ショートショート美術館 名作絵画の光と闇 | geezenstacの森

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ショートショート美術館

名作絵画の光と闇

 

著者:太田忠司、田丸雅智

出版:新潮社

 

 

 ショートショートから作家としてのキャリアをスタートした太田忠司と、新世代ショートショート作家として人気を集める田丸雅智の二人が、古今東西の名画をテーマに競作。---データベース---

 二人のインスピレーションのもとになったのは、この10枚の名画たちです。

ゴッホ「夜のカフェテラス」
クプカ「静寂の道」
ムンク「吸血鬼」
俵屋宗達「風神雷神図屏風」
モネ「雪の中の蒸気機関車」
シャガール「サーカス」
月岡芳年「猫鼠合戦」
エッシャー「写像球体を持つ手」
マグリット「光の帝国II」
平山郁夫「月明の砂漠」

 この本には、さらにクリムト「北オーストリアの農家」を題材に、ネットで募った優秀作も収録しています。これがまた短くて、本当にショート、ショートになっています。

 絵の印象というのは様々で、作品のタイトルからイメージを膨らませるといろいろなことが想像できます。怖いもの、面白いもの、うまい!と膝を叩いてしまうもの等々、ここでは二人の作家が自分のバックボーンをベースに、原稿用紙10枚前後の作品にまとめています。その視点の違いは絵画とはこういう想像を膨らませることができる世界なのかと改めて知ることができるのではないでしょうか。

 

 作品鑑賞の前に、田丸雅智氏が以下のような「まえがき」を認めています。 

{{何か一緒に、おもしろい連載をしてみませんか。
太田さんに誘っていただいたのは、2015年の春のことでした。同じ題材で二人が別々の作品を書く「競作」なんてどうでしょう。
そんなことを言っていただいたときには畏れ多くもあったのですが、とても嬉しく、新たな挑戦にワクワクしたのを覚えています。
その競作の題材を考える打ち合わせで、絵をお題にするのはどうだろうかと提案したのはぼくでした。もともと絵画が大好きで、実際に絵から作品を書いたこともあり、絵の持つ力を日頃から強く感じていたことから出た案だったのですが、それに太田さんも快く乗ってくださり企画が動きだしました。
ですがこの連載、一筋縄ではいきませんでした。
対峙しなければならないのは、題材となる絵。そして太田さんの存在を意識せずにはいられません。おまけに連載時は誌面に掲載されるまでお互いの作品を読むことができず、いっそう緊張感は高まりました。太田さんの作品が気になって、毎回飛びつくように誌面を開いたものでした。
そんな絵にまつわる競作作品をまとめたものが、この本です。
楽しみ方は、十人十色だと思います。
二人の作家の視点の違いや共通性を楽しむもよし、純粋に勝ち負けをつけていくもよし。あるいは我々の作品から刺激を受けて、同じ絵から自分の作品を書いてしまうもよし――。
この本を通して、何らかの形でみなさんの日常を少しでも彩ることができればいいなと思っています。

さあ、想像力という名の絵筆を手にしていただき、あなたの最後の一筆で、ぜひこの競作本を完成へと導いてもらえればうれしいです。}}

 

 

 まさにこれがこの本の趣旨です。西洋絵画がメインなことは言うまでもありませんが、小説の題材にするためにはその背景を考える必要があります。そのテーマに沿って選ばれた中で秀逸だったのは俵屋宗達の「風神雷神屏風図」でしょうか。京都の建仁寺所蔵の2曲一艘の屏風絵ですが、風神と雷神の対決を描いています。この対決の解説を務めるのが〇〇なんですが、リングアナにその解説を遮られることで興奮し・・・・という展開はプロレスや格闘技ではよくあることでという発想がいいですねぇ。モネは1870年代には蒸気機関車の絵をかなり描いているのですが、ここでは「雪の中の蒸気機関車」が使われています。駅に止まる蒸気機関車はすぐさまストーリーが出来そうなもので、ここでは雪の中というのがポイントになっているでしょう。

 

 

 マルク・シャガールはサーカスの作品を画調にするほどたくさん描いています。しかし、ここでは物語にリンクする曲乗りのサーカス団員を描いたものが使われています。それを直接的に描いたのは田丸雅智氏で、そこにさらにSF的要素を盛り込んだのが大田忠司氏です。

 

 

 月岡芳年の「猫鼠合戦」も対決が楽しみな作品でした。片や西洋の「トロイの木馬」ならぬ「大犬の張子」で敵陣に突入する猫群を描いているとすればもう一作は歌舞伎をモチーフにした仕上がりになっています。そのタイトルはそのものズバリの「チュウ臣蔵」とはこれはやってくれるではないですか。まあ、洋の東西を問わずやられるのは猫族のようですなぁ。

 

 

 次のエッシャーの「写像球体を持つ手」とマグリットの「光の帝国II」は知らない作品でした。マウリッツ・エッシャーは、木版画、リトグラフ、メゾティントなどの版画制作でよく知られるオランダ人画家で、建築不可能な構造物や、無限を有限のなかに閉じ込めたもの、平面を次々と変化するパターンで埋め尽くしたものなど、非常に独創的な作品を作り上げています。下の「滝」という作品はよく知られていると思います。

 

 

でも無ここでテーマとして挙げられた作品は下の作品でした。この物語は不思議です。この水晶玉が意味するところはなんなんでしょうねぇ。

 

 

 マグリットの「光の帝国II」はタイトルとは真逆のストーリーが展開されます。そして、最後は平山郁夫「月明の砂漠」で青の世界が展開されます。最後に二人ともSFチックな作品でまとめられている点は、さすがショートショートの元祖、星新一の血を引く二人です。絵画と小説のコラボは映画の世界に通じるものを感じた作品でした。