赤い指 | geezenstacの森

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赤い指

 

著者:東野圭吾

出版:講談社 講談社文庫

 

 

 どこの家でも起こりうること。だけどそれは我が家じゃないと思っていた。平凡な家庭で起こった、2日間の悲劇人は事件の裏側にある別のものを隠し、苦しんでいる。加賀恭一郎は、その苦しみから救済し、人の心を解きほぐす。「刑事の仕事は、真相を解明すればいいというものではない。いつ、どのようにして解明するか、ということも大切なんだ」少女の遺体が住宅街で発見された。捜査上に浮かんだ平凡な家族。一体どんな悪夢が彼等を狂わせたのか。「この家には、隠されている真実がある。それはこの家の中で、彼等自身の手によって明かされなければならない」。刑事・加賀恭一郎の謎めいた言葉の意味は? 家族のあり方を問う直木賞受賞後第1作。---データベース---

 

 このところ集中して東野圭吾の小説を読んでいます。この作品は、「小説現代」1999年12月号に掲載された「赤い指」をもとに書き下ろされたものということです。ファンの方ならご存知の通り、加賀恭一郎シリーズ、第7作目の作品で加賀が練馬署の刑事として活躍する最後の作品となります。この作品2011年にテレビドラマ化されています。
で、この本は2006年に発行されています。著者40代の作品ということで良いでしょう。

 

  最近読んでいる作品は、展開上ある意味警察の存在を無視している作品が多いのですが、この作品に限っては、まともでした。まあ、主人公が加賀恭一郎ということで事件が解決しないと、登場させる意味がありませんからねぇ。あまりに現実離れしていてはフィクションで納得していまうが、この作品は、ひょっとしたら現実に似たようなことがありそうなところが、考えさせられます。

 

 大まかなストーリーは、引きこもりの息子が少女を殺害します。その息子をかばうため、死体遺棄にはじまり証拠隠滅作業が描かれます。そして、“認知症”の母親に濡れ衣を着せるという恐ろしい計画を実行しますが、実は、家に居場所が無いが為に“認知症のふり”をしていただけだったという衝撃の事実が明らかになります。


 事件を隠蔽した両親の行動は、事件を犯した張本人である引きこもりの息子の横暴で反省の色が全く見えない態度に心底腹が立ちましたが、ふと思えば、現代の若者たちに増えつつある姿だと思いました。自分を守ることで精一杯、誰かの人生を台無しにしてしまっていることにすら気づけない。なによりも、婿夫婦の陰謀を知ったときの母親の気持ちを考えると胸が痛くなります。
 

 これは犯人探しのミステリーではなく、消えてしまった家族の愛の行方を探し出す、悲劇が更に悲劇を生んだ、そんな悲しいミステリーでした。このストーリーに加賀刑事と入院中の父親との関係性も、この小説では明らかにされます。こりゃあ、テレビドラマ化されますわな。