イダ・ヘンデルのシベリウス
曲目/シベリウス
Jean Sibelius Violin Concerto In D Minor, Op.47
1.Movement: Allegro Moderato
2.Movement: Adagio Di Molto
3.Movement: Allegro, Ma Non Tanto
Serenade No. 1 In D Major, Op.69a
Serenade No. 2 In G Minor, Op.69b
Humoreske No. 5 In E Flat Major, Op.89 No. 3
ヴァイオリン/イダ・ヘンデル
指揮/パァーヴォ・ベルグルンド
演奏/ボーンマス交響楽団
録音:1975/07/07,08 ギルド・ホール サザンプトン
P:ダヴィッド・モットレイ
E:ネヴィル・ボイリング
原盤 Q2EA5565,5566
東芝EMI EAC-80292
生前のシベリウス本人からもお墨付きをもらった、この曲の決定盤とも言えるイダ・ヘンデルによるヴァイオリン協奏曲。この盤は先ほど亡くなったベルグルンドが、世界初録音のクレルヴォ交響曲を含む最初のシベリウス:交響曲全集録音の一環として記録されたもの。その後1993年にラトル指揮によるライヴ盤も別レーベルで発売されましたが、録音時47歳の記録であるこのEMI盤は、心身共に充実していた正に最盛期の演奏と言えるでしょう。
イダ・ヘンデルは、1949年にヘルシンキ放送でシベリウスのヴァイオリン協奏曲を演奏した後、作曲家シベリウス本人より「あなたはあらゆる点で見事にそれを演奏しました。大成功をおめでとうございます。しかし何よりも、私の協奏曲の素晴しい解釈者を見つけたことを祝福します」と、手紙を受け取りました。その手紙が下の映像で披露されています。これは1981年にカナダのモントリオール交響楽団と共演した時の自身の解説の中で披露しています。
1975年録音時イダ・ヘンデルが47歳であったこの旧EMI盤は、心身共に充実していた正に最盛期の演奏と言えるでしょう。ソリストのみならず指揮者も一体となって、この曲の真価を世に伝える意気込みが感じられるばかりでなく、彼女の卓越したヴィルティオーゾ的感性が随所に発揮された第1楽章、シベリウス音楽の中でも随一を争う美しいメロディに溢れた第2楽章のフレージング、そして絶妙なテンポ感の中に進む指揮者との駆け引きが見事な第3楽章など、なかなか聴きごたえがあります。さらに、シベリウスが好んだヴァイオリン作品集3曲も収録されています。
ただ、このレコードを初めて聴いた時、なんてカッティングレベルの低い録音なんだろうと失望した記憶があります。もともと第1楽章は弱音器をつけたヴァイオリン群が四部に分かれてニ短調の主和音を囁くように演奏するところから始まりますがこれはあまりにも小さいのです。元々このレコードは欧米のジャケットデザインとは違うデザインで発売されていますが、それには一つの意図があったように思われて仕方がありません。
EMI ASD3199
レーベルにはステレオ/クオドラフォニックの表示が見えます。
ところが日本盤はただのステレオ表示だけです。このレコードが発売されたのは1976年で、すでに日本では4チャンネルはとっくに流行が終わっていました。そんなことで、ステレオでしか発売されなかったのでしょう。ところが原盤はちゃんとクオドラフォニックのQ2EA5565,5566のものがつかわれています。多分マスターの段階で2ちゃんねるにミックスダウンされてはいるのでしょうがオリジナルではありません。そういうことで、このレコードは位相成分がカットされてしまつているのではないかと思えてしまいます。下の演奏はCD用に新たにマスターを起こしたものに依っているようですが?マークがつきます。じっくり聴きたい人はボリュームをかなりあげないと貧相な音にしか聴こえません。
正規のセッション録音はこれだけですが、ライブはメータ/ニューヨーク・フィフィルが残っていますし、先のパウル・ファン・デッカー/モントリオール響との録音はテレビ用の映像ですが、ヴァイオリンのソロをくっきりと捉えていてイダ・ヘンデルの考えるシベリウス像がくっきりと描かれています。
さて、このレコード通常なら協奏曲を2曲カップリングして発売するのが妥当なところですが、これはベルグルンドのシベリウスの最初の交響曲全集と並行して録音された管弦楽曲集の一枚として録音されたもので、その上目シベリウスの作品をまとめて一枚ものとして発売されたものです。そんなことで、このアルバムにはセレナーデが2曲収録されています。
ヴァィオリン協奏曲から7年後に作曲された作品のようです。シベリウスはもともとヴァイオリニストを目指していたほどヴァイオリンに精通していた割にはヴァイオリンの作品は多くありませんが、この2曲のセレナーデはニ長調とト短調で書かれていて性格的にも対を成す作品になっています。
セレナーデ2
ユモレスク
この組み合わせの録音は後年、アンネ=ゾフィー・ムターが同じような組み合わせで録音しています。ただ、ユーモレスクは第5番ではなく第1番を演奏しています。シベリウスのユーモレスクは全部で6曲書かれているのですが、全曲はカカバスやロザンドの演奏があるようです。