サヴァリッシュ/コンセルトヘボウ
ベートーヴェン/交響曲第1番、3番「英雄」
曲目/ベートーヴェン
交響曲 No.1 ハ長調 Op.21 (1800)
1. Adagio molto - Allegro con brio 9:08
2. Andante cantabile con moto 8:48
3. Menuetto. Allegro molto e vivace 3:33
4. Finale. Adagio - Allegro molto e vivace 6:11
ベートーヴェン 交響曲 No.3 変ホ長調 Op.55 「英雄」 (1804)
1. Allegro con brio 15:44
2. Marcia funebre. Adagio assai 16:25
3. Scherzo. Allegro vivace - Trio 5:36
4. Finale. Allegro molto 11:51
指揮/ウォルフガング・サヴァリッシュ
演奏/ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団
録音/1993年6月5-12日 コンセルトヘボウ、アムステルダム
P:ジョン・フレイザー
E:マイケル・シェディ、マイク・ヴィガーズ
BRILLIANT BRL92766(原盤EMI)
世に数十セットと存在するベートーヴェンの交響曲全集。その中からこのサヴァリッシュ盤を選択しようとする人は、あまりいないのではないでしょうか。当方も、オーケストラがコンセルトヘボウでなければ、そしてブリリアントからのリセール盤でなかったら、たぶん買おうとは思わなかったでしょう。ただ、NHK交響楽団と演奏する時のベートーヴェンは聴いていて、これはと思える演奏に出会ったことがなかったのであまり期待はしていませんでした。初出時は時代が悪かったというのもあります。何しろピリオド楽器による演奏が大きな波となっていてフルオーケストラによる古式騒然たる演奏は人気がなかったような気がします。
そのサヴァリッシュとコンセルトヘボウは、1960年頃にも第6番「田園」と第7番、「フィデリオ」と「シュテファン王」の両序曲等をフィリップスに録音しています(おそらく未CD化?)。1982年にはNHK交響楽団と第5番、8番をRCAに、さらには、これは正規録音ではないかもしれませんがバイエルン放送交響楽団とベルリン放送交響楽団の合同のオケで第3番を録音しているようです。
このベートーヴェンの全集の録音にあたっては、当時常任に決まっていたフィラデルフィアとではなくサヴァリッシュの方からコンセルトヘボウを希望したとかで渋くも暖色系のサウンドを求めた事が成功しています。オーケストラをバランス良く鳴らすことにかけては常に見事な腕前を披露してきたサヴァリッシュですが、ここでも実に緻密なサウンドを構築しており、名録音の少ないEMIにしては上々の音作りでヘッドフォンや解像度高いスピーカーで聴くとその情報量の多さには圧倒されます。
最初に入っている第1番が、思いのほかいい演奏なので取り上げることにしました。フルオーケストラでの演奏ですが、ここでは編成を絞りながら若々しい新鮮さ打ち出し、なおかつベートーヴェン的な重厚さがうまくバランスしています。第1楽章は女装部はたっぷりとコンセルトヘボウの元のアンサンブルを前面に出しながら、主部はかなりエッジを効かせてリズムを刻んでいます。この時代のコンセルトヘボウはアーノンクールにビリオド奏法も叩き込まれていますから、金管の音色も古楽器の響きを感じさせます。聴き慣れた曲ですが、編成が大きいので重厚感のある演奏でピリオド団体の演奏より存在感のある演奏です。この曲に関しては提示部のリピートをしっかり繰り返しています。その点も評価できます。
第3番の冒頭もじっくりとした開始で、和音の2連打も往年の巨匠風の解釈で開始されます。その割に演奏時間が15分代というのは第1楽章の提示部のリピートが省略されているからでしょう。これはこの曲に対しての一つの原点ポイントです。もう一つは、コーダの部分でのトランペットの扱いでフルオーケストラでの演奏を優先したのか改変版で演奏していることです。せっかくオーケストラにコンセルトヘボウを使ったのならここは原典版で演奏してほしかったところです。この演奏を聴いていてふと思ったのですが、フィラデルフィアはムーティとベートーヴェンの交響曲全集を完成させていますが、ムーティの英雄はこの改訂版でえんそうしています。そういう意味では同じタイプの演奏ということで、当時はEMIにはコンセルトヘボウを起用してベートーヴェンの交響曲全集を録音した指揮者はいなかったからというコンセルトヘボウを選んだのではないでしょうか。
今回改めてこのサヴァリッシュの演奏でこの曲を聴いてみて、あまり特色のないような演奏に終始しているという印象はちょっと変わりました。ここで聴くコンセルトヘボウはハイティンクのようなそれこそオーソドックスの権化のような演奏ではなく、たとえば第4楽章のように細かくアクセントを刻みながら随所にピリオド的解釈を加えていて、それでいて従来のオーケストラの重厚さを前面に出した演奏はなかなか面白いものです。サヴァリッシュはどちらかというとと古いタイプの指揮ではありますが、よくよく聴くと当時の時代を反映したスタイルも取り込んでいて、1990年代のベートーヴェンはかくあるべきだという模範を示したのではないでしょうか。また、コンセルトヘボウを使っての録音は従来のくすみがちで芯のないEMIサウンドとは一味違う、それはフィリップスの一連の録音共また違う魅力を引き出しています。そういう意味では聴きごたえのある録音になっています。