オーケストラ名曲集
クラシカル・ムード
曲目/
英フィリップス 6747199
リリース 1978
これもフィリップスの名曲集ですが、普通の名曲集とはちょっと違います。ジャケット表面に目立つようにシールが貼ってありますが、2枚組で1枚の値段ということです。どちらかというとサンプラー的な側面が強い内容で、4人のアーティストにスポットを当ててそのアーティストの演奏のみを収録しています。ただ、レコードの一面ごとに一人のアーティストを当てるわけではなく、一面づつ考えられた構成で曲やアーティストを散りばめています。こういうレコードでは珍しく、コンピュレートした人物の名前まで記載されています。何者かは知りませんが、Derek Hagoodの名前がクレジットされています。
登場するアーティストはアルトゥール・グリュミオー、ネヴィル・マリナー、クラウディオ・アラウ、そしてコリン・デイヴィスです。収録されている曲の解説も簡潔ながら書かれていて、最後に各アーティストのオススメ盤が列記されています。この名曲集登場するアーティストの顔ぶれからもわかるように、管弦楽作品だけでなく、ヴァィオリンやピアノ曲も網羅されています。ジャケットに第2集とうたっていますが、第1集で誰が取り上げられているかという情報は全く告知されていません。
冒頭に収録されているのはマリナー2度目の全曲録音です。かつての最初の録音でのダート版を使用した当時の尖った作風から一変、豪華な共演陣と共に録音された現代でも通じるスタンダードな演奏になっているのがこれらの演奏の特徴です。このブランデンブルク協奏曲では、シェリングやランパル、ペトリ、ホリガー、マルコムといったソリストの音楽性&技術力の高さと、より自然なマリナーの作風との合致が素晴らしい効果を産み出しています。もちろんマリナーの時代考証に対する意識は後退している訳では決してなく、以前より進歩した当時のスタイルをアイデア豊かに、積極的に取り上げています。豪華ソリストとオケとのアンサンブルも見事で、これらのマリナー盤の出現が、それまでの古楽演奏のマニアック路線と決別し、モダン・スタイルとの融合を試みた演奏により多くのファンを獲得したという面において、歴史的な評価を獲得したと言っても良いでしょう。第3番の第一楽章です。
フィリップスのヴァイオリニストでは、シェリングとこのグリュミオーが双璧でした。ただ、個人的にはシェリングの方をよく聴いていたのでグリュミオーはほとんど蚊帳の外でした。ここではピアニストのスシュトヴァン・ハディが伴奏を勤めていますが、自身もピアニストとしての録音も残しており、多重録音でブラームスのヴァイオリンソナタを録音しているほどです。グリュミオーがヴィオッティのヴァイオリン協奏曲第22番を録音しているのが嬉しいところで、そんなところは注目していました。ただ、アッカルドの陰に隠れてほとんど忘れられています。独特のふくよかな音色はフィリップスの特性に合っていたんでしょうなぁ。
コリン・デイヴィスはその初期にEMIに録音していたことは知っていましたがこのフィリップスにも録音を残していたとは知りませんでした。まあ、のちにはコンセルトヘボウ管弦楽団とハイドンやベルリオーズを録音していますが、キャリアの初期はBBC交響楽団とも録音していたんですなぁ。ほとんどこの時代の演奏は忘れ去られていますが、このレコードによってその一端を知ることができました。ただ、世の中はその時代のデイヴィスは興味がないと見えて、ネットには音源がありません。ここではロンドン響を指揮したベルリオーズを取り上げてみました。デイヴィスはある意味ベルリオーズの対価ですからねぇ。
クラウディオ・アラウはアルフレッド・ブレンデルとともにフィリップスを背負っていました。でも、キャリアの前半はEMIと契約していたんですなぁ。がリエラと入れたベートーヴェンのピアノ協奏曲全集なんか昔よく聴いたものです。でも、今回調べていてベートーヴェンのピアノソナタ全集は1度しか完成させていないんですなぁ。それもステレオ初期の1962年から64年にかけてのものです。晩年はデジタル時代になって再チャレンジしていたんですが、ついに完成することなくなくなっています。録音できなかったのは「月光」ソナタと「ハンマークラヴィーア」でした。なことで、ここに収録されているのは唯一のアラウのステレオ録音の「月光」ということになります。テンポが揺れる第時代的な演奏ですが、バックハウスとは違う風格があります。
そして、もう一曲リストのリゴレットによるパラフレーズです。なかなか通な選曲がなされていますなぁ。個人的にこの曲、このアラウの演奏で知ることになりました。
バッハで始まり、バッハで終わるなかなか考えられた構成のレコード2枚組です。最後の紹介のレコードも一捻りあって興味を引きますが、デイヴィスとBBC響の演奏は今はどうなっているのでしょうかねぇ。