稀少Leopold Stokowski Painter of Orchestral Colors | geezenstacの森

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Leopold Stokowski 

Painter of Orchestral Colors

 

曲目/

A1Frédéric Chopin–Mazurka in A Minor, Op. 17, No. 45:12A2Frédéric Chopin–Prelude in D Minor, Op. 28, No. 242:23A3Frédéric Chopin–Waltz in C Sharp Minor, Op. 64, No. 23:07A4Richard Strauss–Salome - Dance of the Seven Veils9:00B1Richard Wagner–Wotan's Farewell and Magic Fire Music from "Die Walkure"17:00

A1:ショパン:マズルカ イ短調Op.17の4 5:14

A2:ショパン:前奏曲ニ短調Op.28の24 2:23

A3:ショパン:ワルツ第7 番嬰ハ短調Op.64の2 3:07 

A4:R.シュトラウス:「サロメ」から7つのヴェールの踊り

B:ワーグナー『ワルキューレ』より:ヴォータンの別れ~魔の炎の音楽~ 17:00

 

指揮/レオポルド・ストコフスキー
演奏/ヒューストン交響楽団
 
録音/1960 /03   ヒューストン
EVEREST  EV 3418
TR CR4177
 

 

 

 調べると、このアルバムは1977年に発売されていますが、この組み合わせで発売されたのはこれ1回だけです。初出時のアルバムは下のデザインで発売されていました。

 

 

 Everest – SDBR 3070という番号で、R.シュトラウスではなく、トーマス・キャニングの「ジャスティン・モーガンの讃美歌による幻想曲」という曲がカップリングされていました。ちなみにこの形でのCD発売は2016年でした。

 

 

 上はこのアルバムの裏ジャケットですが、初出のアルバムの裏ジャケットには「35mmーMagnetic Film」という表示がありました。この時代、テープ録音ではなくフィルムに録音したということでテープヒスのないクリアなサウンドで録音されていたということになります。つまりは映画のサウンドトラックと同じ仕様であったということです。

 

 

 

 ジャケットにはレコード番号はただの3418年としか記載されていませんが、エヴェレストのステレオ録音はすべてSDBRが頭につくということで、レーベルはその表記になっています。小生が輸入盤を購入していた時代は上のレーベルデザインでしたが、初出は、ステレオ録音を強調する下のデザインでただ曲目を羅列するだけのデザインで、本来はワーグナーがメインでこちらがA面、ショパンはB面扱いであったことがわかります。

 
 
 ということで、この組み合わせの録音は、日本では国内盤のレコードは出なかったのではないでしょうか。そもそも、ストコフスキーはR.シュトラウスの「サロメ」からの「7つのヴェールの踊り」はニューヨーク・スタジアム交響楽団と1958年に録音していますが、ヒューストン交響楽団とは、それと隣接して同じエヴェレストに録音していたとはちょっと考えられません。で、この組み合わせはこの番号でしか発売されていません。ストコフスキーの録音のディスコグラフィはこちらに詳しいのですが、そこにではこの録音はニューヨークスタジアム交響楽団の表示になっています。ですからこのLPは、ジャケットの表記が間違っていると考えるのが順当なところでしょう。
 

 

 

 ストコフスキーは、67年に及ぶその長い演奏活動にわたり、録音を続けました。しかし最盛期の高音質録音が少ないのと、有名曲に極彩色のオーケストレーションをまとわせて非常な人気を誇っていたことが歴史的事実でしか伝わりません。その一端を満喫できるアルバムが登場します。ショパンの名作を驚くべき楽器法で再構築。オーケストラの機能を駆使しているだけでなく、ストコフスキーならではの演出上手で一気に聴かせていまします。

 

 タイトルの「Leopold Stokowski Painter of Orchestral Colors」は意訳すれば「音の魔術師ストコフスキー」と言えるのではないでしょうか。そして、ここでのショパンの編曲作品はまさにそう読んでもおかしくない演奏が繰り広げられています。このLPを制作した人もそれを狙ってこういう構成にして発売したのでしょう。

