ショルティの「アイーダ」
ヴェルディ:歌劇『アイーダ』全曲
レオンタイン・プライス(アイーダ)
ジョン・ヴィッカーズ(ラダメス)
リタ・ゴール(アムネリス)
ロバート・メリル(アモナズロ)
ジョルジオ・トッツィ(ランフィス)
指揮/サー・ゲオルグ・ショルティ
演奏/ローマ歌劇場管弦楽団&合唱団
副指揮者/ルイジ・リッチ、ウーゴ・カターニア、フェルナンド・カヴァニリア
録音/961/6/24-7/26 ローマ歌劇場、ローマ
ロンドン GT7015-7
今回取り上げるのは、ゲオルグ・ショルティのまだ若かりし頃の録音で、1961年7月にローマ歌劇場管弦楽団を指揮して録音した「アイーダ」です。手元にあるのは1978年に発売された「ロンドン・オペラ名盤1300シリーズ」の1組みです。この時は、第1期として、10組のオペラが発売されました。第1回が1978年12月21日発売で、
・プッチーニ/トスカ カラヤン/ウィーンフィル GT7001−2
・ロッシーニ/セヴィリアの理髪師 アルベルト・エレーデ/フィレンツェ五月祭管弦楽団 GT7003-5
・プッチーニ/トゥーランドット アルベルト・エレーデ/ローマ聖チェチーリア音楽院管弦楽団 GT7006−8
・マスカーニ/カヴァレリア・ルスティカーナ、レオンカヴァレロ/道化師 ランベルト・ガルデルリ/ローマ聖チェチーリア音楽院管弦楽団 GT7009−11
・モーツァルト/ドン・ジョヴァンニ ヨゼフ・クリップス/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 GT7012−4
そして第2回が1979年1月21日発売で、
・ヴェルディ/アイーダ ショルティ/ローマ歌劇場管弦楽団 GT7015-7
・モーツァルト/コシ・ファン・トゥッテ カール・ベーム/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 GT7018-20
・ワーグナー/さまよえるオランダ人 ヨゼフ・カイルベルト/バイロイト祝祭劇場管弦楽団 GT7021−3
・ドニゼッティ/愛の妙薬 フランチェスコ・モリナーリ・ブラデルリ/フィレンツェ五月祭管弦楽団 GT7024-6
・ヴェルディ/オテロ アルベルト・エレーデ/ローマ聖チェチーリア音楽院管弦楽団 GT7027-9
という豪華なラインナップでした。ただし、このロンドンのオペラシリーズは歌詞対訳が付いていないというところが今一つの難点でした。
ショルティの「アイーダ」は1958年から始まったヴァーグナーの「ニーベルングの指環」の全曲録音をウィーンフィルとスタジオ録音するという壮大なプロジェクトを進めているときです。この時代英デッカは米RCAと提携していて、お互い持ち駒を相手にバーターして録音を融通していました。ということで、このアルバムは当時はデッカからの発売ではなくRCAから発売されています。当時、デッカにはすでにカラヤン/ウィーンフィルで1959年に「アイーダ」を録音していました。そんなことでRCAの企画盤ということで録音を進めたのでしょう。そして、これがショルティのRCAデビュー盤になりました。ただ、当時このレコードは日本ではそれほど話題にならなかったと記憶しています。ところで、ショルティは米国グラミー賞を歴代最多の31個も受賞し、ギネス記録を持っていますが、その快挙の最初を飾ったのがこのローマ歌劇場管との「アイーダ」のレコーディングでした。1962年の「Best Opera Recording」を受賞しています。録音も優秀だっということが伺い知れます。レコードのライナーには録音スタツフ名がありませんが当時の状況を類推するとプロデューサーはレイ・ミンシェル、録音エンジニアはロイ・ワラーチェのような気がします。日本ではショルティのヴェルディ演奏はレクイエム以外ほぼ黙殺されてしまったような気がします。不思議な話です。日本の音楽評論家は聞く耳を持っていなかったんでしょうなぁ。
さて、「アイーダ」はヴェルディの数多くのオペラの中でも人気の作品で、特にサッカーの日本代表の応援ソングでもある「凱旋行進曲」は一般的にもかなり有名な曲です。主な登場人物はエジプトとエチオピアの国同士の争いの中でエジプト軍の指揮官ラダメスと、エジプト王女アムネリス、そしてエチオピア王のアモナズロと、アモナズロの娘でアムネリスの奴隷として仕えるエチオピア王女がアイーダです。
