トスカニーニ/イタリア、宗教改革 | geezenstacの森

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トスカニーニ・コレクション

メンデルスゾーン/イタリア、宗教改革

 

曲目/メンデルスゾーン 

交響曲 No.4 イ長調 Op.90 「イタリア」

1. Allegro vivace    7:35

2. Andante con moto    6:00

3. Con moto moderato    6:05

4. Saltarello. Presto    5:53

交響曲 No.5 ニ短調 Op.107 「宗教改革」*

1. Andante - Allegro con fuoco    10:41

2. Allegro vivace    5:35

3. Andante    3:09

4. Andante con moto - Allegro vivace (Choral "Ein' feste burg ist unser Gott!")    10:24

劇音楽「真夏の夜の夢」Op.61 - 2. Scherzo **   4:28

メンデルスゾーン 弦楽八重奏曲変 ホ長調 Op.20  3. Scherzo. Allegro leggierissimo***    3:55

 

指揮/アルトゥーロ・トスカニーニ

演奏/NBC交響楽団

録音/1954/02/28 

   1953/12/13*   カーネギー・ホール

         1946/11/06**    NBCスタジオ3-A

         194506,01 ***    NBC8-Hスタジオ

P:ジョン・ファイファー
 

RCA 88697916312-17

 

 

 調べてわかったのですがトスカニーニは1867年生まれなので、このメンデルスゾーンの「イタリア」を録音した1954年2月当時は、すでに86才の高齢でした。しかもこの年の4月には最後のコンサートを行って、またこの時の録音が、涙無くして聴けないのですが、このイタリアは、そのラストコンサートのわずか2か月前の録音なんですね。しかし、そんな時期にもかかわらず、なんと瑞々しく、そして第2楽章、第3楽章の哀愁は、なんと素晴らしいんでしょうか。

 

 手元にあるレコ芸の名曲名盤というムックでは1960-70年代はずっとトスカニーニのイタリアがトップに輝いていました。評論家が世代交代した80年代になるとアバドやレヴァインなんて名前が登場してきますが、それでもトスカニーニの演奏はボスと3から陥落すろことはありません。特にレコ芸の読者が選ぶ「リーダズ・チョイス」というムックでは1990年代に入ってもこのトスカニーニがトップの座であり続けています。と言っても小生がこのトスカニーニの「イタリア」に出会ったのはこのトスカニーニ全集が最初でした。

 

レコード時代のアルバムRVC-1539

 

 第1楽章はいつものスタイルで早いテンポで透徹した表現と推進力で進みますが、これがとても瑞々しいんですね。トスカニーニのイタリア人としての歌心を感じます。トスカニーニの演奏というと、どの演奏も録音のせいかデットな音質で好みではないのですが、このイタリアではそれがあまり感じません。データをチェックしてみると、一応ライブということになっています。そう、この録音は1954年2月28日のカーネギーホールでの演奏会を収録したものです。ところがこの録音にはさらにデータが付け足してあって、26、27日にリハーサルをしているのですが、その音源も使ってマスターが作られているのです。ショゥ性も第1楽章の主題提示の後でちょっと音がクリップする箇所があったので再確認の意味でジャケットでデータを確認したらそういう表記があったので納得したものです。また、以前単独で発売された時は演奏の後にリハーサル風景が収録されたものが発売されたこともあります。また、最後まで聴くと分かりますが、演奏終了後の拍手がカットされています。明らかに編集されたものだということがわかるのですが、このあたりの事情はよく知りません。データに再発売のプロデューサーの名前が書かれていて、そこにはKazuie SugimotoとRyusuke Kozawaという2名の日本人の名前が書かれています。ただ、レコード時代のデータは確認できませんでした。

 

 第2楽章の主題の哀愁は、巨匠トスカニーニの孤高の境地だと思う。クレンペラーに「指揮者の王」と讃えられた男の、すばらしくロマンにあふれた歌いまわしです。イタリア人気質のカンタービレが心地良いです。トスカニーニというと速いテンポと正確無比なリズムがとにかく話題になりますが、決して音楽は一本調子ではなく自在に伸縮を繰り返していて音楽の表情に変化を与えています。

 

