ダイイング・アイ | geezenstacの森

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ダイイング・アイ

 

著者:東野圭吾

出版:光文社 光文社文庫

 

 

 村慎介は何者かに襲われ、頭に重傷を負う。犯人の人形職人は、慎介が交通事故で死なせた女性の夫だった。 怪我の影響で記憶を失った慎介が事故について調べ始めると、周囲の人間たちは不穏な動きを見せ始める。誰が嘘をつき、誰を陥れようとしているのか。 やがて慎介の前に妖しい魅力に満ちた謎の女が現れる。女の正体は、人形職人が甦らせた最愛の妻なのか?---データベース---

 

 東野氏といえばミステリーですが、本書はそれよりもホラー、サスペンスの色が強い作品となっています。読んですっきり、というよりも、読んだ後も恐怖が続く、そんな作品です。ミステリー好きの方であれば、よく『ダイイングメッセージ』という言葉を聞くと思います。これは『ダイイング+メッセージ』で、殺人事件などで被害者が死ぬ直前に書き残したメッセージのことを言います。本書のタイトルは『ダイイング+アイ』で、直訳すると被害者が死ぬ直前に残した目という意味になります。

 

 プロローグでは自転車で交通事故に巻き込まれた女性が描かれますが、いまいち事故の状況が分かりません。本来左端を走っている自転車を跳ねるわけですから自転車は左に飛ばされるはずなのですが、この事件では右に弾き飛ばされ、そこへ対向車も突っ込んできてそこでまたはねられるという事故になっています。そのため、弾かれた女性はサンドイッチ状態になり内臓破裂で即死です。ただ、この時彼女の眼光は引いた人間を睨みつけるようにして意識をなくしていきます。その眼光がこの物語を組み立てています。ただ、本編は事故から数年後からスタートします。

 

 東野圭吾にしては珍しいホラー?オカルト?系の不思議なストーリーです。閉店間際にBARに突然現れた客。不意を突かれ、突然殴られ、不運にも記憶を失ったしまう主人公。恋人が行方不明になるなか、BARに現れた魅惑的な女。欲望に逆らえず女を追ううちに、徐々に記憶を取り戻していきます。遂に、巻き込まれた事件の真相にたどり着きます。ただ、本来なら悲惨な高筒氏子がテーマになるはずが、被害者の夫が加害者を押そうという展開からしてレギュラーで、なおかつ被害者は自殺してしまうという展開です。ここでは4警察は登場しますが、事件とはほとんど絡んできませんし、絡んだ掲示まで殺されるという、魔訶府都議な展開です。

 

 そして、不思議な女が登場し、東の小説では珍しいセックス描写も盛り込まれています。その必然性はあまり感じられないのですがまあ、ドラマ化向けのサービスなのでしょう。案の定、この作品は2019年にwowowでドラマ化されています。そして、外せないどんでん返しは、とんでもないトリックが使われています。当時の警察は節穴だったのかということになりますが、それもあってこの小説では警察の存在が薄いのかもしれません。

 

 加害者の身代わりになることなど常識では考えられないのですが、いざその場面に直面すると冷静な判断はできないのでしょうかねぇ。まあ、それがあってこの小説が成立していることは否めないので、これは推理小説というよりもホラー・サスペンスと呼んだ方がいいのかもしれません。

 

 読んでから観るか、観てから読むか。これでかなり印象が変わるのではないでしょうか。