ポリーニの「皇帝」
曲目/
ベートーヴェン/ピアノ協奏曲第5番変ホ長調Op.73「皇帝」
1.第1楽章 20:20
2.第2楽章 8:07
3.第3楽章 10:15
ピアノ/マウリツィオ・ポリーニ
指揮/カール・ベーム
演奏/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
P:ウェルナー・マイアー
VE:ギュンター・ヘルマンス
RE:ヴォルカー・マーティン
録音/1978/05/22-24 ムジーク・フェラインザール
グラモフォン AA−2031(2531 1948)
手元にあるレコードは「グランピア・コンサート・シリーズ」で発売されたものです。いわゆる教育用ルートで発売されたものです。ジャケットはカーネギーホールのステージを写したものです。正規盤のジャケットは下記のデザインでした。
マウリツィオ・ポリーニは1970年代後半、30代半ばにベートーヴェンのピアノ協奏曲全曲の録音を行いました。晩年のカール・ベーム率いるウィーン・フィルハーモニー管弦楽団はその輝かしい演奏を濃密な音、豊かな音圧で支えています。ただ、グラモフォンの捉えるウィーンフィルの響きは全体的に硬質で、デッカによる収録とはやや異質の響きがします。
ただ、ポリーニとベーム、ウィーン・フィルによるベートーヴェンのピアノ協奏曲は第3番〜第5番まで録音したものの、ベームが降板したことによって第1番と第2番がオイゲン・ヨッフムによる指揮のもと録音されました。こうして、曲がりなりにもウィーン・フィルとのベートーヴェンピアノ協奏曲全集は完成しています。ただ、グラモフォンはこの寄せ集め的禅宗が気に入らなかったのか、それから10年後の1992年12月から93年1月にかけて、アバド指揮のベルリンフィルをパートナーにライヴで第1番から5番まで一気に録音したのがポリーニ2回目のベートーヴェン・ピアノ協奏曲全集を完成させます。時代的にライブが当たり前になる時代でした。そんなことで今ではポリーニのベートーヴェンのピアノ協奏曲全集はこのアバドとの録音をメインに捉えていて、このベームとの録音は忘れ去られているような気がします。
第1楽章はやや早めのテンポです。よくベームがこのテンポでバックを務めたものだという気がしますが、もう、枯淡の境地だったのでしょうか。よくオーケストラを統率してはいますが、ベームらしさはあまり感じられません。冒頭からポリーニの硬質な響きが炸裂します。どちらかというとバックハウスやグルダの演奏にシンパシーを感じる小生はこの硬質な音質には戸惑います。ただ、ポリーニの演奏は正確無比なタッチと、どれほど速く弾いても音が混じり合わない、磨いた石英の粒のような音質は独特です。ただ、オーケストラの録音にはやや難があり、低域がフォルテでまるで箱鳴りをしているような音がします。
第2楽章は白眉と言ってもいいでしょうか。冒頭から柔らかいウィーンフィルの弦の響きが目の前に広がります。ポリーニも正確なピアノタッチはそのままに、叙情性もほどよく表現した名演。硬質な音色に任せて弾きまくるだけではないところを見せ、ポリーニのイメージからするとやや意外とも言える穏やかな表情を見せています。その中にもポリーニ独特の表情づけを盛り込んでいてポリーニの世界に没入来ます。ベームはあくまでポリーニのバックに徹していますが、最後までオーケストラの手綱を緩めず恰幅のいい響きでピアノを包み込んでいます。決してベームの意図したテンポではないはずですが、最後までいい仕事をしています。
ポリーニはスタインウェイのアーティストでしたから無い物ねだりになるのでしょうが、これがピアノがベーゼンドルファーで録音会場もソフィエンザールであったならさぞかしの名演になったであろうと思われます。ちなみに当時のレコ芸ムックで「皇帝」の名盤を探してもこの演奏は高評価を得ていませんでした。それもあって教材用の音源に使われたのでしょうかねぇ。