ロリン・マゼール
ベルリン・フィル「田園」
ベートーヴェン:交響曲第6番ヘ長調 Op.68『田園』
1.第一楽章「田舎に到着したときの晴れやかな気分」 9:31
2.第二楽章「小川のほとりの情景」 11:46
3.第三楽章「農夫達の楽しい集い」 5:25
4.第四楽章「雷雨、嵐」 3:40
5.第五楽章「牧人の歌−嵐のあとの喜ばしい感謝に満ちた気分」 8:25
指揮/ロリン・マゼール
演奏/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
録音 1959年11月27-28日、12月2-3日、1960年3月29日
ベルリン、イエス・キリスト教会
タイム/ライフ TLI 1011(原盤DGG104436)
これはマゼールの最初期、29歳になる年にベルリンPOと録音したものです。手元にあるのはタイム/ライフ社が発売した「ホーム・クラシック・コレクション セレクテド・シンフォニイズ」という10枚組のボックスセットの中の一枚です。2017年に捕獲していますが、今まで全く取り上げていませんでした。ということでこんない、このボックズットの中からこのマゼールの「田園」を取り上げた訳です。下の写真はグラモフォン・スペシャルで一般に発売された時のものです。まあ、ヘリオドール時代から何度も再発されていますが、田園1曲ということもあり全く興味がなかった一枚でした。
調べるとマゼールは、前年には同じくベルリンPOと運命を録音していました。翌年には最年少でバイロイト音楽祭に呼ばれたので、人生の一つのピーク期だったでしょう。ただ、これを聴いていると意外な程あっさりしていて、表面的に聴くと習字をする時半紙の下に手本を敷いて透かし、それを上からなぞって書くように慎重な田園だと思いました。でもちょっと聴くと穏当なのですが、聴き耳を立てるといろいろとやっていることがわかります。でも、首尾一貫、とまではいかない…そんな印象です。何しろまだ20代の録音ですからねぇ。それに添加のベルリンフィルを無効に回しての録音です。録音に5日間をかけているところにも、苦労が滲む。
上の録音データを見てもわかるように、「田園」は1959年の11月から12月と、1960年3月にかけての録音。1960年3月といえば、同じベルリン・フィルを指揮してクリュイタンスが有名なセッション録音を行なった月でもありますが、日時は1960年3月2,3,9日。場所はグリューネヴァルト教会。なんと!マゼールのセッションの途中に割り込んで、録音を完成しているのですなぁ。交響曲全集の一環で、仏パテのスタッフによる出張録音である。
下記は録音年が近いものの中では比較的合計演奏時間が近いものです。レイホヴィッツとロイヤルPOは作曲者のメトロノーム指定を守った最初の録音として知られています。マゼールの合計演奏時間はこれらの内、シューリヒトとオーマンディの間におさまります。第二楽章以外はシューリヒトが一番マゼールに近い時間です。
マゼール・ベルリンPO・1959年
①09分31②11分46③5分25④3分40⑤8分34 計38分56
クリュイタンス/ベルリンフィル、1960年
①10分22②13分47③5分52④3分46⑤9分52 計43分39
シューリヒト・パリ音楽院管・1957年
①09分22②12分31③4分58④3分35⑤8分37 計39分03
レイホヴィッツ・ロイヤルPO・1961年
①11分33②12分40③5分06④3分32⑤9分30 計42分21
オーマンディ・フィラデルフィア・1965年
①09分19②12分21③3分00④3分45⑤9分23 計37分48
第1楽章
第1楽章は中庸のテンポで開始されます。カラヤンの演奏だとレガートがかかって滑らかな滑り出しですが、このマゼールの演奏ではアクセントをきっちりと立てていて弾むようなリズムで演奏しています。ただ、全体の響きは薄く音楽自体には深みを感じません。フレーズの長短、各パートの音量バランスなど、隅々までコントロールされているのは聞き取ることができます。提示部はまずまずの音楽ですが、展開部以降は、マゼールの個性がすでにひらめいていて、埋もれがちなパートを浮かび上がらせ、リズムは鋭く煌めいています。普段はブレンドされた響きとして聴いている箇所も、譜面が透けて見えるような響きを聴き取ることができます。
第2楽章
弱音でそっと開始されます。早めのテンポでさらさらと流れるが、音の起伏やドラマは意識して押さえられているようで淡々と流れていきます。この楽章の情感を楽しむには、やや淡白に過ぎる表現と感じられます。
第3楽章
この楽章はやや遅めのテンポで開始されます。ただ、上の表でレイボヴィッツ/ロイヤルフィルの演奏は現代オーケストラを使いながらベートーヴェンの指示したメトロノームの指示に忠実に演奏したという最初のものですが、意外にもそれより若干遅いだけです。ここではやはり、アクセントを強調した音楽作りで、クラリネットとホルンの音色が美しく響きます。全体的には描写的ではなく、整然たる合奏で通す。トリオも強音で盛り上げたりしないで、室内楽的な透明感を保持しています。
第4楽章
ここでは敢えて描写性を排除するかのように、音圧を低めに抑え、凝縮感だけで勝負しているような気がします。ティンパニとトランペットが溶け合った破裂音、中間部の木管金管の動き、高らかに音をのばすピッコロなどをやや強調し、ドラマチックながらいたつてクールな演奏になっています。
第5楽章
早いテンポで静かに進行していきます。この演奏全体に言えるのは小節の一白目にアクセントを置いてメリハリの効いた演奏を心がけていることです。これは明らかにカラヤンのレガートを多用したスムーズで滑らかな演奏の対極にある音楽です。
つまり、第2楽章と同様淡々とした演奏で、これほど「溢れる情感」を抑制しているフィナーレというのも珍しい気がします。これが当時の田園に対するマゼールの感性だったといえばそれまでなんですけどね。ですからフィナーレなんかはえっ!これで終わっちゃうの?という感覚になってしまいました。
下にピックアップしているのは全てレコードですからお間違えのないように・・・