夜明けの街で | geezenstacの森

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夜明けの街で

 

 

著者:東野圭吾

出版:文芸春秋 文春文庫

 

 

 会社員である渡部は妻子ある身だが、ある日バッティングセンターで偶然会ったのをきっかけに、同じ職場の派遣社員である仲西秋葉と不倫関係になる。不倫に後ろめたさを感じつつも秋葉との仲が深まる渡部だったが、徐々に秋葉の衝撃的な過去が明らかになっていく。なんと秋葉は15年前の父親の愛人の殺人事件の容疑者だというのだ。事件の真相、2人の行く末は……?---データベース---

 

 これはミステリアスな不倫にのめり込んでいく男の話です。主人公、渡部和也の一人称で物語は進んでいきます。今となってはこの渡部という名前は意味深です。冒頭、不倫する奴なんてバカだと思っていた。でもどうしようもない時もある――との独白から始まります。この渡部の働く会社に、派遣社員の仲西秋葉がやって来たのは、去年のお盆休み明けでした。彼女は契約社員、翌年の3月31日までの在籍です。ここで不倫の相手となる秋葉は渡部の目には若く見えたが、彼女は31歳でした。この小説はその7ヶ月の間に彼女に溺れていく男の心の揺れ動きを描いていますが、15年という月日と3月31日というのがこのストーリーのキーポイントになります。当時、殺人事件の時効は15年でした。この秋葉とはバッティングセンターという意外なところででの出会いです。この後、二人の距離は急速に縮まり、ついに越えてはならない境界線を越えてしまいます。

 

 しかし、秋葉の家庭は複雑な事情を抱えていました。両親は離婚し、母親は自殺。彼女の横浜の実家では、5年前、父の愛人が殺されるという事件まで起こっていました。内容は、父親の秘書が死んでいた。その家にいたのは、高校生だった秋葉。父親、叔母の供述から強盗の線で調査は進められたが、それから15年で時効を迎えようとしている。殺人現場に倒れていた秋葉は真犯人の容疑をかけられながらも、沈黙を貫いていきます。犯罪者かもしれない女性と不倫の恋に堕ちた渡部の心境は揺れ動きます。舞台は横浜で、サザンオールスターズの「LOVE AFFAIR~秘密のデート」の歌詞がこの物語のベースになっています。果たして秋葉は罪を犯したのか。まもなく、事件は時効を迎えようとしていた・・・。中盤、渡部は不倫相手と密会するために友人を巻き込んで、アリバイづくりを依頼します。また、不倫男の渡部の独占欲もチラつき、秋葉に言い寄ってくる里村に社内恋愛はほどほどにしておけよと忠告などしています。

 

 一方、秋葉にとって父親に見せつけるためには恋人の存在は必要不可欠でした。そして、相手の男は不倫である必要があったことが流れの中で明らかになります。つまり、渡部は一方的に秋葉にのめり込んでいきますが、秋葉はクールに対応しています。渡部は、少しづつ秋葉と事件関係者と接触していくと死亡した愛人の妹が登場したり、未解決事件を担当する刑事が登場したりと不安要素が増大していきます。不倫相手が十数年前の未解決殺人の犯人かも知れないと気付いた渡部の腰が引けます。それでも、恋は盲目と言いますが、渡部は離婚をを決意し3月31日は彼女の実家に出かけて行きます。時効が刻々と迫る中、時効と共に今の幸せな家庭を捨て彼女を選ぶ決断をした主人公ですが、彼女から打ち明けられた真実が、大どんでん返しで呆気に取られます。

 

 そして、時効成立後、あっさりと渡部と別れます。もう秋葉にとっては男は必要なかったからです。そして、呆気に取られたホタ部は妻の待つ自宅へ戻りますが、そのテーブルの上にはクリスマスの時に使った卵の殻を使った飾りがなぜか置かれています。不審に思いますが、それを片付けてと言われてしまおうとすると、そこには潰された大量の卵の殻が置かれていました。クリスマスのアリバイは妻には筒抜けだったのでしょうなぁ。渡部はこれから一生妻には頭が上がらないでしょう。

 

 離婚は絶対ダメだよって言ってくれた新谷君の言う事も聞かないで、自己の欲のままに突き進んだ渡部は墓穴を掘ったことになります。惨めな主人公渡部に対して、秋葉の去り際は超カッコよくクールでした!不倫とミステリを掛け合わせるなんて流石東野圭吾といえます。

 

 サザンの音楽に乗せて横浜の情景が目に浮かびます。

 

 

そうそう、この作品も映画化されていますが、配役が作品のイメージとかなりかけ離れているので残念な作品になっています。小生なら渡部は竹野内豊か藤木直人、秋葉は上野樹里辺りがミステリアスでいいんですがねぇ。