騒がしい楽園 | geezenstacの森

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騒がしい楽園

 

著者:中山七里
出版:朝日新聞出版 朝日文庫



 

 ある出来事をきっかけに都内の幼稚園へ赴任することになった神尾舞子。騒音問題や親同士の確執など様々な問題を抱える園で、小動物が何者かに惨殺される事件が立て続けに起き、やがて事態は最悪の方向へ―。『闘う君の唄を』に連なるシリーズ第2弾。‥・データベース‥・

 

  2010年に『さよならドビュッシー』でデビューした中山七里氏の10周年企画として、なんと12ヶ月連続で新作を刊行するという大胆な企画の冒頭を飾った作品です。ちなみにこの年刊行されたのは次の12作です。

 

1月 『騒がしい楽園』 朝日新聞出版
2月『帝都地下迷宮』 PHP研究所
3月『夜がどれほど長くとも』 角川春樹事務所
4月『合唱 岬洋介の帰還』 宝島社
5月『カインの傲慢』 KADOKAWA
6月『ヒポクラテスの試練』 祥伝社
7月『毒島刑事最後の事件』 幻冬社
8月『テロリストの家』 双葉社
9月『隣はシリアルキラー』 集英社
10月『銀齢探偵社 静おばあちゃんと要介護探偵2』 文藝春秋
11月『復讐の協奏曲』 講談社
12月『境界線』 NHK出版

 

 いやはや、出版社12社を横断して新刊を出すってのもなんだか凄いことですなぁ。

 

 さて、その冒頭を飾る一冊、田舎の幼稚園から世田谷の若葉幼稚園に転任してきた神尾舞子が主人公です。赴任早々騒音問題、待機児童、都内の幼稚園が抱える様々な問題に直面します。騒音問題なんて、リアルタイムで長野市の「青木島遊園地」の対応がクローズアップされています。最初は市長は廃止は既定方針とかなんとか言っておいて、最近では見直しも視野に地元の意見を聞く会なんかを開催して、問題を先送りしていますからねぇ。

 

 そんな中、小説では幼稚園で生き物が殺される事件が続き、やがて殺人事件に発展していきます。生き物は魚類から爬虫類、さらにはアヒル、猫とエスカレートしていきます。同僚の池波先生は次は哺乳類だと大胆に予測しますが、案の定舞子先生の担任クラスの園児の結愛が殺害されてしまいます。それも、その日防犯パトロールが予定より30分早く終わったので喫茶店で時間を潰している間に園児の死体を正門に置かれてしまった舞子と池波の2人と、この殺人事件が発生する前に散々園内で、動物の殺傷事件が発生していたにも関わらず、犯人を特定できなかった生活安全課の刑事がともに職場で四面楚歌の状態となり一発逆転のため協力関係を築き事件を解決する方向に傾いていきます。

 

 殺人事件にまで発展したため、保護者会でのやり取りやマスコミの執拗な取材は読んでいて実に嫌な嫌な気持ちになります。幼稚園の事なかれ主義の園長の対応にも呆れますが、それに翻弄される先生の対応も大変です。親同士に確執があっても子ども達には関係ありません。この事件も子供そっちのけで騒いでいるのは親たちです。いわゆる、モンスターペアレントと地元の株の古株の町内会長。騒がしいのは子どもではなくて、周りの大人達だろうと言いたくなります。

 

 最初に登場した生活安全課の古尾井刑事は当初は無能な刑事として存在感がありませんが、殺人事件が起こってからは捜査担当から外されていますが後半は俄然活躍します。神尾舞子・池波智樹先生と組んで、当初の小動物殺しの事件を一から洗い直します。このくだり、地域住民に聞き込みをしなかったのかと思われるような展開で突っ込みたくなりますが、まあ犯人が明らかになって行きます。

 

 でも、この件は序章でしかありません。園児殺しの真犯人は別にいるんですなあ。この解決に向けては舞子先生が一芝居打つわけですが、こちらの方はあっさりと解決してしまいます、それもあり、何か肩透かしを喰ったような終わり方です。

 

 ここでは、待機児童問題、相続問題などが絡みいい展開なのですが、後半は尻切れトンボのようなエディングで消化不良気味です。

 

 ただ、池波が語る次の言葉にはモンスターの核心が語られている気がしました。

 

「もし自分の子供だからどんな風に育てようが自分の勝手だとおっしゃるのであれば、そもそも 子供が自分の所有物であるという認識がとんでもない誤解だというより他にありません」「彼女は子供より自分が可愛い人間なんですよ。そういう親は、大抵どこかが歪んでいます」「大人だからって子供より勝っている部分なんて言葉と経験値と世渡りくらいじゃないのかな。誰でも感情に走る時って、精神年齢は五歳に戻っているもの」。