マスカレード・ナイト | geezenstacの森

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マスカレード・ナイト

 

著者:東野圭吾

出版:集英社 集英社文庫

 

 

 若い女性が殺害された不可解な事件。警視庁に届いた一通の密告状。
犯人は、コルテシア東京のカウントダウンパーティに姿を現す!? あのホテルウーマンと刑事のコンビ、再び――。

 

 小説と同時に映画も見終わっているということでその違いを考察しながらこの小説を考えてみたいと思いました。まず、いかにも映像化前提みたいな作品で、東野圭吾はさすがにうまいなあと感じます。ある程度キャスティングも頭にあったのではないでしょうか。続編ということでキャスティングには前作を踏襲していますし、舞台も同じ設定になっています。こんなに事件に巻き込まれるホテルがあったら大変なんでしょうけどね。

 

 上映時間の関係上か、映画は12月31日1日の設定になっていますが、これは無理というものでしょう。その点、小説は4-5日前からの潜入捜査ということでゆとりがあります。長編ということでいろいろなエピソードがちりばめられていますが、コンセルジュを巡るお客の要望は無理難題といってもいいでしょう。ただ、タイトルのマスカレード・パーティに参加するカップルの結婚式の衣装での参加のエピソードをカットしているのはちょっと納得がいきませんでした。

 

 この小説での鍵は、「匿名通報ダイヤル」でしょう。「匿名通報ダイヤル」とは、主に暴力団による犯罪や薬物事犯、少年福祉犯罪、児童虐待事案などから被害者を守る目的で設置されたもので、警察庁から委託を受けた民間団体が運営しています。ここではそれが、『練馬区の「ネオルーム練馬」というマンションの604号室を調べてほしい。女性の死体があるかもしれない』というもので、「匿名通報ダイヤル」では通常は受け付けていない類の情報でした。しかし、連絡を受けた警察署の警察官がそのマンションの部屋に駆け付けると、もたらされた情報通り、若い女性の死体が発見され死体の状況から、被害者は殺害された可能性が高かった。さらに、被害者は妊娠しており、被害者宅に出入りしている男性を複数の人が目撃していました。そして、次に「ネオルーム練馬で起きた殺人事件の犯人が、12月31日午後11時にホテル・コルテシア東京で行われるカウントダウン・パーティーに現れるので、逮捕してください」という情報がもたらされます。こうして、ホテルが舞台となり小説はその進展を克明に描いていますか、映画はいきなりホテルのシーンから始まります。しかも、新田と犯人と思しき人物がタンゴを踊るというシーンから開始されます。これはちょっとルール違反の演出ですわな。

 

 まあ、こんなことでコルテシアホテル東京で新田と山岸は再開します。ただ、今度は二人はコンビではありません。別の40歳代のフロントオフィス・アシスタント・マネージャーの氏原というものが新田を補佐する役を担います。生真面目な性格で、新田にフロント業務をしないように指示するのです。せっかくのスキルを活かせないという設定は小説のバリエーションとしてはありでしょうなぁ。

 ストーリーも凝っていて、この真犯人を偽装するトリックには驚かされます。非常に現代的なテーマで、古典的ミステリとは一線を画しているといってもいいでしょう。ただし、ミステリとしてはやや問題があり、これだけ次々に新事実が明らかになる構成では、読み手が推理する余地はないといえます。急転直下の結末の後、いかにも後付けのように、種明かしされるのも今一つ興醒めの部分です。そして何よりも、真犯人と警察の頭脳 対決が行われている割に、全く緊迫感が伝わらないのが残念といえば残念です。

 

 小説と映画ではちょっと位置付けが違いますが、日下部篤哉の存在がストーリーに面白いアクセントを提供しています。今回は彼が宿泊客としてコンシェルジュの山岸に無理難題を押し付けてきます。本当にこんな客がいるのかいな?と訝しく思いますが、事件解決と共にそれは山岸に思いがけない結果をもたらします。

 

 また、今回も品川警察署の能勢刑事が捜査本部のメンバーではないにも関わらず新田のフォローとしていい働きをしています。

 

 第1作の「マスカレード・ホテル」もこの「マスカレード・ナイト」も映画化作品は今なら「ネットフリックス」で鑑賞できます。でも、この「マスカレード・ナイト」は今ならYouTubeでも見ることができるようです。これから小説を読む人は是非とも小説を、手っ取り早く鑑賞するなら是非下記にアクセスしてみてください。ただし、小説と映画ではかなり印象が異なるでしょうけど・・・