アムステルダム・コンセルトヘボウの名録音 | |
1.シューマン/交響曲 第3番 ≪ライン≫ から 第1楽章 10:35
シャイー 1990/03
2.モルダウ 13:08
ドラティ 1986
3.ブラームス/大学祝典序曲 10:23
ハイティンク 1972
4.ベートーヴェン/交響曲 第3番 ≪英雄≫ から 第1楽章 14:58
ハイティンク 1987
5.マーラー/交響曲 第4番から 第4楽章 08:48
ハイティンク、エリー・アーメリンク(ソプラノ) 1967
6.ショパン/ノクターン 第2番 04:47
クラウディオ・アラウ 1977
録音/1960/06,09 コンセルトヘボウ、アムステルダム
フィリップス UCCP 3257

国内盤は廃盤になってしまっているCDで、前回取り上げた「ゾフィエンザールの名録音」と同じシリーズの一枚です。このCD、レーベルはフィリップスになっていますが、冒頭のシャイーによるシューマンはデッカのスタッフによる録音です。1990年の録音ですが何故か冴えません。しかし、一聴しただけでフィリップスの響きとは違うことが分ります。まあ、ここがフィリップスとデッカの録音ポリシーの違いなんでしょう。プロデューサーはアンドルー・コーナル、エンジニアはジョン・ダンカーリーがクレジットされています。タイトルには「アムステルダム、コンセルトヘボウの名録音」とありますが、決して名演と謳っていない所がミソです。この録音が発売されたのは1993年でしたが、評価は芳しいものではありませんでした。なぜ、この録音がこのアルバムの冒頭にチョイスされたか不思議でなりません。
この日本語版の解説も平林直哉氏が書いているのですが、ここでも中途半端な解説でこのCDの趣旨の解説にはなっていません。こういうコンセプトのCDですから曲の解説など必要ないでしょう。それよりも何故この録音がチョイスされたかを記するべきではないでしょうか。そういう点で不満は残ります。
シャイーは後にゲヴァントハウス管弦楽団とシューマンを再録していて、こちらはマーラー版の編曲を使用しての録音ということで話題になりましたが、ここでは従来の慣用版を使っての演奏です。で、テンポが非常に遅く音楽が流れないところが評価の低い所でしょうか。オーケストラを鳴らすことには定評のあるシャイーですが、どうもここはバランス重視で安全運転をしているような気がしてしまいます。
2曲目はドラティの演奏でスメタナの「モルダウ」が収録されています。ドラティはコンセルトヘボウと3度モルダウを録音していますが、これは最後の録音で、全曲盤からの演奏をピックアップしています。ここではドラティとコンセルトヘボウの相性の良さが表出していて、オーケストラビルダーとしての側面ではなく共に音楽を楽しむ環境の中で阿吽の呼吸で演奏しています。テンポもゆったりと取って雄大なモルダウを最大限表現しています。
3曲目から5曲目までは四半世紀以上も常任として君臨したハイティンクの演奏が並んでいます。60年代から70年代は日本では過小評価され続けたハイティンクですが、小生は早くから注目していました。レコードで最初のマーラー全集やブルックナー全集を揃えたのはこのハイティンクでしたし、何よりも、フィリップスによるコンセルトヘボウの録音が素晴らしくて、レコードで聴く響きはウォームトーンで非常にバランスの取れたもので我が家のオーディオ装置と相性が良かったのが最大の要因かもしれません。ここではブラームス、ベートーヴェン、そしてマーラーとドイツ本流の作曲家の作品が並んでいます。
ブラームスは「大学祝典序曲」です。アナログ時代の録音で、いぶし銀のサウンドの中にスケール感の大きな音楽が展開しています。この作品にはシンバルやバスドラム、トライアングルなどのだ楽器が使われていますが、それがすべてクリアーにバランスよく聴き取ることが出来ます。それでも全体のバランスは崩れていないんですな。理想的なこの曲の録音といえるのではないでしょうか。この選曲には納得です。
次のベートーヴェンの交響曲第3番の第1楽章はハイティンクのコンセルトヘボウへの置き土産のような録音です。日本でもこの録音を含んだ交響曲全集はレコードアカデミー賞に輝いています。ハイティンクは最初もう一つの上人を務めていたロンドンフィルと最初のベートーヴェンの交響曲全集を録音していますが、コンセルトヘボウとはこれが最初にして今のところ最後です。ただし評価としては地味で実直なスタイルはそのままというもので、あまり特色が無いような印象が持たれています。しかし、よく聴き込むとハイティンクはかなり色々な仕掛けをしています。リズムやアクセントは結構強めの処理をしていますし、ティンパニは右に配置していてこれもかなり強めに叩かせています。そのため非常に歯切れのいいエロイカになっています。
このアルバムで一番古いのがマーラーの交響曲第4番ですが、これが意外としっかりしたサウンドで、当時のフィリップスの録音の良さを堪能することが出来、レコードで聴いたイメージが蘇って来ました。アーメリンクのソプラノも清楚で素敵です。しかし、もう今ではこの録音はすっかり忘れ去られているのが残念です。
最後はピアノ曲としてアラウの演奏するショパンのノクターンが納められていますが、こんな大ホールで本当に収録したものなのでしょうか。詳しいデータがまったく無いという中途半端な内容でマニア環納得させるものでないのが残念です。
残念ついでに、ハイティンクものも良いのですがコンセルトヘボウにはコリン・デイヴィスやジョージ・セル、大御所のベイヌムなんて指揮者が録音したソースもたくさんあるのですから、もう少し気の効いた選曲をして欲しかったものです。