アブラヴァネルのグリーグ | geezenstacの森

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アブラヴァネルのグリーグ

 

曲目/

 

録音/1975 モルモン教大聖堂 ソルトレイクシティ

 

VOX DOUBLEMASTER SPJ90106

 

 

 多分こんなCDは見かけたこともないのではないでしょうか。手持ちのCDは2002年にVOX MUSIC GROUPから新しくリマスターされたCDです。収録時間だけかデカデカと表示されていますが、録音データは全く記載がないという摩訶不思議なCDです。まあ、ジャケットにはデジタルとデカデカかと書いていますが、裏面には小さくデジタルリマスターと書き込みはあります。それまでにもグリーグの作品集はCD化されていましたがこのセットの特徴は、グリーグ作品集ということで、ピアノ協奏曲やピアノソナタなんかも収録されていることです。

 

 モーリス・アブラヴァネル(Abravanel, 1903~93)はVOXに大量に録音を残しました。小澤征爾/ボストンが29年間の在任期間で長い長いと言われていますが、このアブラヴァネルはユタ響に32年間在任していました。多分これは記録ではないでしょうか。このユタ響、こんな人物がシェフを務めています。

  • Hans Henriot (1940–1945)
  • Werner Janssen (1946–1947)
  • Maurice Abravanel (1947–1979)
  • Varujan Kojian (1980–1983)
  • Joseph Silverstein (1983–1998)
  • Keith Lockhart (1998–2009)
  • Thierry Fischer (2009–present)

 錚々たる指揮者が名を連ねています。シルヴァースタインは長くボストン響のコンマスを務めた人物ですが、小沢との相性はあまり良くなかったようです。キース・ロックハートは現在のボストン・ポップスの指揮者ですし、ティエリー・フィッシャーは2008年から2011年まで名古屋フィルの常任指揮者を務めていました。


 

 さて、アブラヴァネルはオスマン帝国(こういう時代があったのです)の生まれでスイス育ちでした。幼い時はエルネスト・アンセルメと同じアパートに住んでいたので連弾をしたというエピソードがあります。オペラのカペルマイスターからの叩き上げでしたが、アメリカに渡ってからは目とでしばらくオペラを振っていましたが、ユタ響が指揮者を募集しているのを知るとそれに応募し1947年に正式に指揮者に就任しています。

 長いキャリアですからグリーグも主要管弦楽は一通り制覇しています。でも、国内盤はほぼ発売されませんでした。一応ベートーヴェンやチャイコフスキー、シベリウスにブラームス、それにマーラーの全集を残しています。小生も手持ちにあるのはキングから1000円盤で発売された「ルロイ・アンターソン名曲集」しか知りません。

 

 ユタ州ソルトレイク市はモルモン教の総本山です。全世界で1700万人以上の会員と62,544人のフルタイムのボランティア宣教師を擁しているといわれています。現在は「末日聖徒イエス・キリスト教会」というのが正式名称ですが、この強力なスポンサーがいるので資金は潤沢で、一連の録音が実現したと言ってもいいでしょう。


 さて、このCDの中で一番聴きやすいのは冒頭の「ペール・ギュント」組曲でしょう。まあこの時代の一般として組曲での収録となっています。彼の演奏の常ですが主情を交えずさらりとした演奏になっています。要は、何も足さない、何も引かないというスタイルです。オーケストラの規模は確認できませんでしたが、それほど厚い響きではないので2管編成規模のオーケストラでしょうか。オケの精度は必ずしも高いとは言えず野暮ったい音ではあるといえます。ただ、フォルテでもうるさくなく金管なども飛び出さないため聴きやすい音と言えるでしょう。まあ、聴いてみてください。

 

 

 

 

 

 このアブラヴァネルのグリーグは実はレコードでも所有しています。他の曲はそちらで取り上げるとして、ここではピアノ協奏曲を取り上げてみましょう。アブラヴァネルはキャリアの中で「ペール・ギュント」もそうですが、ピアノ協奏曲は2回録音しています。最初はウェストミンスターへの録音で、1961年に発売されています。この時のピアノはレイド・ニブリーでした(US Westminster WST14057 )。ここではグラント・ヨハンセンがピアノを弾いています。彼はよほどこのグリーグを得意としていたのか障害に3度録音しています。1回目はモノラル時代に2度目は1960年にワルター・ゲール/オランダ放送フィルと、そして3度目がこの録音ということになります。多分日本では発売されたことがないと思いますが、アメリカではペールギュント組曲と組んで何度も再発されています。彼は本拠のソルトレイク市生まれですから、ある意味故郷に錦を飾った演奏とも言えます。非常にオーソドックスな表現でグリーグと向き合っています。ある意味、アブラヴァネルトと同じ方向性を持っていますから安心して聴いていられます。演奏もテンポ的に一番落ち着いていてある意味BGMてきに安心して聴いていられます。ようやくこの音源をアップすることができました。こんな演奏です。

 

 

 ピアニストとしてはもう一人、イザベル・モーラウが収録されています。珍しくブラジル出身のピアニストです。彼女はグリーグの抒情曲をすべて録音した最初のピアニストです。淡々としていますがよく聞くと味があります。

 

 

 

 アブラヴァネルのグリーグの録音は日本では珍品のようで、アマゾンも楽天も取り扱いがありません。