レヴァインのサンサーンス/オルガン | geezenstacの森

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レヴァインのサンサーンス「オルガン」と

スクリャービン「神聖な詩

 

 

 

1. サン=サーンス:交響曲第3番ハ短調 op.78『オルガン付き』

Ia. Adagio - Allegro Moderato    10:24

Ib. Poco Adagio    10:17

IIa. Allegro Moderato - Presto - Allegro Moderato    7:29

IIb. Maestoso - Più Allegro - Molto Allegro - Pesante    8:11

2.スクリャービン:交響曲第3番ハ短調Op.43「神聖な詩」

I. Lento - Luttes. Allegro    24:12

II. Voluptés. Lento    12:03

III. Jeu Divin. Allegro    10:50

 

オルガン:サイモン・プレストン 1

指揮:ジェイムズ・ブラウン 1

   ミハイル・プレトニョフ 2

演奏:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 1

   ロシア国立管弦楽団 2

 

録音:1986/06 ベルリン、フィルハーモニー 1

  1998/03  モスクワ音楽院 2

DGG    00289 479 3005

 

 

 この組み合わせは「100グレート・シンフォニー」でしか発売されていない組み合わせです。それにしてもスクリャービンが第4番の「法悦の詩」ではなくて第3番が採用されているということは、それだけグラモフォンにはソースがないということなんでしょうなぁ。いずれにしてもDGGのスクリャービンは珍しい音源です。

 

 さて、冒頭はサンサーンスです。ここでは名手サイモン・プレストンがオルガンを弾いています。まあ、これはこのオルガンを聴くべき演奏なんでしょう。レヴァインのサンサーンスは冒頭からデリカシーを感じません。ベルリン・フィルの合奏力とニュアンスの多様さも圧倒的がおよそフランス音楽らしさは感じさせません。これはレヴァインのDGG初録音となるものですが、ウイーンフィルと組んだモーツァルトの時もびっくりしましたが、セールス的には失敗したと感じています。まあ、その後DGGからは録音が出なくなりましたから体よく切られたのでしょうなぁ。オペラではいい仕事を残していますがねぇ。オペラが振れるということで重宝された部分がありますが、コンサート指揮者としてはボストン響やミュンヘンフィルを率いていたことがありますが、その組み合わせでのディスクはほとんど残されていません。

 

 冒頭こそはゆったりとしたテンポで始まりますが、さすがオペラ指揮者(!?)だけあって劇の序曲のような思わせぶりな表情付けがあり、その後はすぐにアップテンポになって進んでいきます。ベルリンフィルは機能的なオーケストラですから合わせるのはうまいですが、圧倒的な馬力で音楽を作ろうとするプレヴィンに合わせてしまっています。カラヤンはこの曲を1981年に録音していますが、そこではしっかりと手綱を引き締めてバランスをコントロールしています。そして、繊細さを求めてオルガンもフィルハーモニーの自前のオルガンを使わず、パリのノートルダム寺院のオルガンを使って仕上げています。ただ、レヴァインにはそこまでこだわりがなかったのかフィルハーモニーのオルガンでの録音でOKを出しています。また、ここではサイモン・プレストンが意を汲んで素晴らしい演奏を披露していますが、全体のバランスから言うと水と油的な部分があります。ですから、第一部後半はそれなりに聴くことができます。

 

 第2部は派手な音響でパワフルに押しますが、カラヤンもかくやという壮麗な音の大伽を築きながらも、収拾のつかないお祭り騒ぎには発展させない点はさすがオペラ指揮者。きびきびとしたテンポ感も好印象です。プレストンのオルガンは控えめなバランスで収録されていて、華美な音響効果を狙ったような所はありません。この演奏はどう聴いてもイタリア・オペラ的に聴こえます。歌い嘆き笑いなどの感情表現がとても豊かでわかりやすいものですが。そこにはフランス特有のエスプリが感じられません。レヴァインは欧米では受けてもおおよそ日本人の感性とは離れたところにあると思ってしまいます。これは良い悪いの問題ではないのでしょうなぁ。

 

 第2楽章第一部は弦の刻み音が小気味いいのですが、フレーズの強弱は強烈でやや大げさに感じてしまいます。しかし、ベルリンフィルの引き締まったなかでの野太い低弦には惚れ惚れします。この録音時はカラヤンと揉めていた時期なので豪快な演奏で引っ張っていくレヴァインに同調しているのかもしれません。終楽章でもアクセントがはっきりしておりディティールは明快です。ただ全体にテンポが早すぎて音楽にゆとりがないようにも感じます。聴感情ですが・・・この辺りがフランス音楽の難しいところなのではないでしょうか。実際、カラヤンより2分ほど早い演奏になっています。たった2分とはいえ随分印象は変わったものになっています。ここら辺の演出はやはりデュトワに一日の長があります。「オルガン交響曲」というわりにはオルガンがおとなしすぎで第2部あたりはもっと自前のホールなのですから盛大に鳴らして欲しかったというのが正直なところです。個人的にはオルガンの音を楽しむならオーマンディ/フィラデルフイアの旧録音でしょうなぁ。

 

 

 スクリャービンの「法悦の詩」を含んだ録音は、プレトニョフにとって最高傑作とも言えるでしょう。ただ、ここではそれではなく、交響曲第3番がチョイスされています。まあ、第4番は単一楽章で書かれていますし、演奏時間は20分ほどの作品ですから、サンサーンスとの組み合わせはこちらの方がベストと判断したのでしょう。なにしろこの作品は3楽章ながら45分を超える大作ですからねぇ。つまり、このアルバムはスクリャービンを聴くべきアルバムとして制作されていると言っていいでしょう。

 

 プレトニョフは自らもピアニストというところがあり、この曲を熟知した上で演奏していることが窺える素晴らしい演奏になっています。もちもち、この曲はピアノ編曲版も存在していますが、そちらの方がこの曲の構造がわかりやすいということです。ここではラフマニノフと同時代に活躍したということでロマン的な色彩を感じることができ、プレトニョフはエレガントさを基本にむせかえるような艶美な音楽世界をオーケストラから引き出しています。

 この第番は3楽章形式で、それぞれ「闘争」、「悦楽」、「神聖な戯れ」と作品には筋の通った独自のプラグラムがあります。これは傾倒していたニーチェの超人哲学の影響を指摘される作品でもあります。そういう意味ではR.シュトラウスの「ツァラトゥストラはかく語りき」とカップリングされても面白い作品と言えます。スクリャービンはその後、シベリウスのように単独の楽章だけの第4番や、光を取り入れた第5番などと進化していきますが、交響曲としては一番まとまっているのではないでしょうか。3管編成にハープが2台という編成はロマンの香りをぷんぷんと漂わせながら音楽が進行していきます。第3楽章は壮大な和音の3連発で終了しますが、間があるのでブラボーマニアは困惑する曲でしょうなぁ。プレトニョフの指揮者としての才能を再確認した演奏でもあります。