マエストロ、ようこそ
著者:広渡 勲
編集: 上坂 樹
出版:音楽之友社
クライバー、バレンボイム、メータ、ベジャール…といった大芸術家たちから絶大な信頼を得て、日本のオペラ・舞台芸術界を昭和、平成、令和、と牽引してきた辣腕プロデューサーが明かした大巨匠たちとの交流と公演の記録。 特に不世出の天才指揮者クライバーとの親交は深く、「個人秘書」的役割を担うとともに「親友」ともいえる間柄だった著者。史上最高のオペラ公演といわれる1994年のクライバー指揮/ウィーン国立歌劇場《ばらの騎士》をはじめ、ミラノ・スカラ座、バイエルン州立歌劇場、ベルリン国立歌劇場、英国ロイヤル・オペラ…1974年~2002年の名門歌劇場来日公演の裏側、そして、世界的大芸術家たちとの交流を鮮やかに描く。修業時代に携わった歌舞伎や演劇、オペラ同様に深く関わったバレエなどにも触れ、“劇場人"として生きてきた約60年間を振り返る。『音楽の友』誌連載を大幅に再構成、加筆のうえ未公開写真も追加。バレンボイム推薦文も掲載。---データベース---
この本は音楽の友に、連載された記事を元に構成されています。音楽ともの 者の本は レコード芸術は 愛読していましたが 音楽のともについては ほとんど読んだことがありませんでした。 こんな記事が連載されていたんですなあ。
1981年のミラノ・スカラ座の初来日公演から始まって著者である広渡勲さんのおかげで、様々な音楽家の公演がサポートされていたことを知りました。 特に 冒頭のダニエル・バレンボイムの言葉は コンサートに限らず オペラ においても 多大な貢献をされた方だということが分かります。 さらに 第1章では指揮者の カルロス・クライバーについて 幾多の交流があったことが記載されています。 その中には コンサートに関することだけでなくて、プライベートでクライバーが来日した時のサポートの裏話まで この本には語られています。それだけ 信頼が厚かったということなんでしょう。
NBS(日本舞台芸術振興会)で活躍したのは1981年から2002年までですが、これが日本の音楽史に残る20年間です。章立ては以下のようになっています。
目次
Prologue マエストロ、ようこそ
第1章 晩年のクライバーとの交流
第2章 オーケストラの魔術師たち
第1幕 来日オペラ黎明期~文化が根付くまで
第3章 究極のオペラ探る旅路へ―名門歌劇場の初来日ラッシュ
第4章 巨大な山嶺、ワーグナーに挑む
第2幕 来日オペラ最盛期
第5章 個性を競い合う名門歌劇場
第6章 20世紀掉尾を飾るオペラの饗宴
第7章 世紀の変わり目 オペラの新時代
Epilogue 私の修業時代・オペラへの道 次代への思い(
第8章 演劇への道 裏方の修業時代
第9章 舞踊への道 バレエに魅せられて
第10章 美学と感動の伝承―第二の人生始まる
あとがき
個人的には、この本はこの第一章がいちばん読み応えがありました。本来は舞台芸術がメインで、オペラやバレエに関する話しのほうが主になるのでしょうが敢えてクライバーとの話から入るという構成は中々の策士でしょう。
1992年のお忍び旅行時のクライバーのパスポート
富士山をバックに箱根にて、筆者とクライバー
広渡勲さんというNBSの辣腕プロデューサーのことはこの本を読むまで何も知りませんでしたが、代理人を持たなかったクライバーは個人的にこの広瀬さんに全幅の信頼を置いていたことが分かります。沖縄、京都、奈良、そして箱根とプライベートの間来日にはこの広瀬さんがコーディネイトしています。この本では全幅の信頼を置いていたクライバーが自宅に彼を招きクライバーが亡くなった2004年の1月にも訪ねて家族の写真を撮っています。
死の3ヶ月前のクライバー
このクライバーしかり、ダニエル・バレンボイムしかり、スピン・メータしかり、彼と出会ったアーティストはみな彼の人柄にひかれてたれを頼っています。
第1幕以降は舞台芸術で活躍した話になりますが、広渡さんが書いたこの回想録を読みながら、わが国へのスカラ座など海外の有名歌劇場の引っ越し公演は、かくして実現したのかとちょっと興奮しました。 たいへんに興味深く、驚きのエピソードが満載です。 「こうもり」の上演時はNHKホールを使ったようなのですが、公演期間中にNHKの歌謡祭のイベントが入っていて、セットの回り舞台を撤去しなくてはならないことになったそうで、NHKの会長に直訴してそのままの舞台を反対に歌謡祭で使うように変更してもらったようです。また、その歌謡祭に出演者のヨッヘン・コワルスキーが飛び入りで参加してオペラ歌手のすごさを見せつけたとか、また、クライバーの最後のオペラ公演のR.シュトラウスのばらの騎士」では法外の著作権料の請求があったようです。これは1992年の愛知県芸術センターの杮落としで上演された「影のない女」で高額な著作権料が支払われたようで、この公園でも6公演で3000万を請求されたそうです。裁判沙汰にまでなったようですが、後世に禍根を残さないような解決が図られています。まあ、こういうエピソードは読んでいて初めて知る内容です。詳しくはぜひとも本書を手に取ってお読みください。
世界のマエストロと親しい音楽業界の日本人はほかにもいるかもしれませんが、著者ほど幅広く、しかも心からの信頼を得ている人はいないのではないでしょうか。そのことが読書中ずっと頭の中にあっりましたた。気難しいクライバーに信頼されていたことだけでもすごいのに、その他にも錚々たるメンバーとも対等ともいえる付き合いができた日本人がいること誇りに思います。中高生あたりが読めば、将来への夢や希望に強く影響を与えるのではないだろうか。広瀬氏の功績は、下記のリンクで見ることができます。
廣瀬勲氏の関わった公演一覧
広渡勲氏が関わったアーティスト&劇場関係者一覧