レコード芸術1974年12月号 5 | geezenstacの森

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レコード芸術

1974年12月号 

5

 

 ちょっと間が空いてしまいましたが、この号の第2特集としての「フルトヴェングラー」です。この時代東芝からはもちろんですが、コロムビアやフィリップスからもフルトヴェングラーの録音が争って発売されていました。もちろんグラモフォンもそれなりに録音がありましたがこのブームには静観を決めていて、無理して再発はしていませんでした。一人蚊帳の外だったのはアメリカ勢のCBSとRCAでした。ここでは、そういう時代背景で再びブームになったフルトヴェングラーを取り上げています。

 

 冒頭は宇野功芳氏の一文です。氏は「私のフルトヴェングラー 」や「フルトヴェングラーの全名演名盤」などという本を上梓しているほどの人物です。「振ると面食らう」と揶揄された指揮者のそれでも喰らいついていくオーケストラとのなしえた名演と彼のカリスマ性について語っています。練習好きでしたが本番はまた違う感性で音楽を作り上げていったフルトヴェングラーの超能力についても言及しています。

 

 

 下の記事でも宇野功芳氏が登場していますが、その対談相手がちょうどドイツ・バッハ・ゾリステンのメンバーで来日していたヴィオラ奏者のパウル・シュレーヤーのインタビュー記事になっています。氏は1937年から1949年までベルリンフィルに在籍し、ここではフルトヴェングラーの指揮がいかに神秘的でありながら学院を思いのままに操っていた様が語られます。フォルで大きいというよりもピアニッシモが小さいのでよりダイナミックな演奏になっていたようです。読んでいても面白いインタビューです。

 

 

 もう一本の記事はフルトヴェングラーのメディアの解説にもよく登場する小林利之氏の記事です。ここでは初出として登場したベートーヴェンの交響曲第2番についても触れられています。これは1929年の録音ですが、手元にあるCDのフルトヴェングラーのベートーヴェン交響曲全集は1948年10月3日のウィーンフィルとのロンドンのロイヤルアルバート・ホールでの録音ですから、この小林氏の記事以降に音源が発掘できたということなんでしょう。今ではこの録音を使って旧EMIの全集が完成されていますが、この当時は東芝EMIから発売されたものは全集ではなく、この時はフィリップスから発売されていたというのに驚きます。ただ、一つ注意する点は当時の発売レコードはピッチがバラバラで、使用したテープレコーダーの性能によってバラバラの演奏時間になっていました。その点はこの記事では言及されていません。

 

 また、第9番についてはこの当時の発売盤に基づき3種類が取り上げられていますが、現在では下記の録音が確認できます。いかにフルトヴェングラーの録音が今でも重宝がられているかという証でしょう。

 

1. ベルリン・フィル(1937年5月1日、ロンドン)
2. ベルリン・フィル(1942年3月22-24日、ベルリン)
3. ベルリン・フィル(1942年4月19日、ベルリン)
4. ストックホルム・フィル(1943年12月8日、ストックホルム)
5. ウィーン・フィル(1951年1月7日、ウィーン)
6. バイロイト祝祭(1951年7月29日、バイロイト)EMI版
7. バイロイト祝祭(1951年7月29日、バイロイト)バイエルン放送/スウェーデン放送版
8. ウィーン・フィル(1951年8月31日、ザルツブルク)
9. ウィーン・フィル(1952年2月3日、ウィーン)
10. ウィーン・フィル(1953年5月30日、ウィーン)
11. ウィーン・フィル(1953年5月31日、ウィーン)
12. バイロイト祝祭(1954年8月9日、バイロイト)
13. フィルハーモニア(1954年8月22日、ルツェルン)

 

 

 そして、この当時発売されていたフルトヴェングラーのレコードのディスコグラフィが最後に掲載されていました。キングもリストアップされていますが、グラモフオン盤はありません。当時は全部廃盤だったのでしょうかねぇ。この当時のレコ芸はちょっと信用できないところがあります。何しろピッタリ3ページに納めていますからねぇ。

 

 

 さて、問題の広告です。フィリップスの広告ではこの時初めてフルトヴェングラーのベートーヴェンの交響曲全集が発売されたことを告知しています。我々が普段耳にする音源とは非常に異なります。まあ、のちに判明するのですが、この演奏実は「第2」はエーリッヒ・クライバーの録音であることが判明しています。当広告には村田武雄、志鳥栄八郎、宇野功芳といった評論家諸氏が推薦文を寄せていますが、いかに評論家の言葉がいい加減かということがわかります。

 

 

 2ページ目にはこの時小澤征爾がパリ管と録音した「悲愴」が発売されています。何度も録音しているだけにこの録音は忘れ去られています。

 

 

 直輸入版という形で、こんなセットが発売されていたとは知りませんでした。全集好きの日本では多分売れなかったのではと思います。16枚組という中途半端なセットですからねぇ。

 

 

 注目していたのはグロリアシリーズとは別に限定版の形で発売されていた「パイロット」シリーズでした。フィリップスの一流アーティストの録音が1,300円で買えるというのが魅力でした。ハスキル、クラウス、シェリング、グリュミオー、ベルリンフィル八重奏団、アカデミーと軒並み購入したのを覚えています。

 

 

 ちなみに東芝EMIのフルトヴェングラーの広告は下のようなものでした。