エマニュエル・アックスの「皇帝」
曲目/ベートーヴェン
1.ピアノ協奏曲第4番ト長調Op.58
第1楽章 19:43
第2楽章 5:00
第3楽章 10:03
2.ピアノ協奏曲第5番変ホ長調Op.73「皇帝」*
第1楽章 20:34
第2楽章 7:24
第3楽章 10:33
ピアノ/エマニュエル・アックス
指揮/アンドレ・プレヴィン
演奏/ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団
録音:1986/09/2/、10/01 1
1986/01/22-23 2 ウォルサムストウ・アセンブリー・ホール,ロンドン
P:Joy david Saks
E:スタンレイ・グッドール
BMG 74321-17890
このシリーズではCDは国内盤は発売されませんでしたからほとんど知られていないのではないでしょうか。本国のアメリカでは「クラシック・ナビゲーター」シリーズでシリーズの28枚目として発売されたものです。いや、こういう録音があったことすら忘れ去られているCDと言ってもいいでしょう。まあ。日本でいえばベスト100シリーズといったものでしょうがアメリカでは珍しい売り方です。
これはRCAの隠れた名盤です。アックスの美しいピアノのタッチで極上のサウンドの「皇帝」が楽しめます。プレヴィンの寄り添うような伴奏も見事で威勢ばかりで大げさな演奏とはひと味違う大人の演奏が味わえます。かなり以前、東京までCDを買い出しに行った時、渋谷にあった「シスコ」という輸入専門店で偶然流れていたのがこの皇帝の演奏で、これを耳にした時、聴き惚れてしまい、とうとう全曲聴き通して納得して買ったCDです。それまでアックスなんて聴いたことも無かったのですが、なるほど室内楽に強いだけあってまさに、この演奏も室内学的アプローチでこれ見よがし的な力づくの部分がなくすごく聴きやすい演奏です。ツプの揃ったピアノのタッチで品格のある演奏です。この時もすでに廉価盤扱いになっていましたが、今は全集で更に買いやすくなっているようです。
このアルバム、「皇帝」もいいのですが、実は4番の方が聞き応えがあったりします。ほとんどのピアニストがベートーヴェンのピアノ協奏曲の中で、「皇帝」よりも好きだと答えるのがこの4番です。第1楽章の出だしの部分も阿吽の呼吸でアックスとプレヴィンの息はピッタリとあっています。プレヴィンは大物の中で遂にベートーヴェンの交響曲全集を録音しませんでした。それほど、ベートーヴェンを得意としていなかったんですなぁ。それでもアックスとはピアノ協奏曲全集を残しています。これは特異なことです。でも、この伴奏を聞いても実にしっくりとあっていて、また、アックスのピアノが粒だっている中でオーケストラと調和しています。ポリーニの演奏ではやや違和感があったのですが、このアックスの演奏は素直にベートーヴェンの音楽の中に入っていけます。RCAの録音はこの1970年代から80年代にかけてはあまり見るべきものがなかったような気がするのですが、このアックス/プレヴィンの一連の録音はなかなか音に深みがあり、バランスも取れていてそこそこの装置で聴くと至福の音楽に浸れるのではないでしょうか。