 

 最初のマズルカは原曲も幻想的な雰囲気を湛えた佳曲ですが、ストコフスキーの編曲もそれを抑えた静かなアレンジながら音色については実にカラフルな仕掛けを詰め込んでいます。スローテンポなイントロではソロ楽器を浮かび上がらせてロマンティックな雰囲気をぷんぷんと漂わせています。原稿のオーケストラ配置はストコフスキーが編み出したともいわれていますが、その特徴をフルに活かした末尾にはチェロのトレモロがなんとも怪しげな雰囲気を醸し出しています。構成的にも最初に5分超の尺の曲を持ってきていることも成功しています。

 

 

 

 そして真ん中には賑やかなアレンジのプレリュードをもってきています。ストコフスキーらしい華やかなアレンジで金管が炸裂し弦楽器がそれを支えています。こーだなんかおどろおどろしいテインパニに加えて鐘までならし盛大に盛り上げています。まあ、難を言えば残響が長すぎるのかなという点です。

 

 

 「ワルツ」で言えることはショパンが施したであろうオーケストラ編曲よりは遥かに色彩感があり、ロマンティックで優雅な演奏になっていると思われます。チェレスタにハープという楽器を加えたり木管の響きにピアノというよりはオルガンに近い響きも織り込んでいて実に効いていて楽しい演奏になっています。

 

 

 さて、問題の「サロメ」から『7つのヴェールの踊り』です。違和感があると言えば音場がやはり他の演奏と異なる点でしようか。ただ、曲としてはストコフスキーが得意としていたようで原曲の持つ色彩感を彼らしい演出で面白く聴かせています。何しろSP時代から5回も録音していますからねぇ。これはその4回目の録音で、一般には一番知られている最初のステレオ録音です。録音年代が近いということでは音色は同一レベルです。ニューヨークフィルにはよく登場していたストコフスキーですからそこは知り尽くしてオーケストラをコントロールしています。レコード製作者がこの曲に差し替えても違和感を感じないと判断したのは正解でしょう。何しろトーマス・キャニングの作品では知名度がありませんからねぇ。でも、曲自体は土着性のあるなかなかの佳曲です。

 

 

 B面はワーグナーのワルキューレの音楽です。一般的な「ワルキューレの騎行」はここでは演奏されていません。「ヴォータンの別れ~魔の炎の音楽」です。レコード時代は続けてカッティングされていましたがCDになってからはトラックが分けられています。ストコフスキーは1955年から1961年までこのヒューストン交響楽団のシェフを務めていました。その期間の録音ということですが、この頃はベストイレブンのオーケストラに名を連ねていたと思いますが、金管にやや難ありの印象を受けます。それもあって金管の活躍する「「ワルキューレの騎行」は録音しなかったのかなと穿ってしまいます。それでも、ストコフスキーは独自のワーグナー感で重厚なワーグナーの音楽を音色面で特色をつけて演奏しています。

 

 

 

 このアルバムは思った以上に音がいいのにびっくりしてしまいました。やはり、35㎜録音が効いているのでしょう。うまくまとめたコンピュレーションアルバムですが、この形で発売されたのはほんの一時期しかなかったようです。そのため改めて中古市場を調べてみるとアマゾン・カナダでは$63、アマゾン・アメリカでは$212という高額で出品されています。当方が入手したのはタワーレコード・サンフランシスコで$2.99でした。

 

[エヴェレスト・レーベルについて]

エヴェレスト・レーベルは1950年代後半に、ハリウッド映画と同じ35ミリ磁気テープを用いて、ステレオ最初期ながら驚異的な音の良さで世界のオーディオ・ファンを興奮させました。日本でも故・長岡鉄男氏が激賞して紹介したため、今日でも伝説のレーベルとして特別な存在となっています。

 

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