愛知県美術館「コレクションズ・ラリー」 | geezenstacの森

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愛知県美術館

「コレクションズ・ラリー」

 

 

 美術館にとって「コレクション」といえば収蔵品のことですが、美術館ごとに収集方針があり、それぞれ特色あるコレクションを形成しています。もし、タイプの違う美術館同士が合同でコレクション展示を行ったとしたら、どんな化学反応が起きるでしょうか。これを実現したのが、4月14日(日)まで愛知県美術館で開催されている「コレクションズ・ラリー」です。

 

 愛知県美術館と愛知県陶磁美術館のコレクションを合わせると、その数は17,000件以上にのぼります。この展覧会は、そのなかから両館の4人の学芸員がそれぞれ独自の視点でテーマを立ててご紹介する、オムニバス形式の展覧会です。同じ愛知県立の美術館同士ですが、意外にもこのように大きな規模での共同企画を行うのは初めてのことだそうです。愛知県陶磁美術館が休館中(2025年4月に再開予定)だからこそ実現したこの企画、2館のコレクションが出会うことで生まれる作品同士の共鳴が見どころになっています。ただ、残念なことにこの展覧会のポスターはこの企画の趣旨を全く反映していないものになっているのが残念なところです。

短編連作のような面白さ

 本展はオムニバス形式ということで、テーマの違う4章で構成されていますが、完全に独立しているのではなく、まるで短編連作を読んでいるかのような味わいがあります。そして、各展示の区切りには陶製の狛犬が置かれていて、区画を引き立てています。展示を読み解く楽しみと言い換えても良いかもしれません。ひとりでゆっくりと味わうのはもちろん、家族や友人同士で感想を共有しながら楽しめる懐の深い展覧会だと感じました。最近の展覧会はSNSを意識して写真撮影がOKのものが多いのですが、この展覧会も全体のほぼ8割が撮影OKになっていました。ただ、ダメなものの表示が小さいので間違って撮影してしまうものもありそうです。

 

愛知県指定文化財 瀬戸窯《御深井釉鉄釉狛犬》 1749年 愛知県陶磁美術館蔵/本多静雄氏寄贈

 

第1章「JOMON」

 

 独特の力強い造形を持つ縄文土器や土偶は、多くの人々を魅了してきました。その美にいち早く気づき、世に広めたのが、芸術家の岡本太郎であることをご存知の方も多いでしょう。土にまつわる作品同士が数千年の時を隔てて出会う時、どのような共鳴が起きるのでしょうか。

 

《深鉢》縄文時代中期(紀元前3000-2000年頃) 愛知県陶磁美術館蔵/工藤吉郎氏寄贈

 

存在感のある縄文土器と、そのイメージに合わせて選ばれた数々の作品は、豊かなイマジネーションを呼び起こします。中でも土を使って描かれた淺井裕介の大作《その島にはまだ言葉がありませんでした》は作品の大きさだけでなく、びっしり描き込まれた濃密な画面が見る者を圧倒します。

 

 

第2章「うーまんめいど」

このタイトルは映像作家・出光真子の著書『ホワット・ア・うーまんめいど』 に由来し、「女性がつくったもの」という意味になります。これまで美術館に収蔵されたり展示されてきた作品の作者は圧倒的に男性が多く、近年になってようやく是正の動きが始まりました。もちろん愛知県美術館や愛知県陶磁美術館も同様です。第2章では、これまであまり展示の機会がなかった作品や新収蔵品も含めて、女性作家の作品が展示されています。

 

高橋皓子《行間》1981年 愛知県美術館蔵

 

 

高橋皓子《行間》シリーズでは、染めた麻布を使い、素材自身が変形していく力にまかせることで、美しい陰影を持ったひだが生まれました。同時に素材の質感や赤い色は肉や内臓を連想させ、肉感的な印象とつながります。この印象は、次の部屋に展示されているノロ燐の作品と響き合っているように感じられました。なお、ノロ燐の作品としては、アングラ劇団の舞台美術として全国各地を回った《胎芽供養堂》などが展示されています。

 

 

 

 

ノブコウエダ《作品》1981年 愛知県美術館蔵

 

ノブコウエダ《作品》は、御影石の端材を細長くつなげて表面を磨いた作品で、第2章「うーまんめいど」と次の第3章「ハードロック/ヘヴィメタル」の間に置かれています。両者をゆるやかにつなぐ橋の役目を果たしており、このような配置の面白さも見どころのひとつです。

 

第3章「ハードロック/ヘヴィメタル」

 

 タイトルを見た瞬間は「音楽がテーマ?」と意外に思いますが、展示を見ると「硬い岩」と「重い金属」を直訳したのだとわかり、思わず膝を打ちます。このコーナーでは重量級の作品を扱っていますが、岩のように見えて実は陶でできている作品や、鉄で作られているのに軽やかな印象を与える作品、絵なのか彫刻なのか判断に迷う作品など、常識の壁を超えてくる「ロックな」作品が集まっています。

 

杉浦康益《陶による岩の群》1991年 愛知県陶磁美術館蔵

 

同じ形の岩がいくつも並んでいると、なんとも不思議な感じがしませんか。しかもこれは岩を型取りして作られた陶製なのです。

 

中村錦平〈日本趣味解題〉より《鳴キノボルハ内面構図》1991年 (左) 《華麗ニシテ虚言》1991年(右) ともに愛知県陶磁美術館蔵

 

 こちらは、木や石、金属片やパイプから型取りした陶製の作品で、無秩序にパーツが組み合わされているように見えますが、「日本人の『飾る』という行為が、美しさを必須としない、多種多様に空間を埋めるという執着ではないか」という作者の問いかけや、陶芸の伝統的な考え方に対する反骨精神を表しているといいます。見る向きを変えるたびに、さまざまな形が現れては消えてゆきます。

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鋼鉄による作品 1982 久野誠 愛知県美術館蔵

 

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第4章「祈り」

 

 賑やかな第3章の次は静謐さが漂う第4章「祈り」です。主に仏教美術に関する作品を中心とした展示になっています。仏像や仏具などは何百年も前の品が多く、「祈る」という行為が古くから受け継がれてきたことが目に見える形で提示されています。

 

珠洲窯《五輪塔》鎌倉時代(13世紀) 愛知県陶磁美術館蔵

 

古くからお墓や供養塔として使われている五輪塔の秘密が、わかりやすくパネルで解説されています。この五輪塔が珠洲窯のものと知り、この度の能登の震災に思いを馳せ、被害に遭われた地域が少しでも早く回復するように祈らずにはいられませんでした。

 

 

神将型立像 平安時代

 

猿投窯 灰釉多口瓶 重要文化財 愛知県陶磁美術館蔵

 

 

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 この展覧会、期待しないで行くと期待を裏切る充実度で反対に感動します。