マスカレード・ホテル
著者:東野圭吾
出版:集英社 集英社文庫
都内で起きた不可解な連続殺人事件。容疑者もターゲットも不明。残された暗号から判明したのは、次の犯行場所が一流ホテル・コルテシア東京ということのみ。若き刑事・新田浩介は、ホテルマンに化けて潜入捜査に就くことを命じられる。彼を教育するのは、女性フロントクラークの山岸尚美。次から次へと怪しげな客たちが訪れる中、二人は真相に辿り着けるのか!? 大人気シリーズ第1弾のミリオンセラー。---データベース---
東京都内で3件の予告殺人事件が起きます。事件現場に残された不可解な暗号から、3つの事件は連続殺人事件として捜査される。警視庁の捜査本部は、数列の暗号が次の犯行現場を予告するものであると解読し、第4の殺人は高級ホテル「ホテル・コルテシア東京」で起こると推測します。それにしてもこの手の暗号、推理小説を読んでいるものには簡単な暗号でしょう。数字の近似値からして緯度、経度を表していることはピンときました。まあ、それはあまり重要なポイントではないことは薄々感じます。
数名の捜査員が、第4の事件を未然に防ぐためフロントスタッフやベルボーイに扮してホテルに配置され、不慣れなホテルマンとしてのホテル業務に悪戦苦闘しつつ、不審な宿泊客を監視する事を強いられます。その中で、捜査一課の刑事・新田浩介は、英語ができる帰国子女であることから、同ホテルのフロントスタッフに扮することになり、新田の補佐・教育係には、優秀なフロントクラークの山岸尚美が任命されます。
立場も職業倫理も異なることから、潜入捜査が始まった段階では衝突の多い2人でしたが、共にホテルマンとして、時には捜査員としての目線を互いに共有しながら、日常起こるホテル内での悲喜交々の出来事に対峙していくうち、二人の間には信頼と共闘意識が生まれます。そして、捜査本部がこれまでにない厳戒体制を敷いた、ある特別な1日が始まります。
この作品は映画化されていますからそのイメージで小説を読み始めると最初の進展がまどろっこしいものを感ずるかもしれませんが、作品の本質を捉えるならばこれば是非とも小説からに読むべきでしょう。ところで、この作品うまく第2作の「マスカレード・イヴ」とリンクしていて、ここでは新田に彼女がいたことが披露されています。「マスカレード・イヴ」の段階で新田と彼女が朝ベットで微睡んでいるところに電話がかかってきて招集がかかり、その際の彼女の行動の鈍臭さに癖用してしまうエピソードが挿入されていますが、このシーンはそのまま、第2作でも使われています。
伏線があちこちに貼られていますからそれをチェックしながら読み進めるのが面白いでしょう。ホテルが舞台ということでさまざまなサイドストーリーが用意されています。小生たちの世代からすると1990年第二TBSで放送された「ホテル」がベースにあるわけでその延長線上にこの作品を登勢えました。まあ、今回は事件が警視庁を巻き込んだ殺人事件ということで、ホテル側と警察側の対立と葛藤が描かれるわけですが、最初不満のあった新田はホテル業務を通じて尚美を信頼していきます。その過程で、捜査上の秘密を漏らしてしまうという展開になってしまうところは小説だなぁと思いますが、徐々にお互いの影響を受けて変化を見せ、それが事件解決へも結びついていく展開はスリリングで面白いです。連続殺人事件ではなく個別の事件と判明してからの展開は、別の結婚式をカムフラージュにして犯行が行われていく様子ともどもなかなか緊迫感のある展開となっています。クライマックスの犯人を追い詰めていくシーンはちょっと策に溺れた感があります。
つまりラストにキレがありません。緊迫感はありますが、防犯カメラで確認して追跡すれば犯人と山岸がエレベーターで何階で降りたかは直ぐ分かるはずなのに、その部分だけまったりと描かれているのがおかしいし、あれだけ警察のスタッフがいるのに新田刑事一人だけが探し回るのも意味不明な点です。
映画版もそれは同じで、展開の割にラストが散漫で今日に展開のスピードが遅くなり、無駄なシーンが多くなっています。野瀬刑事の描き方は原作の方が秀逸で、映画ではなんで彼がホテルに出入りしているのか意味不明な形で描かれているのが残念です。