トスカニーニ/ アメリカ管弦楽曲集 | geezenstacの森

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トスカニーニ/ アメリカ管弦楽曲集

 

曲目/

1.ガーシュウィン/2.パリのアメリカ人 (1928)    16:19

2.スーザ(トスカニーニ編) 行進曲「エル・カピタン」 (1896)    2:12

グローフェ 組曲 「グランド・キャニオン」(1931) 

3. 日の出    5:06

4. 赤い砂漠    6:13

5. 山道を行く    7:20

6. 日没    4:34

7. 豪雨    8:28

8.バーバー 弦楽のためのアダージョ (1936)    7:17

9.スーザ(トスカニーニ編) 星条旗よ永遠なれ (1896)    3:19

10.スミス 星条旗 (アメリカ国家,1780)    1:21

 

指揮/アルトゥーロ・トスカニーニ

演奏/NBC交響楽団

 

録音 1945/05/18 1,2,9 NBC 8Hスタジオ

   1945/09/10 3-7 カーネギー・ホール

   1942/03/19 8,10 カーネギー・ホール

 

RCA 8869796312-38

 

 

 3月25日はトスカニーニの誕生日でした。今年は155周年です。最近トスカニーニを取り上げているのもそんな理由があります。世間は誰も祝っていないようなので一人で祝っています。手元の音源は「トスカニーニ・コンプリートRCAコレクション」に収録されている一枚です。LP時代は下のようなジャケットで発売されていました。最初にCD化されたのは1997年でしたが、LPのデザインを踏襲していました。

 

 

 アルトゥーロ・トスカニーニ&NBC交響楽団のLP初期録音はニューヨークのラジオ・シティにあったNBC-8Hスタジオで行われたものが多かったのですが、放送用スタジオだったことからもレコード録音にはあまり評判が良くなかったようで、残響の少ないデッドな音で損していました。 後に録音会場はカーネギー・ホールも使用されるようになり今回紹介するCD「アメリカ管弦楽曲集」はその両方が使用されています。この収録作品のうちグローフェ「グランド・キャニオン」組曲とガーシュイン「パリのアメリカ人」はこの録音が唯一の録音です。またバーバー「弦楽のためのアダージョ」の世界初演はこのコンビで1938年に行われています。スーザの「エル・カピタン」と「星条旗よ永遠なれ」並びにスミス「星条旗」(アメリカ国歌)はトスカニーニ自身の編曲による版による演奏となっています。

 

 最初の「パリのアメリカ人」です。1945年5月18日の録音と記されていますから、ドイツが降伏した10日後くらいのことになり、まだアジアでの戦争は続いていました。日本国内では「欲しがりません勝つまでは」などというスローガンを押し立て、本土決戦に備えていた時代です。

 

 トスカニーニがとことん嫌ったナチス・ドイツが降伏した喜びも混じっていたのでしょうか、トスカニーニ指揮するところのガーシュウィンですが、もちろんモノラル録音ではあるものの、予想していた以上に生き生きとした音楽を聞かせてくれていて、かなりびっくりしました。録音状態は年代を考えれば、それほど悪いものではありません。トスカニーニは20世紀初頭から大西洋を行き来してアメリカでも音楽活動を盛んに行っていましたし、ヨーロッパでも流行のジャズはかなり耳にしていたでしょうから、それほど違和感はなかったのかもしれません。加えてNBCsoのメンバーは、トスカニーニ以上に手慣れた音楽であったでしょうから、ジャズ・テイストいっぱいの響きはお手のものであったでしょう。それにしても、随分派手にオーケストラを鳴らしていて、この音楽を楽しんでいる雰囲気が伝わってきます。

 

 

 

 つづく、行進曲「エル・カピタン」も「ラプソディ・イン・ブルー」と同日の収録ということでテンションアゲアゲです。個人的には中学生時代は行進曲マニアでしたからスーザの一連の行進曲はよく聴いていました。この曲や「士官候補生」、「美中の美」、「雷神」、「ワシントンポスト」などよく聴いたものです。ド派手な編曲で実際の行進テンポよりアップテンポで演奏されています。マーチング・ベルを目一杯鳴らして、楽しい雰囲気を盛り上げています。

 

 

 グローフェの「グランド・キャニオン」は収録曲の中では新しい録音です。こちらはカーネギー・ホールでの収録とあって音質的にはデッドさが無く聴きやすい音になっています。トスカニーニのテンポはイン・テンポで音楽としての遊びの要素は少ないのですが、真摯に音楽と向き合っている緊張感は伝わってきます。こういう作品はフルトヴェングラーは絶対録音しなかったレパートリーですからトスカニーニの独壇場です。きっちりとした音楽づくりの中に曲の持つダイナミックさは十分に盛り込んでいます。第3曲の「山道を行く」などはもっともジャズ的な要素に溢れた曲ですが、ここではコンマスのミッシャ・ミシャコフの自由なソロを堪能させていますし、オーボエの粘りのあるソロやアンサンブルを楽しむことができます。

 

 

 このCDでの注目はバーバーの「弦楽のためのアダージョ」でしょうか。1937年に弦楽四重奏曲第1番の第2楽章として書かれたものが原曲です。翌年の1938年にオーケストラ用に編曲されたのが「弦楽アダージョ」で、原曲の弦楽四重奏曲第1番とオーケストラ用に編曲されたこの曲も伯母夫妻に捧げられています。そして、この曲は初演は1938年11月5日、ニューヨークにおいて
トスカニーニ指揮、NBC交響楽団によって行われ​​​​​​​ています。アメリカでは、この曲が有名になったのは、ジョン・F・ケネディの葬儀で使用されてからである。そのため個人の訃報や葬送、惨事の慰霊祭などで定番曲として使われるようになったようです。
7分ちょいの曲ですが、以来弦楽四重奏よりもこの編曲版の方が有名になっています。

 

 トスカニーニの演奏はどちらかというとインテンポですが、聴いた感じは決して早いという印象はありません。オペラ出身のトスカニーニはこのテンポの中にもドラマが凝縮されていて、ヴァイオリンの音色が透明な美しさを感じさせられます。単に静かな曲との印象だけではなく美しく清楚な調べ、抒情性、束の間ですが感じられる感情の高揚は厳粛な雰囲気にさせられ、早々のシーンで使われるのにTPOが合致しています。もっともバーバー自身は、「葬式のために作った曲ではない」と不満を述べていた​​​​​​​そうですけどね。

 

 

 

 

 

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