MJQの「ブルース・オン・バッハ」 | geezenstacの森

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MJQの「ブルース・オン・バッハ」

 

曲目
1.Regret? 2:06
2.Blues in *B* flat 4:58
3.Rise Up in the Morning 3:25
4.Blues in *A* minor 7:54
5.Precious Joy 3:15
6.Blues in *C* minor 8:007.
7.Don't Stop This Train 1:48
8.Blues in *H* (B) 5:47
9.Tears from the Children 4:24

 

演奏/M.J.Q


P:NESUHI ERTEGUN

E:GENE PAUL

録音1973/11/26,27

 

米ATLANTIC 1652-2

 

 

 2016年10月にレコード芸術誌が「人生の50枚~私のリピート・ディスク・リスト」という特集記事があり、それに触発されてこんな記事を書いています。

 

 

 そこでも書いていることですが、「無人島に持っていく」的な特別なディスクではなく、長年繰り返し聴いているディスクを聴いた順に挙げるというこの選択、多少は興味のある企画なので我が人生を振り返ってつらつらとリストアップしています。しかも、この時は半数以上がクラシック以外の選曲になっているんですなぁ。この中で1970年代のアルバムとしてこのMJQの「ブルース・オン・バッハ」を入れています。

 

 1974年の解散劇(その後再結成)直前1973年のアルバムです。1972年カーネギーホールでのスペシャルコンサートの第2部プログラムをそのままスタジオ録音したものとなっています。このアルバムは初め輸入盤のレコードで聴いています。で、CD時代になって購入し直しているのですからやはり印象深いものなんでしょうなぁ。

 

 バッハのBACH(B)にちなんだ調性の4曲のブルースを1曲おきにちりばめその前後をバッハの作品のアレンジで繋ぐという構成のアルバムに仕上がっています。そしてバッハの作品はチェンバロ、オリジナル作品はピアノとジョン・ルイスは使い分けて演奏しています。ジョン・ルイスはM.J.Q.解散後、妻のミリヤナ・ルイスと組んでバッハの「ゴールトベルク・バリエーション」(PHILIPS/32JD-10001)や「プレリュードとフーガ全曲」(PHILIPS/PHCE3008-11)などを録音しているほどバッハへの深い敬愛を示しています。


 しかし、個人的にはアルバムは所有していますが、ジョン・ルイスがソロでプレイするこれらのバッハにはあまり聴く気がしません。それは、あまりにバッハの世界に入り込みすぎて自己満足的な演奏になりすぎるからということもあります。しかし、MJQの中での彼はこの部分をフォローするミルト・ジャクソンのヴァイヴに引っ張られてすばらしくスリリングで聴き応えのある演奏を展開しています。モノトーン的なルイスとミルトの相対するかのようなこのぶつかり合いがモダンジャズカルテットの醍醐味でもあり美しさなんでしょうなぁ。ここに、パーシー・ヒースのベースととコニー・ケイのドラムスが絶妙に絡むのでそれが揺るぎないMJQのサウンドを作り上げています。


 バッハの時代は即興演奏の時代で、そういう意味ではジャズに向いています。しかし、ここで演奏されるバッハの作品は原曲の枠を外れずルイスのチェンバロの旋律の上をミルトのヴァイヴがスィングしながら弾きまくるのですが、それとてジャック・ルーシェやオイゲン・キケロのような自由奔放さは感じられません。もっとも個人的にはこういうイージーリスニング的なアレンジの演奏も嫌いではありません。
 1曲目の「regret後悔」は短い曲ながら佳曲です。チェンバロの響きに重なるようにコニー・ケイのハイハットのシンバルの音が冴えいきなり敬虔に祈りを捧げる空間にトリップし、これにミルトのヴァイヴが対位法的に絡むとまぎれもなくMJQの世界を作っています。

 

 

 3曲目はコラール「目覚めよと呼ぶ声が聞こえ」BWV.645のアレンジで「やさしき朝の光」という邦題が付いている。実にオーソドックスなアレンジでメロディラインはオリジナルそのもの。わずかにヴァイヴがスイングしながら曲を進行するが崩れないリズムパターンにややじれるところが面白いです。

 

 

 5曲目はこれも有名なコラール「主よ人の望みの喜びよ」BWV147のアレンジ。これも原曲にほぼ忠実な演奏です。

 

 

7曲目は「アンナ・マグダレーナ・バッハのための音楽帳」に収められている1曲で小曲ながら楽しい。ここでも最初のテーマはジョンのチェンバロが、次にミルトのヴァイヴが弾き交互に歌い合います。9曲目の最後のバッハのオリジナルは原曲は「平均率クラヴィーア曲集」から第8曲の前奏曲BWV.853が選ばれています。ここでは原曲が原曲なだけにとてもブルージィな仕上がりでミルトのヴァイヴが冴え渡っていて、まさに「Tears from the Children」のタイトルにぴったりの演奏で、原曲とジャズのコラボレーションがみごとに調和してアルバム最後の曲に相応しい出来となっています。

 

 

 それに比べてルイスのオリジナルの4曲はバッハへのオマージュの形を採りながらも希代の名曲に引けを取らない傑作に仕上がっています。特に2曲目のBフラットのブルースと4曲目のAマイナーのブルースは聴きものでしょう。この2曲はジョンの作曲でこれまでのMJQの流れを汲む曲でもあります。これに対して6、8曲目はミルトの曲でミルトのヴァイヴがより自由にブルースしています。この対比がまた良いですなぁ。曲の配列といい構成といいすべてにバランスがとれていてこれぞMJQの真骨頂で解散前のMJQが到達した究極のコンセプトアルバムたる所以でしょう。