クラシックへの挑戦状 | geezenstacの森

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クラシックへの挑戦状

著者・大友直人

出版・中央公論社

 

 

 指揮者 大友直人、初の著書!小澤征爾に胸ぐらをつかまれ、バーンスタインに日本のオケを嘲笑された若き日のこと。世界に背を向け、日本で活動し続けた理由、クラシックは興行であるという原点に立ち返る意味を自問自答し続けた日々を、余すことなく書ききった。音楽とは何かクラシックとはなにか、指揮者とはなにかを突き詰めた渾身の書下ろし。「なにが、世界だ! なにが、芸術だ!いまこの目の前の観客に感動を与えられなくて、なんの公演なのだろう。興行としての原点を忘れたから、クラシックは魅力を失ったのではないか……。」

 

 大友直人氏とはほぼ接点がありません。わずかに実演を聴いたのは2017年の大阪芸術大学オーケストラのプロムナードコンサートを聴いたぐらいです。中部圏のオーケストラとはほとんど接点がありませんから認知はそんなものでしをう。レコードでも存在は薄く、伊福部作品や京都市交響楽団との第九、そして、冨田勲の音楽集でかすっているだけです。ですからあまり纏まった印象はありません。この本の章立てです。

 

目次

■第一章 「音楽家を目指す」と宣言する

■第二章「世界」がなんだ! 主戦場は日本と決める

■第三章  躍る沖縄市民 琉球で考えたこと

■第四章 子どもたちを育てる

■第五章 クラシックだけじゃない音楽の魅力

■第六章 これからのクラシック

 

 前半は指揮者大友直人の半生記にもなっています。まあ、この辺りのことはこちらで詳しく語っていますから割愛しますが、小学生でN今日の定期会員になっていたというぐらいですから早熟だったんでしょう。

 

 そして、中盤からは現状のクラシック界の状況を憂いた発言がどんどん飛び出してきます。それがこの本のタイトルとなっていると言ってもいいでしょう。

 

「クラシック音楽界は、残念ながら衰退の道を辿っているといわざるをえません。私自身、自戒の念をもって、これまで私たちは、クラシック音楽のすばらしさを人々に知ってもらうための十分な努力をしてきたのか、今の世の中に受け入れてもらえる、適切な内容の音楽を提供してきたのかということを考えています」(p. 140)という著者の問題意識が述べられています。ホールを満員にしても採算が取れず、助成金が不可欠なクラシック音楽界の道は険しいという指摘です。それに加えて、コンサートに足を運ぶのは今や60歳以上のシルバー世代が大半を占めているという現実。要するに若返りができていないのですなぁ。

 

 氏の立場はクラシックもポップスも選り好みしない、音楽は音楽で音楽を楽しむことができるなら垣根はないという発想です。

ただ、日本の環境はいつまでたっても閉鎖的で、オーケストラに外国人が少ないという問題もあります。島国根性とでもいうのでしょうか。ナショナリズムから脱却できていないのでしょう。日本のオーケストラで唯一そういう枠を取り払えているのがさいとう・キネン・オーケストラでしょうか。

 

 ところで大友氏のスタンスは日本に拠点を置いて海外へは打って出ないという考え方です。これはバーンスタインに誘われてタングルウッドへ勉強に出かけた折に、日本のオーケストラは井の中の蛙でその殻を破れないとバーンスタインに言われたことでおさへわ政治に楯突いて指揮をしなかったというエピソードが書かれています。それが第二章のタイトルにも表れています。この部分だけ切り取ると大友直人は第2の山本直純になろうとしているのかと勘ぐってしまいます。ただ、それにつけてはまだまだ足元にも及んでいないなぁと感じる点でもあります。

 

 氏は2020年から京都市立芸術大学客員教授に就任して、少なからず後進の指導というポジションに立つ決断をしています。ここから、理想を語っている子供たちの絵水彩教育の場にもどんどんと降りていってもらい、音楽界の「博士ちゃん」みたいな光る卵を引っ張り上げていってもらいたいものです。