ビブリア古書堂の事件手帖II
~扉子と空白の時~
著者:三上延
出版:カドカワ メディアワークス文庫
ビブリア古書堂に舞い込んだ新たな相談事。それは、この世に存在していないはずの本――横溝正史の幻の作品が何者かに盗まれたという奇妙なものだった。どこか様子がおかしい女店主と訪れたのは、元華族に連なる旧家の邸宅。老いた女主の死をきっかけに忽然と消えた古書。その謎に迫るうち、半世紀以上絡み合う一家の因縁が浮かび上がる。深まる疑念と迷宮入りする事件。ほどけなかった糸は、長い時を超え、やがて事の真相を紡ぎ始める――。---データベース---
前作で6歳だった扉子の成長が楽しみでしたが、続編では一気に成長して高校生になっています。表向きはこの扉子とおぱの物語という体裁をとっていますが、実際は大輔の事件手帳に基づく過去の物語とその後の出来事の続編が書かれた父親の手記を読み進めていく形に変わっています。内容は、まるごと一冊横溝正史です。まあ、青春時代代表作が次々と映画化されたりテレビドラマで放映されたりしてその猟奇的出来事に斜めに構えて見ていた記憶がありますが、ここでは「雪わり草」という作品にスポットが当てられています。
ところで小生らの年代で「雪わり草」というと1970年に公開されたスウェーデン映画を思い出してしまいます。元々は1945年の作品でしたが公開されたのは1970年でした。
まあ、そんなことはどうでもいいことですが、ここで話の中心になっている横溝正史の「雪わり草」は2017年に出版されるまで幻の作品であったことは事実です。したが当時の発見の状況を伝える新聞記事です。
この本の章立てです。
初めに
第一話 横溝正史『雪割草』Ⅰ
今回は丸々一冊横溝正史。江戸川乱歩との親交など、他の有名な作家とのエピソードを見ると、「本当にこの作家は実在していたんだな…」と当たり前のことですがしみじみと驚きます。扉子は、高校の友人・戸山圭の両親が経営するブックカフェで待ち合わせをしています。相手は叔母の智恵子です。智恵子は確認したいことがあるからと大輔のマイブック『2012、2021』を持ってくるよういい、扉子は智恵子を待つ間にそれらに目を通します。それはビブリア古書堂の事件手帖で、どちらにも横溝正史の『雪割草』事件について書かれていました。ということでストーリーは始まります。
第一話の2012年の出来事では遺産相続の壮絶なる歪み合いが展開されています。この当時は存在は知られていましたが横溝正史の作品の中では出版されていない作品でした。ということで当時連載されていた新潟日日新聞の新聞小説の「雪わり草」をスクラップして私家版として残された本の存在を探るという栞子と大輔の事件の顛末が描かれます。事件は一応の解決を見ますが、その中に挟み込まれていた横溝の手書き原稿が紛失しているということで本来の解決を見ないまま終了します。
大庭では扉子が読書感想文を横溝の代表作「獄門島」で書きたいというところから物語がスタートします。まあ、横溝作品ですから猟奇的な殺人が起こるのは当たり前なのですが、扉子は古書で読みたいと自分の小遣いをためて買いに出かけます。ただそこで行き違いが起こり、取り置きしてあったその本が販売されてしまっていました。なんとその本は稀覯本と称される物で、そもそもカフェ兼古書店の「もぐら堂」は値段をつけ間違えていました。本来なら3万円するこの「獄門島」を3000円で販売してしまったんですなぁ。この行き違いからこの本にまつわる複数の出来事が展開していきます。この本、そのシートで名を馳せた「朝日ソノラマ」が出版していたのです。
少年少女名探偵金田一耕助シリーズで発売された一冊だったんですな。原作は横溝正史なんですが、子供用に山村正夫が脚色していました。まあ、この事件で本屋の娘と扉子は仲良しになり友達ができて何よりです。
第三話はまたしても「雪わり草」が登場します。後日談と言ってもいいでしょう。栞子は再度清美から依頼を受けます。2012年の当事者の一人、初子が亡くなったため、その蔵書を買い取ってもらいたいという内容でした。なぜわざわざビブリアに依頼してきたのか。それは完全に謎が解けなかった九年前の『雪割草』事件と何か関係があるのではないか。そう判断した大輔と栞子は依頼を受け、前回の事件で盗まれたままだった横溝正史の直筆原稿をもう一度探すことを決めます。
2017年の時点では「雪わり草」はもう幻の作品ではなくなっています。で、当時の謎として残っていた横溝の自筆の原稿の存在です。その解決編がこのストーリーです。ヒントは草稿の原稿の表と裏では全く違った小説が書かれていたということです。発見という史実にうまく小説としての虚構を組み立てている三上氏の横溝正史へのリスペクトなんでしょうかねぇ。