今年のエリザベート国際コンクール
5月6日からベルギーの首都ブリュッセルで開催されていたエリザベート国際コンクール(今年はヴァイオリン部門)の優勝者が決まったようです。ウクライナのドミトロ・ウドヴィチェンコが優勝しました。2位は米国のジョシュア・ブラウン、3位はエリー・チョイ(=崔艾莉)。また、日本のMINAMI(=吉田南)が6位に入賞しています。下がその順位です。
優勝 Dmytro Udovychenko ウクライナ
2位 Joshua Brown アメリカ
3位 Ello Choi アメリカ
4位 Kevin Zhu アメリカ
5位 Julian Rhee アメリカ
6位 吉田 南 日本
順位無しファイナリスト:
Hana Chang アメリカ
SongHa Choi 韓国
Anna Im 韓国
Karen Su アメリカ
Ruslan Talas カザフスタン
Dayoon You 韓国
ファイナルの12名
このエリザベート王妃国際音楽コンクールは、チャイコフスキー国際コンクール、ショパン国際ピアノ・コンクールと並ぶ世界三大コンクールの一つで、ピアノ、ヴァイオリン、チェロ、声楽の4部門があり、年を変えて開催されています。今年はヴァイオリンで、2025年はピアノ部門、2026年はチェロ部門が開催される予定です。
優勝したウドヴィチェンコはウクライナのハルキウ生まれの25歳です。6歳でハルキウ音楽学校の特別才能クラスに入学、14歳からはドイツ・エッセンのフォルクヴァング芸術大学のボリス・ガルリツキー教授に師事。2022年からはクロンベルク・アカデミーのクリスチャン・テツラフのクラスで学んでいます。コンクール出場歴はは多く、最近では2018年「ヨーゼフ・ヨアヒム・コンクール」2位、2022年の「シベリウス国際ヴァイオリン・コンクール」で3位、昨年2023年には「モントリオール国際音楽コンクール」で優勝しています。
さて、日本勢ただ一人のファイナリスト、6位の吉田南は奈良県出身の25才です。桐朋女子高等学校音楽科を首席卒業後、ボストンのニューイングランド音楽院修士課程修了。2014年に高校1年生で「日本音楽コンクール」1位、2015年の「シベリウス国際ヴァイオリン・コンクール」に最年少入賞。2016年の「モントリオール国際音楽コンクール」でも最年少で3位を獲得しています。
ややぽっちゃり系で、集合写真では右端にいます
さて、今年は発表時にちょつとしたアクシデントが発生しました。優勝が発表されるとウドヴィチェンコは審査委員と順々に握手をしていった(これはコンクールでは通常のこと、礼儀ですな)のですが、審査委員の一人、ヴァディム・レーピンのところにきたら手を後ろにすっとさげ、握手を拒否。これが賛否両論、争論を巻き起こしています。下の写真です。
本人の回答によると「政治的な問題ではない。偉大なレーピンたいして何の恨みもないし、レーピンはこのコンクールの歴史の一角を成している。ただ、これは倫理的に正しいことではないと思った。ロシアにより両親の住むハルキウはたったいま爆撃を受けているかもしれず、ロシアの文化省に支援されているロシアの音楽祭の監督を務める人物との握手は正しいこととは思えなかった」。というわけです。
レーピンはプーチン政権と近しいところにあり、トランス=シベリア芸術祭の創設者兼芸術監督をしています。この音楽祭、「新しいシベリアの街」を意味するノヴォシビルスクは、オビ川に沿いに発展したロシア・シベリアの中心的都市。東方開拓のため19世紀末に建設が始まった街は、2017年に人口が160万人を突破、ロシア第3の都市として発展が続いている。この街は、ワデム・レーピンとマキシム・ベンゲロフという二人の国際的なヴァイオリニストを生んでいます。そして、ノヴォシビルスク州政府から資金援助も受けています。ボリショイ・バレエ団のプリマで夫人のスヴェトラーナ・ザハーロワの全面協力も受け、2016年、2017年と日本公演も実現させるなど、ロシアの芸術祭の中でも急速にその存在感を高めています。そのバレリーナの妻は今年4月にソウル・アーツ・センターでの公演が予定されていましたが、上記のような背景があるので抗議を受け中止になっています。まあ、ことほど左様に政治が絡んでいるのですなぁ。コンクール期間中にロシア軍によるハルキウ攻勢がさかんに行われており、ロケットや爆弾による砲撃があったのは周知の事実ですからねぇ。
何はともあれ、この逸材ウクライナのホープとして今後世界で活躍するでしょう。