名探偵の掟 | geezenstacの森

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名探偵の掟

 

著者/東野圭吾

出版/講談社 講談社文庫

 

 

 

 完全密室、時刻表トリック、バラバラ死体に童謡殺人。フーダニットからハウダニットまで、12の難事件に挑む名探偵・天下一大五郎。すべてのトリックを鮮やかに解き明かした名探偵が辿り着いた、恐るべき「ミステリ界の謎」とは?本格推理の様々な“お約束”を破った、業界騒然・話題満載の痛快傑作ミステリ。---データベース---

 

 実は、この作品は「予知夢」よりも先に読み始めていたのですが、推理小説オタクではないために、最初の方で挫折したために途中放棄して売っちゃってあった作品です。その間に推理小説の十戒として知られているロナルド・ノックスを調べたりして、再び読み始めました。で、もう一度こういう東野圭吾もあるんだということでまた読み進んだという経緯があります。その、ノックスの十戒とは、

 

1.犯人は物語の当初に登場していなければならない 
2.探偵方法に超自然能力を用いてはならない 
3.犯行現場に秘密の抜け穴・通路が二つ以上あってはならない(一つ以上、とするのは誤訳) 
4.未発見の毒薬、難解な科学的説明を要する機械を犯行に用いてはならない 
5.中国人を登場させてはならない (これは中国人という意味ではなく、言語や文化が余りにも違う他国の人、という意味である) 
6.探偵は、偶然や第六感によって事件を解決してはならない 
7.変装して登場人物を騙す場合を除き、探偵自身が犯人であってはならない 
8.探偵は読者に提示していない手がかりによって解決してはならない 
9.“ワトスン役”は自分の判断を全て読者に知らせねばならない 
10.双子・一人二役は予め読者に知らされなければならない 

 

 というものです。

 

 この作品は偉大な推理小説家の作品に対するオマージュを込めたパスティーシュ作品ですなぁ。普通に笑って読むのもいいけれど、推理小説を書きたいと思っている人なら、「なるほど、今まで、こういうタイプの推理小説が書かれてきたんだ」と、探偵ものの「文学史」を辿る勉強ができます。さらにそれを題材にして笑いの要素までぶちこんでいるところが最高です。多分読んでいると推理小説にはこんなパターンがあってこういう思惑で書かれているんだ、そしてテレビドラマの2時間サスペンスはこうリメイクされているんだということが手に取るようにわかります。主な登場人物は大河原番三(Oogawara Banzou) テンプレダメ警部役。この話の脇役的主人公。42歳。天下一大五郎(Tenkaichi Daigoro) よくある感じの名探偵。 神出鬼没、頭脳明晰、博学多才、時々刑事、時々女子大生 年齢不詳という設定です。ただし、他の作品には登場しないこの作品の中での設定となっています。

 

 パロディであり、バスティーシュの各話短編なので事件発生からすぐに名探偵登場、そしてあっという間に事件が解決してします。ストーリーなど不要とばかり、どんどん割愛されていく様は爽快でさえあります。ネタにされるのは【密室】【ダイイングメッセージ】【2時間ドラマ】【首なし死体】などなど。いかにもあるあるな状況ばかりで笑わせてくれます。が、短編集の常として続けて読むと飽きて来ます。小生もこれにやられました。(^_^;)長編小説をがっつり読んで疲れた時、気分転換に少しずつ読むのに丁度良い感じで面白いのではないでしょうか。にかく普通の短編集ではありません。本書で語られるのは物語ではなく、本格ミステリという作り物の世界が抱える非現実的な設定や内容に対する揶揄や疑問のオンパレードなのです。但し一応トリックもあるので作者の数あるトリックネタの棚卸ともいえるでしょう。これは東野氏の本格ミステリからの訣別の書なのか?いやいや逆に本格ミステリを愛するが故の提言と理解したほうが良いのでしょう。逆に云えば、ここには本格ミステリが抱える不自然さを敢えてこき下ろすことでその後の自作については決してそんな違和感を抱かせないぞと、ハードルを挙げているような感じさえ取れます。内容は12の作品にプロローグとエピローグが配されています。


 まあミステリーを見ているとわかるのですが、密室殺人、孤立した設定での殺人、ダイイングメッセージの殺人、時刻表のトリックを使った物、旅上ものの音節血での殺人、バラバラにした殺人事件、童謡に託した連続殺人事件とかとにかくあらゆるシュチュエーションを使って物語をパロっていきます。中でも、傑作は『花のOL湯けむり温泉殺人事件』でしょうか。何しろ原作をテレビの2時間ドラマに仕立てるために探偵を女性に変えたり男女のメロドラマをその中にぶち込んだりして、動機は単純明快でターゲットの女性主婦層ら絞った演出がなされるということでセオリー通りの展開になっています。

 

 まあ、最後にはグダグタになってメインキャストの大河原頸部まで犯人に仕立てているのですから恐れ入ります。まあ、この作品自体がテレビドラマ化されていますから、テレビで見た人も多いのではないでしょうか。