 第3楽章は、南国のイタリアならではの陽光の眩しさが目に浮かぶのどかな音楽ですが、弦楽器のむせぶような響きは、チェロ奏者としてのノウハウを持ち合わせていたトスカニーニならではの歌い回しでしょう。

 

 そして、第4楽章の緊張感と弦楽器を中心とするアンサンブルの巧みさは圧巻です。そしてティンパニの鋭い響き。これが何と言ってもトスカニーニの特徴を形作っています。まるで雷雨でも突然襲ってきたような激しさは、最初耳にした時はびっくりしたものです。この情熱に満たされたサルタレッロの熱狂的なリズムを鼓舞するような響きは多分トスカニーニにしかできないでしょう。ちなみにこの曲、イ長調に始まり、イ短調に終わるという、「長→短」というめずらしい構成で全曲を締めくくります。まさにスタリアジンの感性が爆発した名演と言ってもいいでしょう。

 

 

 トスカニーニはイタリア人なのでカトリックだと思いますが、そこはあまり関係ないのでしょうかね。「宗教改革」のネーミングにはあまりとらわれていないかのように、第1楽章はトスカニーニとしては軽快な響きで始まります。序奏部の敬虔な主題は《ドレンデン・アーメン》を借用した基本動機でカトリック教会をあらわす旋律だ。17世紀頃よりドレスデンの宮廷教会堂で用いられ、讃美歌567番の3として歌われているもの。管楽器の放つ鮮明なコラールとシルキーな弦の奏する〈アーメン〉の上昇旋律が静謐な気分をしっとりと湛えています。主部に入ってからストレートで物凄い情熱的な盛り上がりで、度肝を抜かれます。圧倒的にドラマティックな世界観で、トスカニーニが、メンデルスゾーンの交響曲の中で、この曲を最も高く評価していたというのがうなづける演奏になっています。

 

 第2楽章は穏やかなスケルツォ風音楽です。記念祭を祝う人々の喜びを歌った舞曲は、スケルツォの達人”といわれたメンデルスゾーンらしい軽快な音楽で、〈アーメン〉の進行形と反行形を用いて高雅で妖精的な雰囲気を漂わせています。この曲でもトスカニーニのティンパニの扱いは独特で、決してメンデルスゾーンの音楽がなよなよとした女性的な音楽ではないということを知らしめています。

 

 続く第3楽章は、〈アーメン〉の形を使った歌謡調の調べはロマンティックの極みで、美しいカンティレーナをしっとりと紡ぐボストン響の弦の美しさに酔わされてしまいます。とくに第2楽句(21小節)の無言歌はこの楽章の白眉であり、哀しみを湛えた弦楽が啜り泣くように メランコリックな表情を擦り込んでゆくところは涙もの。第1楽章の第2主題を力強く回想し、“来たる勝利”への高まりを聴き手に早くも確信させるあたりがトスカニーニらしい演出です。

 

 「宗教改革」というタイトルにふさわしく、終楽章もフルートの序奏主題は、ルターが民謡から着想したコラール《われらが神は堅き砦なり》(Ein feste Burg ist unser Gott)で、賛美歌267番《神はわがやぐら》を引用したもの。ボストン響の輝かしいブラスのコラールが魅力たっぷりで、コントラ・ファゴットとセルパン(教会音楽用の低音楽器でテューバで代用)がくわわって、屁のように「ぶりぶり」と生々しく聴こえてくるのが驚きです。その明晰さ、しなやかな流動感、立体的な構築は、この作品の求めるすべてを具現しているかのようなアプローチで、荘重な趣きを力強く表現して、宗教的素材をもって壮麗な記念祭の歓喜を示した立派な演奏で、小生はこのトスカニーニの演奏でこの交響曲第5番「宗教改革」を初めて理解したように思います。

 

 

 

 

  このアルバムには、他のアルバムにはない、真夏の夜の夢からスケルツォと弦楽八重奏曲変ホ長調の第3楽章か収録されています。おまけ的な曲目ですが、弦楽八重奏曲変ホ長調は当時よくオーケストラのアンコールピースとして取り上げられていたのか、ミュンシュも録音していました。今は室内オケがこの曲は良く取り上げますが、フル・オーケストラはあまり演奏しなくなったのは寂しいところです。