アルバン・ベルク四重奏団のラズモフスキーとロザムンデ
曲目/
ベートーヴェン/弦楽四重奏曲第9番ハ長調Op.59-3「ラズモフスキー」第3番
第1楽章 8:07
第2楽章 10:08
第3楽章 4:56
第4楽章 6:00
tatal 29:11
シューベルト/弦楽四重奏曲第13番イ短調D.804,Op.29-1「ロザムンデ」*
第1楽章 12:21
第2楽章 6:37
第3楽章 7:28
第4楽章 7:07
tatal 33:33
アルバン・ベルク四重奏団
録音1978/08,1984/12* エウァン・ゲリカル教会,セオン,スイス
P:ゲルト・ペルク,ジョン・フレイザー*
E:ヨハン・ニコラウス・マッティス
EMI CDZ 762806
CD普及期にドイツで発売されたサンプラー的なコンピュレーションアルバムでした。限定盤でプレスがスイス、解説はドイツ語オンリーというもので1989年発売の一枚です。このシリーズには他にピアニストのツァハリスやロジャー・ノーリントンのものが手元にありますがこのアルバン・ベルクのものが一番充実しています。なを、この一枚はシューベルトはデジタル収録、ベートーヴェンはデジタル・リマスタリングとなっています。ただ、日本盤は出したら売れるという状況だったのでこういうサンプラー的なものは発売されなかったように記憶しています。
ベートーヴェンは構成のがっしりした演奏で聴いていて気持ちがいいですなぁ。アルバン・ベルクにはライブのもありますが、音の完成度という点ではスタジオ録音の方が勝っているでしょう。特に第1ヴァイオリンのピヒラーの美しい音色と合奏力の緻密さとが相まって実に完成度の高い音楽に仕上がっています。このベートーヴェンはヴィオラはバイエルレです。第1楽章の不協和音から始まる序奏を抜けると力強い主題が現れるがこれが実に生命の爆発を感じさせるがピヒラーの美音がここから冴え渡ります。あまりに美音過ぎてベートーヴェンのどこか無骨な面が少しあってもいいのではと思うこともありますが、4本の弦楽器がまるで一つの楽器のように響く、弦楽四重奏の一つの理想の形がここにあります。アナログ末期の録音も優秀で左右のスピーカー一杯に広がった音場は、聴く者を暖かく包み込みしばし別世界へと誘ってくれます。強奏でも決して濁らないアンサンブルは見事で音楽の楽しさを十二分に伝えてくれています。この演奏を聴いていると四重奏がフルオーケストラ並の迫力で聴こえるから不思議なものです。
第4楽章はベートーヴェンの指示は2分音符168でと記されていますが、これはかなり速いテンポで、さすがのアルバンベルクもその指示は守っていません。指示通りだと5分前後の演奏時間になりますが、だいたい速くて6分強、ここでは7分強かかっています。これでも充分速いと感じる演奏だからベートーヴェンの指示がいい加減(?)と言えるかもしれませんなぁ。快適なアレグロ・モルトでコーダへ突っ走るのは爽快でもあります。
一方の「ロザムンデ」は第2楽章がニックネームの由来になっているメロディが含まれる楽章なのですが「アンダンテ」の指示が結構速い演奏になっています。他の団体が平均7分前後の演奏だからよけいそう感じられるのでしょう。ここはもう少しじっくり弾き込んでほしいところでもあります。でも、反対に遅い演奏では子守唄代わりになって寝入ってしまう可能性があるので、ある意味この方がベターなのかも。ここでもアンサンブルは精緻を極め、特に第4楽章の舞曲風の旋律はさすがウィーンのアンサンブルだと感心します。ウィンナワルツ風の絶妙の崩しを聴くことが出来ます。いやあ楽しめるCDです。こういう演奏を聴いていると室内楽の楽しさに浸ることができます。
<追記>
2005年7月4日、ヴィオラ奏者のトマス・カクシュカ氏が亡くなりました。この各種花の抜けた後はイザベル・カリシウスが穴を埋めますが、緊密なアンサンブルの維持は難しかったようでその3年後に解散してしまいます。かくも、弦楽四重奏団のアンサンブルは一朝一夕では出来上がらないことを示唆しているのではないでしょうか。