ミュンヒンガーの「音楽の捧げ物」 | geezenstacの森

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ミュンヒンガー

「音楽の捧げ物」

 

曲目/J.S.バッハ

音楽の捧げものBWV.1079

1. Ricercar a 3 7:26

2. Canon peretuus a 2 1:34

3. Canon a 2 violini in unisono 0:47

4. Canon a 2 per motum contrarium 0:52

5. Canon a 2 per augmentationem contrario motu 2:19

6. Canon a 2 0:45

7. Canon a 2 1:56

8. Canon a 2 per tonos 2:23

9. Canon perpetuus contrario motu 1:21

10. Canon a 4 5:11

11. Fuga canonica 2:01

12. Largo 4:56

13. Allegro 6:17

14. Andante 2:56

15. Allegro 3:15

16. Ricercar a 6 9:22

管弦楽組曲第2番BWV.1067

17 Ouverture 6:39

18. Rondeau 1:56

19. Sarabande 3:07

20. Bouree 1 &2 1:58

21. Polonaise and Double 3:30

22. Menuet 1:22

23. Bandinerie 1:24

 

指揮/カール・ミュンヒンガー

演奏/シュトットガルト室内管弦楽団

 

録音1976/07, 1961/06*

ルートヴィヒスブルク城,ドイツ

ヴィクトリア・ホール,ジュネーヴ*

 

P:James Mallinson,Erik Smith*

E:James Rock,Andrian Reeve*

 

LONDON 430266

 

 

  1990年代の年越しは「音楽の捧げもの」を聴いていました。以前はベートーヴェンの第9ならぬ第3番「エロイカ」を聴いていたのですがさすが深夜だけあって気が引けました。その点「音楽の捧げもの」は真夜中に聴いてもそんなに気兼ねなく聴けるのでこちらに切り替えたいきさつがあります。

 「音楽の捧げもの」は新年を迎えるにあたって何か厳粛な雰囲気にさせる力を持っており、「3声のリチェルカーレ」が流れると心が洗われるものです。

そして何種類かの「音楽の捧げもの」を聴いてきた中で、このミュンヒンガー盤が一番しっくりとくるということで取り上げたわけです。ただ、世間的にはあまりこの演奏は高くないようで、」巷にあふれているのはカール・リヒターの演奏がほとんどです。

 

 日本盤も同じジャケットデザインで1990年4月1日に発売されたのですが、併録の曲目が全く異なっていました(F00L23135)。手元にあるのはプレスはドイツのハノーファーですが、アメリカ盤のロンドンレーベルで発売されたものになります。ミュンヒンガーは「音楽の捧げもの」を3回録音しており、そのいずれも曲の配列は3声、各種カノン、トリオ・ソナタ、6声のリチェルカーレの順となっていてリチェルカーレはいずれも弦楽合奏となっています。こだわりがあったんでしょうなぁ。現在は古楽器での演奏が主流ですが、ミュンヒンガーの厳格なまでのこのアプローチは忘れがたいものがあります。この弦楽合奏は心を洗われるほどにすばらしいものがあります。

 

 とかく、この曲は半音階を使ったフレードリッヒ大王の主題に基づいていて一聴すると現代音楽のような調べで、現にウェーベルンなんかが「6声のリチェルカーレ」を編曲しています。小生も元はと言えばこのウェーベルン編曲の「6声のリチェルカーレ」を最初に聴いてからこのバッハにたどり着いた口であります。この曲に関しては成立のエピソードは事欠かないくらいいろいろあり、パズル的な曲目構成といい楽器指定のない演奏方法といい、どれ一つとっても謎が含まれていて、演奏者によって全く解釈が違っているのも一つの魅力であでしょう。

 

 最大の隠し味はリチェルカーレ(Ricercar)でその語源は「Regis Iussu Cantio Et Reliqua Canonica Arte Resoluta(王の命令による楽曲。および、カノン技法で解決されるその他の楽曲)」となっており、頭文字を並べると…。つまり、バッハの言葉遊びとなっていることでしょう。

 

 

 ミュンヒンガーの演奏はこのリチェルカーレを両方とも弦楽合奏で演奏しています。手持ちのレーデル盤、メニューイン盤などはともに3声はチェンバロ独奏で始めているのですが、ここは対をなすという意味ではミュンヒンガーに軍配が上がるのではないでしょうか。そして、ここがこのミュンヒンガー版の最大の魅力でもあります。最初の3声のリチェルカーレで雰囲気は一気に厳粛になるからです。聴きはじめの頃はレーデル盤を愛聴していましたが、いつしかミュンヒンガーになったのもまさに3声のこの出だしの雰囲気からでした。「王の主題による各種カノン」は各楽器のソロを生かした堅実な演奏。聴きものはやはりトリオ・ソナタと6声のリチェルカーレです。マルティン・ガリングノチェンバロ、ハンス・ペーター・ウェーバーのコールアングレ、ロバート・ドーンのフルート、それにゲオルグ・ベノフのヴァイオリンの絡みが冴え渡り「音楽の捧げもの」の白眉を形作っています。そして締めは、まさにトリを務めるにふさわしい重厚な中にも品格のあるサウンドで6声のリチェルカーレが流れます。解釈により様々な曲目配列がありますが、対位法を完成したバッハの音楽はこのミュンヒンガーの配列が理にかなっているように思います。バッハは後に「フーガの技法」で壮大な宇宙のパノラマを描くことになりますが、その前段として大王の主題をテーマにすばらしい小宇宙を作り出しています。内容からすれば現代音楽にも通じる音の世界を既に18世紀に完成させているのは驚異に値するのではないでしょうか。

 

 併録は管弦楽組曲の第2番が選ばれているがこちらはランパルのフルートでいささか明るいサウンドに仕上がっていますが、骨格はがっしりとしておりドイツの重厚なバッハが描き出されています。バッハにはこういう演奏が似合いますなぁ。