危険なビーナス | geezenstacの森

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危険なビーナス

 

著者:東野圭吾

出版:講談社 講談社文庫

 

 

 独身獣医の伯朗のもとに、かかってきた一本の電話ー「初めまして、お義兄様っ」。弟の明人と最近、結婚したというその女性・楓は、明人が失踪したといい、伯朗に手助けを頼む。原因は明人が相続するはずの莫大な遺産なのか。調査を手伝う伯朗は、次第に楓に惹かれていくが。恋も謎もスリリングな絶品ミステリー。---データベース---

 

 

 この小説は相関図が無いとちょっと理解に困ります。下がその相関図ですが、主人公は左下の獣医の手島伯郎と異父兄弟の弟明人の新妻の楓です。

 

 

 

  素数が出現する規則性は「数学史上最大級の難問」とされ、数学者がいまだに解明できていない。(この難しさがインターネットの暗号通信等に利用されている)

  東野圭吾の物語は、財力のある研究者が脳科学・医療の実験(脳に電気刺激を与えて脳機能障害の暴力的発作の低減を図る)を人間で行うという違法な医療行為を行った結果、医療行為を受けた被験者が予想外の多様な発達障害のタイプのひとつサヴァン症候群を発症し、その結果偶然に、世界で初めて素数の規則性を人が描いたものとは思えぬ緻密で精密な絵に描いて明らかにしてしまった、という興味深いミステリーが展開します。このサヴァン症候群、小説の中でもしばしば登場する映画「レインマン」のダスティン・ホフマン演じるレイモンドの存在が引用されます。映画「レインマン」が公開されたのが1989年、そして、この小説が発表されたのが2016年と時の隔たりがありますから知らない人の方が多いような気がしますが、この映画を見ていないとこの小説の魅力は半減するでしょうねぇ。

 後天性のサヴァン症候群、この発見はノーベル賞を超える大発見ですが、発見の経緯に問題があるうえ、この発見の社会生活への影響と変化は神をも恐れぬ未知の結果を招くかもしれません。違法な医療行為を行って思いがけない発見をした研究者は、この発見を隠したままにしておく決心をするが、周囲の大勢の血縁者と、美しく魅力的で頭が良いうえに思いがけない俊敏さと力持ちのビーナスとその協力者が、遺産相続問題の謎を解きつつ、研究者の考えに辿り着くまで混乱が続きます。ビーナスの話す言葉遣いも東野圭吾らしい魅力でいっぱいだ。

 

 資産家当主の後妻として入った主人公の母の昔の死の謎、遺言で全遺産の相続人となっている帰国したはずの当主の息子の失踪の謎を解明という内容でネタバレになるのでこれ以上は書きませんが、それまでの展開が緩かった分、更地になったはずの昔の家がそのまま残っていたという発見以降は怒涛の展開で、クライマックスでは一気に東野氏お得意のどんでん返しの怒涛のオンパレードでジエンドといった感じでした。ただそのどんでん返しがぶっとんでいて現実離れが重ね過ぎられているためリアリティに今一つかける内容だと感じました。


 真相解明場面では主人公の伯朗がまるでドッキリカメラにはめられて更なる真相をも知らされるといった感じだったのはこれまでの東野作品にはないパターンのように思います。

 

 この作品、TBSで虎任されていますが、例によって設定がかなり変えられていますからやはり、原作を先に読むべきでしょうなぁ。