マスカレード・イブ | geezenstacの森

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マスカレード・イブ

 

著者:東野圭吾

出版:集英社 集英社文庫

 

 

 ホテル・コルテシア大阪で働く山岸尚美は、ある客たちの仮面に気づく。一方、東京で発生した殺人事件の捜査に当たる新田浩介は、一人の男に目をつけた。事件の夜、男は大阪にいたと主張するが、なぜかホテル名を言わない。殺人の疑いをかけられてでも守りたい秘密とは何なのか。お客さまの仮面を守り抜くのが彼女の仕事なら、犯人の仮面を暴くのが彼の職務。二人が出会う前の、それぞれの物語。---データベース--

 

 マスカレードシリーズの第2弾で、小説すばる「2013年2月号から2014年2月号まで掲載され、書き下ろしのタイトル小説一編を加えて、いきなり文庫で発売されました。つまりこの本は単行本がないということになります。そして、発売1ヶ月で100万部を売るという快挙を成し遂げています。作品としては「マスカレード・ホテル」の続編ですストーリーとしては前日譚になります。この構成が素晴らしく、前作の「ホテル」の二人のヒラメキはこのことがあったからなんだなという構成になっています。個人的に時系列で読んだ方がわかりやすいのでこちらを先に読むことにしました。

 

ホテルコルテシア東京のモデルとなったロイヤルパークホテル東京

 

 短編でのストーリー展開で山岸と新田が出会う前の物語です。章立ては次のようになっています。

 

第1話『それぞれの仮面』
第2話『ルーキー登場』
第3話『仮面と覆面』
第4話『マスカレード・イブ』

 

第1話『それぞれの仮面』
 この一片は舞台がコルテシア東京で、山岸尚美まだ入社4年目で1ヶ月前から新米フロントクラーク業務についています。そこに客としてやってくるのがかつての恋人・宮原隆司がやってきます。こういう設定で始まりますが、以後山岸には男の影がありませんから貴重な設定です。ただ、このその元恋人から彼女の携帯に電話が入ります。この宮原は、「一緒にいた女性が突然部屋から消え、しかも、その女性は自殺をする可能性がある」と尚美に告げたのです。彼は今スポーツ選手のマネージャーをしていますからこの設定にはちょっと無理がありますがスポーツ界と女の存在はまさにホテル業界ではあるあるでしょう。

 

第2話『ルーキー登場』


 数多くの飲食店を経営する実業家・田所昇一が、夜のランニングの途中で何者かに殺害されます。冒頭でホテルで一夜ついているのはもう一方の主人公たる新新田浩介です。こちらも彼女がありの設定での登場です。事件は現場の女ぅ方と聞き込みから容疑者として一人の男が逮捕されます。その男は、美千代が経営する料理教室の生徒・横森仁志でした。横森は、美千代を自分のものにするために田所を殺害したと自供します。横森は、美千代も自分に好意を寄せていると思い込み、夫さえいなくなれば二人は結ばれると考えていたようなのです。事件は解決しますが、なぜか新田浩介だけは、この事件の動機に違和感を覚えます。やがて新田刑事は、この事件がある者の陰謀により引き起こされたことに気付きますが証拠はありません。さしづめ、ここでは羊の仮面を被ったオオカミがいたということでしょうか。

 

第3話『仮面と覆面』


 ホテル・コルテシア東京に怪しい5人組が宿泊した。実は、彼らは、27歳の女流作家・タチバナサクラの熱狂的ファンで、彼女がこのホテルに宿泊していることを突き止め、彼女に会おうと画策していたのです。タチバナサクラは生年月日以外は非公表の覆面作家でしたが、この5人組はタチバナサクラが美貌の持ち主である証拠を入手しており、その顔を一目拝もうとしていたのです。しかし、そのタチバナサクラの担当編集者の望月から、尚美たちは意外な事実を知らされます。それは、タチバナサクラは50歳前後のおじさんだという事実です。望月から、この事実がバレないように協力してくれとホテル側は頼まれますが、その協力の過程で、尚美はさらに驚くべき真実を知ることになります。昨今のケータイ小説の存在を考えるとこういう仮面の被り方もあるでしょうなぁ。

 

第4話『マスカレード・イブ』


 タイトルにもなっているこの作品は書き下ろしです。そして、山岸直美はこの話では、系列のホテルコルテシア大阪勤務をしています。事件は東京の泰鵬大学理工学部教授の岡島孝雄が刺殺されます。岡島教授は、新しい半導体材料の開発の研究をしており、その利権をめぐってのトラブルということで、共同研究者の南原准教授が最重要容疑者となります。しかし南原は、岡島教授がされた時間には不倫相手の女性と大阪のホテルにいたとアリバイを主張します。でも、不倫相手の女性に迷惑が掛かってしまうという理由で、南原は頑としてその女性の名前を明かさなかったので、アリバイはなかなか実証されません。その調べのため、コンビを組んでいる女性警察官の穂積理沙を大阪に出張させます。間接的ですが、新田のコンビの穂積理沙が薔薇の甘い香りの女についての情報を掴んできます。その情報から女の正体が破れていきます。そして、そこにはとんでもない殺人のトリックが隠されていました。

 

 さて、この小説を読みながら頭のなからはハチャトゥリアンの「仮面舞踏会」の旋律がずっと流れていました。東野圭吾の小説はほとんど音楽の要素がないのですが、このシリーズの作品だけは違います。