レイクサイド
著者:東野圭吾
出版:文芸春秋 文春文庫
中学受験の合宿の夜、その事件は起きた……妻は言った。「あたしが殺したのよ」。湖畔の別荘には、夫の愛人の死体が横たわっていた。四組の親子が参加する中学受験の勉強合宿で起きた事件。親たちは子供を守るため自らの手で犯行を隠蔽しようとする。が、事件の周囲には不自然な影が。真相はどこに?そして事件は思わぬ方向に動き出す。---データベース---
殺人事件は起こりますが、この小説には警察は一人も登場しません。そして、この「 レイクサイド」の中の登場人物の中には、正義を貫く人間は一人も出てこないのです。最近読んだ中では「ダイイング・アイ」という作品が同様な流れでした。「勧善懲悪」な展開を好む方にはとっては、とんでもない内容の作品であろうとおもいます。でも、これが多くの人間の本来の姿ではなかろうかとも思えます。「どんな理由があろうとも、犯罪は決して許されない」と叫ぶような安っぽい刑事ドラマを見るよりは、はるかに心に残るものがある。心に残ると言っても、感動ではないことは確かですがね。2000年ごろは裏口入学が騒がれていました。この小説もそれを題材のベースに置きながらその裏口入学の私学ならではのどろどろとしたものが渦巻いています。
東野さん37作目で2002年の作品です。中学受験の子どもがいる4家族がレイクサイドで勉強合宿。そこで起きる殺人と,なぜか共同での隠蔽工作があります。子どもたちと親が別荘地と言えども別々に建屋で集団で過ごしますから、最初はあらぬことを想像しました。こんな合宿ありなの?まあ、その想像は外れましたが推理小説特有の伏線があちこちに張り巡らされています。さすが東野さん,後半のあっと驚く展開は全く読めませんでした。「レイクサイド・マーダーケース」というタイトルで映画化もされていたようですが、登場人物が削られているので本来の面白さが感じられないのが残念です。
物語はアートディレクターの並木俊介の視点で進んでいきます。息子の中学受験の勉強合宿に参加するために姫神湖畔の別荘に向かったのです。普段は息子の教育は妻の菜美子に任せきりなのですが、今回は時間を作って参加することにしたのです。その別荘には、同じ目的の四組の家族と、勉強を指導する男性の塾講師が集っていました。実際のところ、俊介は実は息子の中学受験に乗り気ではなありませんでした。それでもこの勉強合宿に参加したのには、ある目的があったからです。それは、この勉強合宿に参加した男性の中に妻・美菜子の浮気相手がいると判断し、その人物の正体を突き止めることだったのです。その俊介は、自分が経営する会社の社員・高階英里子と愛人関係にあり、その愛人と一緒になるために、少しでも有利な条件で美菜子と離婚しようと考えていたからです。
その勉強合宿が行われている別荘に、突然高階英里子が現れます。ここまで来ることを知らされてなかった俊介は慌てるのですが、その夜は、別荘の近くのホテルで英里子と会う約束をしていたのです。口実を作って別荘をぬけだしたのですが、ホテルに英里子は現れませんでした。仕方なく別荘に戻る俊介でしたが、別荘では驚くべき事件が発生したいました。俊介がホテルで英里子を待っている間に、彼女は勉強合宿の別荘のほうに現れ、そして、俊介と別れることを迫った英里子を妻が殺害してしまったのです。
そんな妻を庇う為に事件を隠蔽しようと残りの三組の夫婦たちは協力するのです。「自分たちも犯罪者になるかもしれないのに、他人の為に、なぜそこまでしてくれるのか?」そんな疑問を持ちながらも、俊介は彼らと行動を共にします。しかし、時間がたつうちに、俊介は彼らが事件を隠蔽しようとした本当の理由を知ることになります。そこには、信じられないような恐るべき真実が隠されていました。
まあ、本筋から言うと、自分の子供を名門の私立中学校に入学させるためには手段を選ぶことのない、 親たちの異様なほどの入れ込みようが後半で明らかになってきます。
ここでは警察が登場しませんから事実関係を俊介の目を通して描かれていきますが、妻のバックの中からコンドームという小道具が見つかることが事件の裏で大きなポイントとなってきます。
とまあ、あらすじを書いてきて、どうしても腑に落ちない点が出てきているのに気が付きます。事件は俊介たちのベッドルームで起きたことになっていますが、あらすじではそうは書きませんでした。これがこの小説のミスリードを誘う罠です。作者は英里子のの行動に不思議なシーンを混ぜ込んでいます。その伏線を読み解いた人はこのストーリーが一筋縄ではいかないことに気がつくでしょう。
そして、最後にはどんでん返しが待っています。子供たちが合宿する建屋と親たちが宿泊する別荘が別々という点もこのストーリーの大きな鍵となっています。
入試問題の漏えいや裏口入学といったタイムリーな社会問題とともに皿には男たちの卑劣な欲望が物語の背景にあります。映画の展開はちょっと余計な演出が含まれていますからこれは純粋に小説を読んだ方が面白いと思えます。