アダージョ・スヴェトラーノフ | geezenstacの森

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スヴェトラーノフ

メロディ Vol.2

曲目/
1.アルビノーニ:アダージョ 7:50
2.バッハ:管弦楽組曲第3番から『アリア』 6:00
3.グルック:メロディ(『精霊の踊り』より) 4:26
4.グリーグ:『ペール・ギュント』第1組曲~『オーゼの死』 5:53
5.ベートーヴェン:交響曲第3番『英雄』~第2楽章 20:59
6.ワーグナー:楽劇『神々の黄昏』~ジークフリートの葬送行進曲 8:06
7.ブルックナー:交響曲第9番~第3楽章アダージョ 23:57


指揮/エフゲニー・スヴェトラーノフ

演奏/ロシア国立交響楽団

録音:1998年

 

Venezia CDVE04269

 

 

 1990年代に「アダージョ・カラヤン」というアルバムが大ヒットしました。1995年に発売され、ヨーロッパで80万枚のセールスを記録したアダージョ名曲集で死後一時忘れ去られていたカラヤンが復活したアルバムとも言えます。ブログのタイトルは「アダージョ・スヴェトラーノフ」としましたが、実際は「スヴェトラーノフ・メロディ2」というのがこのアルバムの正式タイトルです。まあ、内容的には「アダージョ・カラヤン」の亜流という内容ですが、一つ違うのが、このCDはコンピュレーションものではなく、全てこのアルバムのために新しく録音されているというところです。

 内容は詠嘆に徹した凄いもので、ベートーヴェン『英雄』第2楽章や、ジークフリートの葬送行進曲、ブルックナー第9番アダージョなど、この種のコンセプト・アルバムでは考えられない選曲がおこなわれており、改めてスヴェトラーノフの濃厚な音楽性に驚かされます。
 

 冒頭はアルビノーニのアダージョです。普通はオルガンが入ったとしても、室内オーケストラの編成での演奏が主流なのでしょうが、ここではフル編成のオーケストラによる演奏にオルガンが乗っていて、音が重厚なのにびっくりしてしまいます。ただ、このアルバムにおけるスヴェトラーノフのアプローチは、すべてアダージョというコンセプトのもとに演奏されていて、非常にゆったりとしたテンポで、この曲がこんなに雄大な音楽であったのかということを改めて再認識させられます。

 

 

 2曲目も同じようなことが言えます。非常にゆっくりとしたテンポで演奏されていますから、これが管弦楽組曲のアリアとは一瞬気がつきませんでした。弦楽合奏のみで演奏されていますが、編成が大きくしかもゆっくりしたテンポで演奏されますから、聴き進むに従ってα波がどんどん発生して夢見心地になります。

 

 

 こうして、大編成のオーケストラで聞いてみると、グルックの「精霊の踊り」という曲が、まるで別の作品のように感じられます。ここでは、やや奥まった位置でフルートが鳴りますが、それがまたオーケストラの響きの中に溶け込んでいて、表題の精霊の踊りと言う雰囲気を実に美しく表現しているのがわかります。

 

 

 スヴェトラーノフの選曲で小品が4つ続きますが、グリーグの「オーセの死」が選ばれているのは、このアルバムにとってとてもふさわしい選曲になっています。スヴェトラーノフの演奏する弦楽の調べの美しさはことのほか纏まりがあり、美しい響きとなって聴くものに伝わ ってきます。メロディーラインを通常の組曲の演奏とは違うアクセントを強調した演奏で独立した作品として鑑賞することができます。

 

 

 これまでにスヴェトラーノフはベートーベンの英雄を2回録音していますが、これはそれとは全く違うアプローチで、葬送行進曲という表題のもとに演奏されています。それは単に交響曲第3番の第二楽章と言う位置づけではなく、明らかにそうそのための演奏に徹しているということです。ちょうど先日、妹の旦那が亡くなったばかりで、追悼の意味でこのCDを引っ張り出したのがここで取り上げる大きな理由でもあります。20分を超える演奏と言うのはなかなかあるもんではありません。ここの演奏は、ただのアダージョではなく、トランペットの強力な咆哮が死者に対する慟哭の表れをより強調しています。スヴェトラーノフがこの楽章だけを取り出して演奏しているということでは、名演と言えるのではないでしょうか。

 

 

 後半は、ややスケールの大きい作品の演奏が並んでいます。ここでワーグナーが登場するとは思いませんでしたが、流れの中ではこれはあり得る選曲だなぁという感じがします。ベートーベンの葬送行進曲の後に、もう一つのジークフリートの葬送曲です。 アダージョを集めた作品集としては、なかなか凝った選曲と言えるのではないでしょうか。演奏もベートーベンと同じようなアプローチで、弦楽の中で金管の鋭い咆哮がやや異色な演出にはなっていますが、これがロシアのオーケストラによるワーグナーなんでしょう。

 

 

 最後にチョイスされているのはなんとブルックナーの最後の交響曲の第3楽章です。完成された作品としては最後の楽章ということではブルックナーの白鳥の歌と言っていいでしょう。