あらすじは、アイーダは父アモナズロの指示により、ラダメスからエジプト軍の行き先の経路を聞き取り、機密情報をうっかりもらしてしまったことをラダメスは悔やみ、自らの意志でその場に留まり、祭司に逮捕されまそして審判を受け、ラダメスは生き埋めの刑に。地下牢に向かうと、そこにはアイーダが待っています。こうなることを予想してアイーダは地下牢に潜んでいたのです。ラダメスとアイーダは、2人で穏やかに死んでいきます。
ラダメス役には、軍の指揮官という勇ましさと、愛するアイーダを前にしたときの青年のような純粋な心が求められます。また、アイーダ役には、エチオピア王女なのに奴隷として仕える屈折した気持ちや、そして父であるエチオピア王を慕う娘としての気持ち、愛するラダメスを前にしたときの恋する乙女の感情、さらに両者の間で板挟みになってしまい、途方に暮れる悲しさなど、複雑な表現力が求められます。
ラダメスはアイーダと相思相愛ですが、アムネリスからも愛されています。エジプト軍はエチオピア軍に勝利し、アモナズロは奴隷となってしまいます。第2幕第2場には有名な凱旋行進曲が流れますが、この曲だけ単独で演奏会で演奏されることもあるぐらい人気曲です。時系列的に最初に「アイーダ」を購入したのはカラヤン/ウィーンフィルの抜粋盤でした。1973年に発売された「カラヤン ベスト1000」と題されたシリーズで1000円盤で投入されました。そのレコードでは序曲もなく、静かな曲で始まりました。
●第1幕:清きアイーダ
●第1幕:神聖なナイル川のほとりで・・・勝って帰れ
●第2幕:エジプトとイジスの神に栄光あれ(凱旋の場)
●第3幕:おお、わがふるさと
●第3幕:かぐわしい森にふたたび帰ろう
●第4幕:すでに神官たちが待っている
●第4幕:運命の石が・・・さらばこの世
ビックな山場は第2幕なんですな。ですから静かな曲で始まるので興醒めしたことを覚えています。また、凱旋の曲も演奏は破綻なく綺麗なんですが、いまいち盛り上がりに欠けました。そんなことで、このショルティ盤を聴いた時はこの凱旋の場の音楽でトランポットが傍若無人に吹きまくる様にびっくりしたものです。この演奏を聴くと、「アイーダ」が近世ヨーロッパのドラマではなく、古代世界の物語であることを納得させられます。ショルティの表現は実に豪快にしてダイナミックで、ヴェルディが意図したと思われる古代の遺跡や彫像に通ずる率直で硬質なドラマティシズムをあますところなく表現しています。そこから古代人の質朴な愛憎の葛藤も浮かび上がってくるというものです。この臨場感。視覚情報が無いのに音だけでこれほど劇的にオペラを表現できるなんて大したものです。ただ、この節操のない雄叫びは日本人にはウケなかったんでしょうなぁ。
この時期のショルティの指揮らしく、金管がよく響き、壮大な雰囲気に合っています。黄金期のDECCAだけに良い録音です。特に凱旋行進曲では、速めのテンポ、管弦にコーラスが加わった壮大なスケールが素晴らしいです。有名な「凱旋行進曲」のアイーダ・トランペット独特の輝きを振り撒きながら突き進む音色や、その前のワイドでド迫力の合唱もショルティの引き締まったスケール豊かな指揮と相まって実に見事でスカッと気分爽快になります。オーディオ的に聴いても第一幕第一場後半や第二場後半の合唱が力強くワイドに拡がり、その迫力に圧倒されてしまう耳で聴いているだけでもオペラの1シーンが頭に浮かんできます。アイーダ役のレオンタイン・プライスの心揺さぶる歌声も実に見事です。上品さにかけるが、生々しく心情を吐露していて生き様として迫ってくるじゃないですか。
アイーダは父アモナズロの指示により、ラダメスからエジプト軍の行き先の経路を聞き取り、機密情報をうっかりもらしてしまったことをラダメスは悔やみ、自らの意志でその場に留まり、祭司に逮捕されます。そして審判を受け、ラダメスは生き埋めの刑に。地下牢に向かうと、そこにはアイーダが待っています。こうなることを予想してアイーダは地下牢に潜んでいたのです。ラダメスとアイーダは、2人で穏やかに死んでいきます。ラダメス役には、軍の指揮官という勇ましさと、愛するアイーダを前にしたときの青年のような純粋な心が求められます。また、アイーダ役には、エチオピア王女なのに奴隷として仕える屈折した気持ちや、そして父であるエチオピア王を慕う娘としての気持ち、愛するラダメスを前にしたときの恋する乙女の感情、さらに両者の間で板挟みになってしまい、途方に暮れる悲しさなど、複雑な表現力が求められます。
そういうものが本場ローマのオケや合唱団がサポートしています。録音はデッカのスタッフが、オペレーションはRCAが綿密にサポートしての仕上がりが、グラミー賞受賞という快挙につながったのではないでしょうか。