ビブリア古書堂の事件手帖Ⅲ ~扉子とうつろな夢~ | geezenstacの森

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ビブリア古書堂の事件手帖Ⅲ

 ~扉子とうつろな夢~

 

 

 春の霧雨が音もなく降り注ぐ北鎌倉。古書に纏わる特別な相談を請け負うビブリアに、新たな依頼人の姿があった。
ある古書店の跡取り息子の死により遺された約千冊の蔵書。高校生になる少年が相続するはずだった形見の本を、古書店の主でもある彼の祖父は、あろうことか全て売り払おうとしているという。なぜ――不可解さを抱えながら、ビブリアも出店する即売会場で説得を試みる店主たち。そして、偶然依頼を耳にした店主の娘も、静かに謎へと近づいていく――。---データベース---

 

 最初のプロローグの書き出しが重要な意味を持っています。今回の事件は物語が行ったり来たりしながら進んでいくという形をとっています。サブタイトルの「〜扉子の虚な夢〜」というのが必要かな?と思わせる展開でもあります。この間になってようやく主人公の栞子が本格的に登場し、大輔と共に大活躍します。この間の章立てです。

 

◆目次◆
プロローグ・五日前
初日・映画パンフレット『怪獣島の決戦 ゴジラの息子』
間章一・五日前
二日目・樋口一葉『通俗書簡文』
間章二・半年前
最終日・夢野久作『ドグラ・マグラ』
エピローグ・一ヶ月後

 

 今回はオールスターの登場で篠川栞子の母智恵子は娘一家にはことわりもせずに、北鎌倉からそう遠くない片瀬山に書庫つきの邸宅を構え、ハウスキーパーを雇って住んでいます。そして、ここを拠点になにやら良からぬ計画をたてています。そう、この間はこれから始まる新たな謎解きの序奏にすぎないのかもしれません。丸々1冊がプロローグで敢えて起伏の無い物語が、よりこれからの恐ろしさを想像させる展開になっています。

 今回は長編です。そして主たる舞台は百貨店の催事の古書祭りです。前巻で扉子には同性の友達ができたのですが、同性だとどうもうまくいかないようで、この間では全く登場しません。その代わり、この巻では新しいキャラクターとして樋口恭一郎が登場します。なんと扉子と同じ高校の下級生という設定です。この学生は本にはほとんど興味はありませんが、死んだ父親が古書店を経営していてその遺産として古書千冊が転がり込むことになっていました。ただ、祖父がその遺産の本話古書市で勝手に処分しようとしているという状況で物語がスタートします。しかも、その祖父はあろうことか離婚してしまっている母の承諾も取らずに恭一郎に古書市を手伝わせるのです。なんとも意味ありげな設定といえば設定です。で、当然ビリリア古書店の扉子も古書市を手伝っていますから自ずと扉子と恭一郎は出会うというわけです。

 

 で第一話では詐欺による古書の窃盗という事件が起きます。本には興味がなさそうだった恭一郎ですが、扉子からいろんな本の知識を聞いているとまんざらではなさそうです。この時点では栞子はイギリスに行っていて登場しませんし、大輔もまだ脇役的登場の仕方です。恭一郎の蔵書の全貌は見えてきませんが本はすこしづつうれていっているようです。その一冊が樋口一葉の『通俗書簡文』です。まあ、我々凡人が樋口一葉を知っているのは「たけくらべ」という作品と5千円札でしょうが、他にもこんな本を出していたんですなぁ。それと引っ掛けてあるようにその一葉の本に挟まれているのが初刷の5千円札で珍しい番号になっているのです。それが『通俗書簡文』にも挟まっていたということです。この本は結構当時恭一郎の母が父親にブレゼントしたものだったということがその真相です。

 

 物語は前後しながらその場所には篠川智恵子が存在しています。そう、大輔に語らせながら大団円は夢野久作の『ドグラ・マグラ』が登場してきます。今作で取り上げられている『ドグラ・マグラ』は、興味を持ったし読んでみたいとも思うけど、なかなか手強そうに感じます。そして、ここにもやはり、篠川智恵子が絡んできます。まあ、この後の展開は本書を読んでもらうしかないのですが、二人の女のしがらみが栞子の推理の上を言ってやや悲惨な結末になります。すべてあの人の思惑通りにことが運んだようで、結局は、彼女の手のひらで踊らされていただけだったような不思議な感覚にとらわれます。ただ、母親との対決姿勢だけではなく栞子が変わってきたことでいい方向に向かってほしいけれど、智恵子は狙ったものを簡単に諦めることはなさそうだし、どんな手でも使ってきそうだし、阻止できるのでしょうかか…?

 扉子と恭一郎は最後で大きなどんでん返しに会います。相変わらず人の気持ちを利用する智恵子とそれを知っていても好奇心には抗えない扉子、そして読書に目覚めた恭一郎のこれからが気になりすぎるところでジ・エンドです。智恵子の屋敷の書斎にデイルすることが許された恭一郎、そこに扉子も絡んでくるのでしょうか。来年の次巻が待ち遠しいですなぁ。

 

 ところで、旧シリーズは普通の数字で1巻から7巻、このシリーズはローマ数字でI巻からⅢ巻で発売されています。気が付いてました?また、遅まきながら「ビブリア」の語源も調べたら「図書の」という接頭語が語源なんですなぁ。

 

 でね気がつきました。今年も愛知県では「ビブリアバトル」が開催されます。中学生大会は10月22日に行われ、11月3日の文化の日は高校生の大会になります。「高校生ビブリオバトル愛知県大会2023」は愛知県図書館5階の大会議室で開催されます。