おれは非情勤 | geezenstacの森

geezenstacの森

音楽に映画たまに美術、そして読書三昧のブログです

お れ は 非 情 勤

 

著者/東野圭吾

出版/集英社 集英社文庫

 

 

 ミステリ作家をめざす「おれ」は、小学校の非常勤講師。下町の学校に赴任して2日目、体育館で女性教諭の死体が発見された。傍らには謎のダイイングメッセージが!一方、受け持ちのクラスにはいじめの気配がある…。盗難、自殺、脅迫、はては毒殺未遂(!?)まで、行く先々の学校で起こる怪事件。見事な推理を展開するクールな非常勤講師の活躍を描く異色ミステリ。他にジュブナイルの短篇2篇を収録。

 

 ジュブナイル&ハードボイルドの佳品ですな。でも、そんなジャンル、聞いたことがない。タイトルは音読みではひじょうきんと、非常勤と非情勤を掛けています。で、登場人物にはちゃんと固有名詞がありますが、主人公は「おれ」という表記のみで名前が登場しません。ハードボイルドたる所以です。小学校の非常勤講師の「おれ」が、一文字小学校から二階堂小学校、三つ葉小学校、四季小学校、五輪小学校、六角小学校まで、六つの学校を渡り歩いて、殺人事件や盗難事件、飛び降り自殺や同未遂、脅迫付きの自殺予告、砒素入りペットボトル事件の謎を、クールな直感でもっていとも軽やかに解き明かしていきます。犯罪をとりまく状況や背景はけっこう重たいけれど、トリックそのものは漢字や計算式や略語を使っての言葉遊び。このあたりがジュブナイルたるゆえんでしょう。ジュブナイル好きにはたまらん作品です。で、最後に、子どもたち相手に、時に世間体にこだわる校長や教頭に向かって、訓辞をたれるとこなんざ、かっこいいです。「なあみんな、人間ってのは弱いものなんだよ。で、教師だって人間なんだ。おれだって弱い。おまえらだって弱い。弱い者同士、助けあって生きていかなきゃ、誰も幸せになんてなれないんだ。」こんな台詞を吐くのは、やっぱりハードボイルド教師だけでしょう。そして、小学五年の劣等生、小林竜太が鮮やかな推理力を発揮する短編二つがオマケについていて、デザートつきのフルコースを楽しめます。

 

 この本は学研の小学生向け学習雑誌『5年の学習』『6年の学習』に1997年から1999年にかけて連載され、大幅加筆の上で2003年に集英社文庫から刊行されたものに『学習・科学5年の読み物特集〈下〉』『学習・科学6年の読み物特集〈上〉』(学研)に掲載された「放火魔をさがせ」「幽霊からの電話」の2編のジュブナイル短編も収録している。

 就職活動から外れて小学校の非常勤教師になった「おれ」の赴任先で起こる事件の数々を描いています。最初の話では赴任して2日で殺人事件‥というように、短編ではお約束って感じもしますがそこはご愛嬌です。小学生向きということで、数字を使ったトリックが多いのも特色です。

から、、、、

第一章:6×3 一文字小学校
 おれが非常勤講師としてやってきた学校で殺人事件が起きます。被害者は女性教諭で、殺害現場は体育館だったというところがミソです。そこには、数字板と旗で、『6×3』という文字が残されていた。被害者が残したと思われるこのダイイングメッセージはいったい何を意味しているのでしょうか?

 

第二章:1/64 二階堂小学校
 非常勤講師のおれが受け持つ五年三組で盗難事件が起ます。秋本と吉岡の二人の生徒の財布が、体育授業中の不在の教室で盗まれたのです。カバンに入っていた『極秘』と書かれた白い手帳を見つけたときに慌てる吉岡少年。その手帳の裏には、『1/64』と書かれていました。おれは、この分数で書かれた数字が、今回の盗難事件に関係していることを突き止めます。

 

第三章:10×5+5+1 三つ葉小学校
 森本という若い教師が急死したために、非常勤講師として今度は三つ葉ニュータウンの中に建つ小学校にやってきました。森本先生の死因は、3階の教室からの転落死でした。生徒の扱いにひどく悩んでいたことから自殺ではないか推測されたが、自殺にしては不審な点がいくつもあります。そして、転落した教室の黒板には『10×5+5+1』という書き込みがのこされていました。この書き込みには、この事件に関する重大な事実が隠されていました。

 

第四章:ウラコン 四季小学校
 おれが非常勤講師で担当した5年生の少女が、自宅マンションから飛び降り自殺を図りました。おれの機転で何とか命は無事でしたが、自殺を図った少女は、その理由を話そうとはしません。しかしおれは、その少女がクラスの友人に「『ウラコン』なんかないほうがいい」と言っていたことを突き止めます。少女を自殺にまで追い詰めた『ウラコン』の正体とは?

 

第五章:ムトタト 五輪小学校
 担当する癖巣の黒板に「修学旅行を中止にせよ。しなければ自殺する」という脅迫状が置かれていました。その脅迫状が入っていた封筒の表には「先生ムトタトアケルナ」という文字が書かれています。『ムトタト』という文字の謎をおれが解き明かしたとき、この脅迫事件の真相が明らかになります。

 

第六章:カミノミズ 六角小学校
 授業中に隠れてペットボトルの水を飲んだ生徒が突然倒れ救急車で搬送されます。水の中に砒素が入っていたのです。そして、そのペットボトルには『カミノミズ』と書かれていました。『カミノミズ』の意味を解き明かしたとき、この事件の真相が明らかになります。

 

【放火魔をさがせ】
 五年生になる小林竜太の町内で次々と放火事件が起こります。そこで、町内会で夜回りをすることになります。その夜回りを竜太の父が当番になったので、竜太も一緒に付いていくことにする。だが今度は、夜回り当番で集まる場所が狙われて、その家が全焼してしまいます。

 

【幽霊からの電話】
小林竜太の家に「おかあさんです。今夜七時頃帰ります。・・・」という留守電が入っていました。それにも関わらず竜太の母は、その時間よりずっと早く帰宅しました。竜太の母は、そんな電話はしていないと言います。そして、竜太の同級生6人のところにも全く同じ内容の電話が掛かってきたらしいのです。さらに驚くことに、その声の主は1週間前に亡くなっていたことが判明します。まさに、死者からの電話だったのです。・・・ちょっとほろりとするミステリーでした。

 ということで、気分転換で読めるミステリー小説になっています。