フィリップ・アントルモン/プラッソンのサン・サーンス | geezenstacの森

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フィリップ・アントルモン/プラッソン

サン・サーンス/ピアノ協奏曲第1,5番

 

曲目/サン=サーンス:
ピアノ協奏曲第1番ニ長調 Op.17

1.第1楽章 11:52

2.第2楽章 8:58

3.第3楽章 6:36
ピアノ協奏曲第5番ヘ長調 Op.103『エジプト風』

1.第1楽章 10:57

2.第2楽章 11:42

3.第3楽章 6:02

 

ピアノ/フィリップ・アントルモン

指揮/ミシェル・プラッソン

演奏/トゥールーズ・キャピトール管弦楽団

録音:1976/06/14,15 トゥールーズ

P:ロイ・エマーソン

E:ジルベール・プレネロン、マイク・ロス=トレバー、エドワード・T・グラハム

 

CBS SONY 25AC179

 

 

 なかなか味のあるジャケットですが、これがオリジナルです。発売当時のアルバムには全く記載がありませんが、これはフランスの画家、アルベール・マルケの1918年の作品です。南仏のエスタック村を描いた作品ですが、多分日本には紹介されたことはないのではないでしょうか。マティスやルオーと同じフォービスムを代表する画家です。彼の作品は日本でもそれほど多くコレクションされていません。愛知県美術館には「ノートルダムの後陣(1902年)」が収蔵されています。

 

ノートルダムの後陣(1902年)

 

 さて、肝心のレコードです。小生もアントルモンについてはそれほど関心がありませんでした。レコード時代に所有していたのはソニーの2枚組2500円のシリーズでの協奏曲集のアルバムの中で、オーマンディ/フィラデルフィアをバックにリストのピアノ協奏曲を演奏したものでした。アントルモンはロン&ティボーコンクールにて 最高位(グランプリ無し…日本で言う1位無しの2位か?)受賞して知られるようになり、1953年には18歳でニューヨークのカーネギー・ホールでジョリヴェのピアノ協奏曲とリストのピアノ協奏曲 第1番を演奏して大成功を収め、国際的な注目を集めるようになりアメリカではV. アシュケナージ級の幅広いレパートリーと安定した演奏で名が知られていました。ただ日本での人気はイマイチで、日本でのコンサートはホールの半分ほどしか埋まらなかったようです。

 

 このレコードは1977年に発売されていますが、録音は1976年です。この76年にはEMIととの録音がスタートしていますから多分CBSへの最後の録音ではないでしょうか。久しぶりの自国のオーケストラとの組み合わせによるレコーデイングということでアントルモンは張り切っています。

 

 サン・サーンスのピアノ協奏曲自体は知ったのはかなり後になってからで、1970年代の中頃VOXが盛んにVOXBOXシリーズを発売し、その中にサン・サーンスの管弦楽作品をまとめて発売したのがビアの協奏曲を知るきっかけでした。今でも手元に残っていますが、そこではガブリエリ・タッキーノがフロマン/ルクセンブルク放送らのバックで演奏していました。その演奏はまあ、小生も若かったせいもあるのでしょうが、一言でいえば可もなし不可もなしというものでサン・サーンスの曲自体が印象に残らないものでした。

 

3枚組のVOXBX

 

 今回、このアントルモンのレコードを手に入れて久しぶりにサン・サーンスのピアノ協奏曲と向き合ってみました。ブラームスのピアノ協奏曲とほぼ同時代に書かれたことにまずびっくりしますが、ホルンのファンファーレで開始されることに先ず度肝を抜かれます。ピアノのタッチはスタインウェイを使っていることでタッキーのより硬質なアタックになっています。当時アントルモンは42歳で、まさに中堅で脂の乗ってきた頃でしょう。もともとテクニシャンですから華麗なタッチでショパンに代表されるような華麗なバリ社交界の貴公子といった雰囲気でロマンティックな雰囲気をプンプンと漂わせながら歌いまわしていきます。

 

 

 第1楽章はアンダンテで始まりその後アレグロとなりますが、この第2楽章はアンダンテからアダージォで終始します。しっとりとした曲調の中にカデンツァが散りばめられていてまさにアントルモンの独壇場の世界を展開しています。この第1番の聞きどころでしょう。

 

 

 第3楽章もオーケストラと対等にピアノを自在に弾きまくっています。曲自体がいささか表面的で深みがないのですがアントルモンはそれを逆手にとって、より、華麗に歌いまわしていきます。小生も年齢を重ねたせいもあるのでしょうが、いかにもフランス趣味に溢れた作品にサン・サーンスの時代に敏感だった個性を感じます。そして、この録音の特徴はやはりバックを務めるプラッソン/トゥールーズ・キャピトル管弦楽団の響きにもあるのでしょう。

 

 

 第1番も作曲者のサン・サーンスがピアノを弾いていましたが、この第5番も自身の61歳の祝賀演奏会で自身がピアノを弾いてお披露目しています。「エジプト風」というニックネームがついていますが、それは第2楽章に東洋風なエキゾチックな旋律が現れるからです。ただパッと聴いただけではあまりそういう部分は感じ取れません。小生も以前聴いた時は協奏曲にしては散漫な印象であまり記憶に残りませんでした。多分、このレコードでも出来としては第1番の方が良いのではないでしょうか。

 

 

 ほんとに人気がないのか、彼のサン・サーンスのアルバムは中古でもそっかかりませんでした。そうそう、うんちくを一つ、サン・サーンスのピアノ協奏曲第5番の世界初レコードは1943年の安川加寿子/尾高尚忠/東京交響楽団で当時としては画期的な出来事でした。