ブルックナー・イヤーを振り返って 3
面白いものでブルックナーを得意とする指揮者はマーラーをあまり得意とはしていなかったようです。まあ、これは傾向と色分けのレベルの問題ですがカール・ベームやクナッパーツブッシュはマーラーは歌曲作家と捉えている節があり、マーラーの交響曲は一曲も録音していません。逆に、バーンスタインはDGに9番を、ライブでニューヨークフィルと6番は録音していますが、それだけです。
1990年台重厚長大のブームに乗って録音されたブルックナーの演奏についての演奏評もこの特集の目玉ですが、その中から第4番の「ロマンティック」を取り上げてみましょうか。こちらは平野昭氏の解説で読むことができます。
さて、ブルックナーの交響曲第4番の演奏としてはベーム/ウィーンフィルの「ロマンティック」を抜きには語ることはできません。1974年度レコード・アカデミー大賞受賞の名盤でLP初出時は2枚組の余裕のカッティングでデッカサウンドの優秀録音を満喫でき思い出があります。国内版の初出のジャケットは以下のものでした。2枚組位゛3,000円と良心的な価格でした。
そして、その演奏です。第1楽章冒頭のウィンナ・ホルンからコクのある音色が実に素晴らしく、同様に美しい木管群との対話に魅せられながら、やがて壮麗なトゥッティになだれ込んでゆくというこの部分、ベームが示した構えの大きさにはかなりのものがあり、その毅然としたスケールの大きなフレームと、中身を埋める楽音の美しさが相乗効果を発揮して見事というほかない音楽を繰り広げています。以後、やはりホルンが素晴らしい終楽章コーダにいたるまで万全の演奏が展開され、当時のウィーン・フィルの濃厚な音色によって翼を得たベームの厳しくシンフォニックな解釈を堪能することができます。
厳格なリハーサルゆえ、ウィーン・フィル楽員からの数々の恨み言も漏れ伝わるベームですが、その甲斐あってか、ここでは気楽な仲良し演奏とはまったく異なる峻厳で緻密な音楽を聴くことができます。
ベームとウィーン・フィルのコンビは、各社にかなりのアルバムを残しましたが、この演奏は、それらの中でも最良の遺産といえるものでしょう。1973年11月指輪セッションで高名なウィーン・ソフィエンザール録音、ミヒャエル・ウールコック&コリン・ムファットのデッカ制作陣。同じデッカに録音したブルックナーの交響曲第3番も立派な演奏でしたが、この第4番はそれをも凌ぐ高いレベルに達した演奏と考えます。