ブルーノ・ワルターのブラームス
曲目/
1.大学祝典序曲Op.80 9:19
2.悲劇的序曲Op.81 13:13
3.ハイドンの主題による変奏曲Op.56a 17:55
指揮/ブルーノ・ワルター
演奏/コロムビア交響楽団
録音:1960/01/16 1
1960/01/23 2
1960/01/18.27 3 アメリカン・リージョンホール
P:トマス・フロスト
米Odssey Y30851
ワルターのレコードの中でもこの一枚は日本では発売されたことがありません。そもそもアルバム自体がコンピュレーションものです。このOdsseyレーベルで発売されたのはアメリカ本国だけです。多分手元にあるのは初期ロットでしょう。何となれば普及しているOdssey盤は裏面の表示はちゃんとOdsseyのロゴが入っていますが、手持ちはColumbiaのマスターワークのデザインのままです。マトリックスナンバーはA面がXSM112581-2A、B面がXXSM112582-1AFとなっています。
このレコードがワルターの指揮したアルバムの海外盤第1号でした。日本ではワルターのステレオ録音は廉価盤では一枚も発売されなかったので、これは貴重なコレクションとなりました。また、当時の小生のレパートリーの中でブラームスは地味すぎて興味もなくほぼ眼中にありませんでしたから、このアルバムに収録されている曲はすべて初視聴となったものです。まあ、大学祝典序曲は旺文社の大学受験講座のテーマ曲でしたからメロディは知っていましたが全曲もこのアルバムで初めて知った次第です。ですから、この演奏は小生の中ではディフェクトスタンダードになっています。
この録音にはリハーサルも残っているようで、リハーサルで冒頭部分のリズムを何度も繰り返したという大学祝典序曲の緻密さも大家ならではの至芸です。冒頭から軽快で速めのテンポで聴きやすい演奏です。クレッシェンドしてかなりダイナミックになりますが、弦などはアクセントを良くつけていて、シャープで爽快です。コラール風の主題は広々とスケールのある表現です。有名なファゴットの主題も親しみやすい表現です。後半、リズミカルでドラマティックな所も垣間見えます。ツボはしっかり押さえています。最後はダイナミックです。録音も今聴いても遜色ないほど素晴らしく、録音に使われたリージョン・ホールは1930年に建てられた在郷軍人会のホールだったようですが、なかなか立派なホールです。
プロデューサーのジョン・マックルーアと
ブラームスが、同じタイミングで性格の異なる作品を生み出すことはベートーヴェンに倣ったことなのでしょう。「大学祝典序曲」Op.80と同時に作曲されたこの曲は、確かに同時に並べて聴くと悲劇性を十分に秘めています。そして、この「悲劇的序曲」は年齢を感じさせないシャープな名演です。他の曲では穏やかさが目立つワルターとコロンビア交響楽団ですが、この「悲劇的序曲」は全然違う演奏です。冒頭は切れ味鋭い弦で始まり、ワルターとは思えない凄い迫力です。基本的に円熟したワルターの指揮なので、静かな所も味わい深く聴かせてくれます。後半の静かな所は穏やかさのある演奏です。そこから情熱的に盛り上がり、ダイナミックに終わります。こういう刷り込みがあると、他の演奏が生ぬるく聞こえるものです。
レコードのB面はハイドン変奏曲1曲です。多分ブラームスの管弦楽作品だけでまとめたレコードは他にはなかったんじゃないでしょうか。普通は交響曲1曲とカップリングされて発売されますからねぇ。アメリカらしい発想のコンピュレーションアルバムです。LP時代レコードは片面20分に収めるというのが暗黙の了解でした。クラシックではこれはあまり当てはまりませんでしたが、ポピュラーではほとんどこの線に沿って録音されています。ですから、ヨーロッパは片面6曲づつの12曲が標準ですがアメリカで通常11曲収録が当たり前でした。これはアメリカではオートチェンジャー方式の再生が一般的だったことにも由来します。
話が横にそれましたが、1960年の1月に集中して録音されたブラームスの作品はどれを取っても名演ぞろいで粒が揃っています。このハイドン変奏曲も中庸なテンポながら一本線の通ったがっしりとした構成の中で揺るぎない音楽が紡がれていきます。多分このコロムビア交響楽団はそれほど大きな編成ではなかったようですが、多分ブラームスの時代のオケもこの程度の編成であったと思われます。そういう点を加味しながら聴くとすっきりとした弦の響きでありながらどっしりとした安定感のある音の捉え方は重心の低い響きが広がります。両面で40分強という演奏時間のためアメリカ盤はカッティングに余裕もあり、この演奏ではブラームスの音楽の持つダイナミックさを十分感じることができました。
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