メータのモーツァルト
曲目/
モーツァルト/交響曲第40番
1.第1楽章 アレグロ・モルト 7:46
2.第2楽章 アンダンテ 7:38
3.第3楽章 メヌエット アレグレット 4:26
4.第4楽章 アレグロ・アッサイ 6:28
アイネ・クライネ・ナハトムジーク
5.第1楽章 アレグロ 8:01
6.第2楽章 ロマンツェ アンダンテ 5:04
7.第3楽章 メヌエット アレグレット 2:08
8.第4楽章 ロンド アレグロ 4:54
指揮/ズービン・メータ
演奏/イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団
録音/1972/02 マン・オーディトリウム テルアビブ
P:レイ・ミンシェル
E:ジェイムズ・ロック
ロンドン SLA1178
メータが42歳の時に録音したモーツァルトです。2021-22年にかけて初めてベートーヴェンの交響曲全集を録音しましたがモーツァルトに至ってはこのレコード以外に交響曲第34番と39番を録音したきりで現在に至っています。ウィーンフィルとは密接な関係にありながらモーツァルトの録音が極端に少ないのは何なんでしょうかねぇ。
当時の発売元キングレコードは期待を込めてこのアルバムを格上のSLAシリーズで発売しましたがちょっと期待はずれに終わった一枚になったようで、ほとんど話題にならなかったように思います。まあ、タイミング的にも悪かったんでしょうなぁ。カラヤンがほぼ同時期にモーツァルトの後期交響曲をベルリンフィルと再録音してリリースしていましたからねぇ。
このメータの第40番はテンポ的にはかなり遅い部類に入ります。颯爽としたカラヤンは快速アレグロで飛ばしていますからその差は歴然です。カラヤンのモーツァルトはレガートが特徴的で流れるような音楽に特色があります。が、このメータの演奏はスケール感はありますが音楽がぶつ切りのイメージです。ただ、もうこの時期になると提示部はしっかりと繰り返しているし、イスラエルフィルのシルキーな弦の響きを引き出そうとしているのは伺えます。ルーメータはこのモーツァルトが録音された1977年にイスラエルフィルの音楽監督になっています。ロス・フィルとは翌年に辞任していて、78年からは二ユーヨークに転出しています。まあどちらもモーツァルトとは合わないですからこのイスラエル・フィルとじっくり取り組もうとしたのかもしれません。
そして、カラヤンに対抗して向こうがレガートならこちらはメリハリで対抗しようと考えたのかもしれません。よく聴くとフォルテのパッセージの後ディミヌエンドをかけて音楽を作っています。まるでカラヤンの解釈とは違います。ですから流麗さとは一線を画す演奏で、音楽が筋肉質に推移します。リズムをしっかり刻んでいるのでモーツァルトの音楽の構造がよくわかります。ただ、聴いて楽しいのかというとそれはちょっと違うような気がします。
全体に硬質なサウンドで、往年の名指揮者の演奏で耳が慣れているとちょっと疲れます。カラリとした澄み切った演奏とは違う、ややウェットで骨太な響きであって、音楽が筋肉質に流れていきます。多分このレコードが41番とのカップリングで発売されて同じ調子で演奏されたら肩が凝って使用がないでしょうなぁ。
そういう意味では、アイネ・クライネとのカップリングはちょうどよかったのかもしれません。ただ、音楽としては一筋縄ではいかないアイネ・クライネになっています。40番もそれほど大きな編成で演奏されてはいませんが、こちらもあっさりとした演奏とは一味違います。なにしろ演奏時間が20分以上と並の演奏とは違います。ワルターなら15分そこそこ、遅いベームでも17分台ですからこのメータの演奏のスケールの大きさが判ろうというものです。ここではセレナードというよりも、シンフォニー的なアプローチでアイネ・クライネを捉えています。
演奏を聴いて驚くのは第1楽章が8分と巨大です。これはテンポの問題でなく、第1楽章は停止部だけでなく展開部以後もそっくり繰り返しています。第2楽章は定時部だけにとどまっていますが、第4楽章もコーダ以前をリピートしています。つまりは両端楽章にウェイトを置いて演奏しているんですなぁ。こんなアイネ・クライネは初めて聴きました。面白いアプローチです。
ただこのレコードはほとんど話題にならなかったのか売れなかったのか、デッカはもう一枚このコンビでモーツァルトを録音しただけでメータのモーツァルトは諦めてしまいます。この録音、注目されなかったのでYouTubeでもその音源は全くありません。