岩ワールドに遊べるでしょう。当時の東南アジアの発展の状況を世界史レベルで知るにはいい本でしょう。今回も蓬田やすひろ氏の挿絵が楽しいアクセントになっています。