笑えるクラシック | geezenstacの森

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笑えるクラシック

不真面目な名曲案内

著者:樋口裕一

出版:幻冬社 幻冬舎新書

 

 

 クラシック音楽は堅苦しく敷居が高い、と思われている。実際、演奏する側も聴く側も真面目な人が多い。しかし、音楽を作った作曲家たちは、必ずしも真面目に聴くものとして曲を書いていたわけではない。時には羽目をはずし、笑いの要素を織り込んでいる。本書では、ベートーヴェンの『第九』やラヴェルの『ボレロ』などを中心に、笑いどころを解説。また正真正銘笑えるオペラも紹介。初心者でもクラシックが楽しく気軽に聴けるようになる本。---デーベース---

 

 副題は「不真面目な名曲案内」である。どれほどクラシック音楽に「笑い」を見出しているんだろう? とちょっと期待して読んでいったけど、あまりの真面目さにその期待はすぐにしぼんでしまいました。音楽はもじどおり音を楽しむものであり、それをクラシックの枠の中で取り上げるというものですが、読み進んでいくとちょっとタイトル倒れになっている内容で、ギャップを感じてしまいます。それよりもクラシック音楽案内として読む分には申し分ないのですが、最初のボレロのつかみとそれ以降に続くオペラの羅列はちょっと飛躍がありすぎますなぁ。決してオペラをないがしろにするわけではありませんが、第2部で喜歌劇が取り上げられていますがが、もともと喜劇的な歌劇として企図された作品で笑いの要素がない方がおかしいわけですから、こちらは笑えて当然の作品です。この本のターゲットは一体誰なんでしょうなぁ。ラ・フォル・ジュネルの話が冒頭登場しますが、ここで真面目に演奏されたボレロは音楽の初心者だから笑えるわけで、喜歌劇は前提として言葉がわかり、題材の設定に面白さがあるから笑えるのであってクラシック初心者がいきなり笑えるものではありません。

 

 この本の章立てです。

 

目次

第1部 実は笑える曲なのに、真面目に演奏されている名曲(ベートーヴェン/交響曲第九番・合唱付き(『第九』)
ラヴェル/『ボレロ』
リヒャルト・シュトラウス/『英雄の生涯』 ほか)
第2部 正真正銘笑える名作オペラ(モーツァルト/『フィガロの結婚』;モーツァルト/『ドン・ジョヴァンニ』;モーツァルト/『コシ・ファン・トゥッテ』 ほか)
第3部 思わず笑ってしまう名曲(バッハ/『コーヒー・カンタータ』;ハイドン/交響曲第六〇番『うっかり者』;モーツァルト/『音楽の冗談』 ほか)

 

 第3部もバッハがわかり、ハイドンがわかり、モーツァルトをある程度聞き込んだ人ならそれらの音楽のアイロニー的面白さが理解できようというものです。小生も知ってはいますが、バッハ「コーヒー・カンタータ」やモーツァルト「音楽の冗談」など、ニヤつくことはできても作者が言うように抱腹絶倒の曲だとは思えませんなぁ。つかみの「ボレロ」は「ル・フォル・ジュネル」での出来事を見て観客がくすくすと笑っているのをヒントにしていますが、つかみはそれだけです。斬新な視点であることは認めますが、解釈の一つとして「笑うことも可能」とするならともかく、紹介していく曲をみな「笑うべき」と結論づける姿勢に最後まで共感できませんでした。初心者に向けて書いているのだったらなおさら、クラシック演奏が解釈によって多様に変化する面白さ、それこそ醍醐味だという立場で書くべきではなかったでしょうか。

 ある程度クラシックを聴きこんだ人間に、こんな聴き方もあるよ、と目線を変えるよううながすアプローチで展開していったほうが、作者も書きやすかったのではないでしょうか。それでも本にまで仕立てるのはなかなか難しそうですけれどね…

 とにかくちょっと期待はずれの1冊で、皮肉にも「笑えるクラシック」は最後には「笑えないクラシック」になってました。