クレンペラーの真夏の夜の夢 | geezenstacの森

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クレンペラー

真夏の夜の夢抜粋

 

【曲目】メンデルスゾーン

劇付随音楽≪真夏の夜の夢≫ (抜粋) 

1.序曲 作品21 :12:59

2.スケルツォ 作品61-1 05:34

3.妖精たちの行進 作品61-1a 01:20

4.妖精の歌 作品61-3 04:44

5.間奏曲 作品61-5 04:01

6.夜想曲 作品61-7 07:07

7.結婚行進曲 作品61-9 05:03

8.葬送行進曲 作品61-10a 01:04

9.無骨者の舞踏 作品61-11 01:53

10.終曲 作品61-13 04:54

序曲「フィンガルの洞窟」op.26

 

ソプラノ/ヘザー・ハーパー  

メゾ・ソプラノ/ジャネット・ベイカー

指揮/オットー・クレンペラー

演奏/フィルハーモニア管弦楽団、合唱団

 

録音/1960/2/16,18、1961/1,28,29 アビー・ロード第1スタジオ

P:ワルター・レッグ、ヴァルター・イェリネク

E:ハロルド・デヴィッドソン
 

東芝EMI AFRC-532 原盤2YJ1185,6

 

 

 

  クレンペラーはこの純粋にロマンティックな曲が好きだったらしく、2人の歌い手とコーラスが必要であるにもかかわらず度々演奏していたようです。過去にはE.シューマンを迎えて演奏したこともありましたし、ブダペスト時代はこの曲を使ってこの劇を上演したことをクレンペラー自身話していたことを読んだことがあります。ハンガリー語によるものだったのでしょうが一体どんな演奏だったのでしょうか。ただ、ここでは歌は英語バージョンで収録されています。


 この曲は序曲を含め全部で14曲から成りますが、クレンペラーはこのうち4つの「メロドラマ」を除く10曲を演奏しています。抜粋と表記されていなくてもこれらの曲を省いて演奏された盤は多く、逆にレコード時代は、全ての曲を演奏している盤はそう多くはなかったように思います。
 
 個人的にはメンデルスゾーンというと、ヴァイオリン協奏曲に代表されるようにロマンティズムにあふれたちょっと女性的な雰囲気を感じていたものですが、ここでのクレンペラーはしっかりとした骨組み、シェークスピアの原作から連想される幻想世界というより現実的なオペラの世界を感じさせます。序曲の密やかな弦の出だしから、少しばかり足取りはスローでありながらもドイツの深い森を思わせるような神秘性を感じさせる剛毅な演奏です。冒頭のヴィオラ、チェロ、ファゴットによるフレーズの繰り返しから随分ごつごつした雰囲気です。また47小節からの低弦によるカンタービレも一般にはもっと抑揚を付けて強調するところですが、クレンペラーは例によって愛想のない演奏になっています。波のうねりを象徴する低弦の上昇下降の繰り返しの上に切れ切れになった旋律の影が見え隠れこの曲だけで立派にひとつの世界を作っています。フィルハーモニア管のちょっと渋みのある響にも支えられて幻想的ながらもどっしりとした響きが感じられます。


 2曲目のスケルツォはリズム良く動き回る弦に木管が絡む音楽はいかにも妖精が飛び回る様を彷彿とさせる名曲だと思います。この曲と次の行進曲は一般に軽めのリズムで妖精劇の雰囲気を指向する演奏が多い中、遅めのリズムで一音一音大事にした純粋に音楽的な演奏と言えるのではないでしょうか。


 4曲目の「妖精の歌」と終曲には妖精の歌が入ります。歌唱はシェイクスピアの作品ということで原作通りの英語で歌われています。ここでドイツ語を使わず、またドイツの歌い手を使わなかったのはEMIというイギリスのレコード会社故のことだろうと思われますが、この曲のある種の軽さから考えるときつい響きのドイツ語より英語のほうが似合っている感じです。特に全体に重い響きのクレンペラーの演奏にあっては、柔らかい英語の響き、とりわけ耳に心地よい lullaby と good night の響きが美しいアクセントとなっているように思います。


 ここの2人のソリストは妖精1にH.ハーパー、妖精2にJ.ベイカーですが、この2人の歌唱が素晴らしく、クレンペラーの大きな土台の上にのったお伽話を語りかけるような豊かな表情は、良く揃ったスタイルとともに理想的な歌唱と言えます。絶望的に森を彷徨うハーミアの心情を表現した間奏曲と素朴なホルンが絶品の夜想曲。これもクレンペラーの最も得意とする音楽でしょう。


 序曲とともに有名な結婚式で必ず使われる有名な「結婚行進曲」はあまりに堂々としすぎていて、実際式で演奏されるにはちょっとそぐわないほどの堂々とした演奏です。


 9曲目、とぼけた感じの葬送音楽は、劇中劇の一組の男女ピラマス王とシスピーのための音楽で、ピラマスが自殺した後に演奏されるようですが、職人達のとぼけたドタバタ劇(本来は真面目な劇なんでしょうが)の雰囲気とクレンペラーの木訥な気質が妙にマッチしていて、何の造作もないのにいい雰囲気が出ています。フィナーレも序曲と同じく構成と情感が均衡した充実した響きで締め括っています。全体に晩年のクレンペラーの特徴がよく現れた演奏で、躍動感よりスケール感を感じさせる演奏です。この曲の本来持っている幻想性よりもドラマ性を前面に出しているという点では他に例を見ない仕上がりになっていて、

 

 

 同じアプローチの序曲「フィンガルの洞窟」はLP時代は交響曲第3番「スコットランド」とよくカップリングされていたものです。ここでは日本盤ならではのカップリングとなっています。この曲に伴う何となくほの暗いムードは感じられますが、旋律線をアクセントをつけて打ち出しているためにあまり音楽が流れずヘブリディーズ諸島」の荒波をあまり感じられないのはちょいと残念なところです。

 

 

 演奏時間はあまり変わりませんが、劇的演奏ということではペーター・マークの同時期の録音の方が小生には好ましく思われます。