宇野功芳 2回目の「英雄」 | geezenstacの森

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宇野功芳

2回目の「英雄」

 

曲目/

1.チューニング    1:43

ベートーヴェン/交響曲第3番『英雄』変ホ長調作品55   

2.第1楽章    18:25

3.第2楽章    16:56

4,第3楽章    7:06

5.第4楽章    15:11

6.シューベルト/劇音楽『ロザムンデ』より間奏曲第3番D.797-7   7:09

 

指揮/宇野功芳

演奏/アンサンブルSAKURA

録音/1996/07/07 上野学園石橋メモリアルホール、東京

 

fontec  FPCD-2326

 

 

調べると宇野功芳氏はベートーヴェンの「英雄」を5種類録音して残しています。これはCD化されたものだけですから、プライベートではもっとあるのかもしれません。以下調べたリストです。

 

交響曲第3番「英雄」

1.サントリー・ホール、大ホール    新星日本交響楽団    CD: FIREBIRD KICC 5    1990/06/24               

第1楽章終了後、第2楽章の演奏を前々日に逝去した渡邉暁雄氏に捧げる旨、指揮者が発言している。

                

2.石橋メモリアル・ホール    アンサンブルSAKURA    CD: fontec FPCD2326    1996/07/07               

                

3.いずみホール    アンサンブルSAKURA    CD: アンサンブルSAKURA自主製作  URFC-0006~07    2000/07/09               

当日のリハーサル風景16分程度も収録されている。

                

4.川口総合文化センター・リリア「音楽ホール」    アンサンブルSAKURA    CD: アンサンブルSAKURA自主製作 URFR-0084    

2006/07/15               

                

5.東京オペラシティ・コンサートホール    東京フィルハーモニー交響楽団    CD: MUSIKLEBEN MLU-3500    2007/09/14    

 

 ここで演奏している「アンサンブルSAKURA」は1990年に音楽を愛する有志によって「限られた時間の中、個々の練習成果を月1回合奏練習する事の積み重ねにより、1年後に弦楽アンサンブルの演奏会を行う」と言う目標のもと発足しましています。その後4回の演奏会を経てオーケストラとして続けて行くべく、広く「音楽を楽しむ」仲間を募り現在に至っています。まあこうして設立されたのですが、元々は日大のOB・OGの有志のアンサンブルとしてスタートしています。そして、宇野氏とは日大管弦楽団とのつながりからSAKURAでも指揮することになったようで、当初から熱狂的な「宇野ファン」というのは団員にはほとんどいなかったようです。

 

 この録音は、前回から6年後ということになります。新星日本交響楽団はプロのオーケストラでしたが、今回はアマチュアのオーケストラとの録音という違いはあります。つまり、前者は曲がりなりにも一定レベルを維持した演奏を展開していましたが、こちらは指示の徹底という分にはリハーサルもそれなりにしていますからアンサンブルのまとまりはあります。しかし、管楽器部分にやや不安定さが表れているのは仕方がないところなんでしょう。そういうポジションの違いはありますが、そして、前回は第1楽章は17分半ばの演奏でしたから、ここではさらに遅いテンポで演奏されていることになります。冒頭の和音は今回も無茶苦茶遅いテンポですが、アインザッツは揃っています。まあ、揺るぎない宇野節の解釈といってもいいでしょう。録音は今回は500席余りの中規模のホールですからかなり近接音で捉えられています。前回もそうでしたがティンパニの鳴らし方が独特で、弱音はありません。全て強打で打ち込まれていますから最初聴いた人はびっくりするでしょう。これが最後まで続きますから聴く方は疲れてしまいます。サントリーホールのムーディに流れてしまう音の捉え方が芯のある宇野節をほとんど捉えておらず、ティンパニも全く冴えず、それ以前に、オケの側が「普通でない」解釈を許容しきれず、必死に音を出さないことがプロの美徳と言わんばかりに事務的な演奏に終止しているのが残念なところでもありました。さらに趣向を凝らしたデフォルメが、単に奇異なデフォルメにしか聴こえない部分もありました。例えば第1楽章コーダで急激に音量もテンポも落として度肝を抜きますが、驚き以上の音楽的な訴えが湧き上がって来ませでした。それが宇野氏本人が語ったフニャッとした演奏になってしまっていたところですが、2度目のアンサンブルSAKURAとの録音はそのときの反省も踏まえてか、その部分で極端なピアニッシモにすることは避け、テンポのみ落とし、ティンパニも部分的に突出させて独特の威厳を表出しています。そういう意味では全体のまとまりは前回の解釈を更に進化させた表現が登場し、強調すべきテンポ、強弱の差、ティンパニの突出などは、完全に純粋な感興が充満した音楽として迫り、ここで宇野氏の「英雄」像の一つの結論を出すに至っています。そういう意味では完成度の高い演奏と言えます。

