探偵倶楽部
著者:東野圭吾
出版社:角川文庫
「我々は無駄なことはしない主義なのです」――冷静かつ迅速。そして捜査は完璧。セレブ御用達の調査機関〈探偵倶楽部〉が、不可解な難事件を鮮やかに解き明かす! 東野ミステリの隠れた傑作登場!!---データベース---
東野圭吾第14作となる本書は、1990年に「依頼人の娘」として祥伝社から刊行されたもので、1996年の文庫化にあたり、「探偵俱楽部」と改題された作品です。それが2005年には、角川文庫から再販、2010年には谷原章介の主演でテレビドラマ化もされたという人気の作品です。手元にある本は、この時点で52版を数えています。52刷で無いところがミソです。素直に解釈すれば装丁や印字ポイントの変更、版組の変更などを経てどんどん読みやすい形に進化していると言ってもいいでしょう。奥付にも文庫化にあたり改訂しているという趣旨も書かれています。
物語の共通して登場するのは、探偵倶楽部の男女ふたりの調査員コンビですがその容姿については服装的な特徴は書かれていますが、このふたりの素性やキャラクターはまったく描かれず、主人公とは言い難い面もあります。作者は手元にある「東野圭吾公式ガイド」の中で、この作品を
{{{•・•探偵役はむしろ脇役で、事件に巻き込まれた人間や犯罪者の視点が中心になっています。おそらく、そういう視点で書くことに面白さをみいだしてきた頃なんでしょう。}}}
ということで、実質的に、事件の関係者が交代で主役を務めており、探偵役にほぼスポットライトを当てないというのが、本作におけるチャレンジの部分なんでしょう。探偵のキャラクターを重要視するミステリー界へのアンチテーゼだったりするのかもしれません。そういう意味ではテレビドラマ化されたというのはこういう視点を無視している訳ですから本来的には見ない方がいいといえます。フジテレビは話題になればなんでもドラマ化する悪い習慣の最たるものと言えるでしょう。ちなみに小生は見ていません。
「偽装の夜」
社長の自殺を、秘書の成田、婚約者の江里子、娘婿の副社長・高明の3人が、それぞれの事情から隠匿しようとする中でトリッキーな展開が待っています。
「罠の中」
入浴中に感電死した富豪・孝三の死を、倒叙モノ風の書きぶりで描き、読者を混乱させます。
「依頼人の娘」。
母が殺され、失意に暮れる美幸は、家族が何か隠し事をしていることを察して、貯めた小遣いで探偵倶楽部に真相究明を依頼します。
「探偵の使い方」
芙美子が夫の浮気調査依頼しますが、この調査は表向きの仕掛けで、その後不可解な殺人事件に発展していきます。
「薔薇とナイフ」
大学教授・大原泰三は、娘である由理子の妊娠に対して、父親を突き止め、追放するために調査を依頼します。
確かに探偵倶楽部という調査機関を前提としていながら、作風や探偵の関わり方を絶妙に変化させて、単調にならないように工夫されている小説ではあります。その意味ではタイトルを変更して成功した作品と言えるでしょう。「偽装の夜」、「罠の中」は、どちらも犯行計画の会話からスタートする倒叙モノを見せかけつつ、本編が進んでいる途中でイレギュラー要素が加わり、追い詰められる犯人を描くというよりも、犯人すら知らない真相を探偵倶楽部が暴いていくという形式は短編ながらあっと驚くどんでん返しがあります。