 

 アンサンブルの精度も前回から格段に向上。楽想の変わり目でのテンポの変化もぎこちなさを脱却。展開部で第2Vnを抉り出すこだわりも他のどの録音よりも真に迫り、木管旋律を補強するホルンに象徴されるように、各声部の隈取りも骨太で強靭。展開部の中盤でどんどんテンポを落とし、造型を極限まで肥大させる手法も、神の怒りの警告以外の何物でもありません。提示部で6回打ち込まれる和音はテンポを落として一つ一つを徹底的に強調していましたが、再現部ではあえてインテンポのまま。これは前回の録音でも同様でしたが、今回凄いのはティンパニ。硬いマレットを用いて全楽器を掻き消すほどの異常な強打で全体を完全征服しているのです!この凄まじい風圧に聴衆はどのように耐えたのでしょうか。確信を持って堂々と鳴り渡るトランペット主題直前のティンパニも、皮が破ける寸前。コーダの手ごたえも、前回までの録音を大きく引き離しています。

 

 第2楽章も前回に比べ一層音楽が濃くなり、切り込みも深なっており、トリオに入るとティンパニが全体を掻き消して咆哮します。フーガ主題に入ると更に激烈を極めて延々と全楽器が絶叫を続けます。もちろんこの間のティンパニは全ての箇所で丸裸の強打を敢行し、木管の抉り出しもかつてない強烈な張り出しで、憎悪の炎を燃え滾らせます。延々と悶絶元気列を極めて音の線も太くなっています。第3楽章も極めて低速ですが、音楽が一切だれずリズムがキリッと立ち上がっているのが宇野節ならではです。トリオで精一杯深遠な響きを出すホルンも敢闘賞もの。コーダ最後の3つのティンパニは、またしても異常な強打。そのいきり立ちのまま突入する終楽章冒頭の勢いがまた壮絶!テンポの設定もティンパニのバランスも前回の録音と変わりないのですが、鮮明な録音の効果もあって音が露骨に脳天目掛けて突き刺さり、そのたびに聴き手の心臓飛び出しかねない衝撃に襲われます。オーボエ・ソロが登場する直前の激高も常軌を逸しており、前回もティンパニは盛大に鳴り渡っていましたが、今回は更に異常さを増し、巨大な鉄板を強打しているとしか思えず、今回初登場するアッチェレランドの効果も加味して、会場全体が金縛りにあっているような空気がありありと伝わります。コーダは基本的に前回までと同様ですが、最後のティンパニのトレモロを他の楽器の音符と共に全てを激打する手法に変更し、宇野ファンでさえ閉口しかねない暴れぶり!全編異常なテンションで貫かれた演奏の最後を締めくくるには、もはや殺人鬼的と化すしかないでしょう。この演奏で前回未徹底だった部分が全て解消ています。冒頭、思い切り弦の音価を引っ張った後のティンパニは、弦と縦の線を微妙にずらして後で強打する「軋み効果」は、宇野氏ならではですが、その強打がこれまた異常。テンポと強弱の入れ替えのコントラストが以前よりも強くなっています。ただ9:30付近からのホルンの強奏はもう少し前面に出てもいいかなというんしょうがあります。ただ、この4楽章のコーダでのティンパニの傍若無人ぶりには空いた口が塞がりません。観客もびっくりなのか演奏が終わってもすぐには拍手が起こらないという珍しい演奏です。

 

 さて、この演奏残念ながらYouTubeにはありませんでした。探したらニコニコ動画の方にはありましたので貼り付けておきます。会員登録があれば聞けると思います。

 

 

 このfontec版はあまり流通ルートに乗っていないので知られていませんが、キング盤よりは完成度が高いと小生は思っています。

 

 余白にはシューベルトのロザムンデから「感想曲」が演奏されています。アンコールピースだったのでしょうが、元のアンサンブルはピッチが合わず、管楽器もヘロヘロの部分があります。後半は持ち直していますが、本番で力を出し切っているのでやや気の毒な演奏ではあります。